こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
~膝痛は「老化のサイン」ではなく「対策できる症状」~
日本は世界有数の長寿国。
しかしその裏で、「健康寿命」を短くしている主な原因のひとつが膝の痛み(変形性膝関節症)です。
特に中高年の女性に多く、男性の約2倍の発症率とも言われています。
「少し痛いだけ」と放っておくと、やがて歩行困難や筋力低下を招き、介護が必要になるケースも少なくありません。
厚生労働省の調査でも、介護が必要になった主な原因の上位に「関節疾患」が挙げられています。
つまり、膝痛は「放っておけない国民病」なのです。

■ 従来の治療法:通うのが大変な「教室型プログラム」
これまで膝痛改善のために広く行われてきたのは、
スポーツクラブやリハビリ施設で行う教室型プログラムです。
たとえば:
- 大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)トレーニング
- 股関節の内転・外転運動
- ストレッチング
- ペタンクなどの軽運動
などが中心でした。
確かにこれらは効果的ですが、問題もあります。
「膝が痛くて外出がつらい」「近くに施設がない」「忙しくて通えない」——
そんな人たちにとって、通所型のプログラムはハードルが高いのです。
■ 新しい試み:「通信型膝痛改善プログラム」
こうした課題に対し、研究チームは、
「通信型」膝痛改善プログラムという新しい方法を考案しました。
これは、通わなくても自宅で学び・実践できる仕組みです。
参加者には膝痛に関する印刷教材が配布され、
約3か月間、自分のペースでウォーキングや筋トレ、ストレッチなどを行いました。
さらに、毎月末にはアンケートを郵送でやり取り。
まるで「通信教育」のように、自分の痛みを自分で管理していくプログラムなのです。
■ 調査の概要
対象は「膝に痛みを感じている60歳以上の女性」。
新聞折り込みチラシで募集し、応募した方のうち適格と判断された人を、
- 通信型グループ
- 教室型グループ
の2つに分けて比較しました。
分析には「日本版変形性膝関節患者機能評価表(JKOM)」を使用。
これは膝の痛みやこわばり、日常生活の動作制限などをスコア化した信頼性の高い尺度です。
■ 結果①:痛み・活動制限はどちらも改善!
3か月後、両グループともに痛みの程度と活動制限が有意に改善しました。
つまり、自宅で教材を使って実践しただけでも、
教室に通うのと同じレベルで膝痛の改善が見られたのです。
これは驚くべき結果です。
なぜなら、従来は「専門家の指導がないと効果が出にくい」と考えられていたからです。
通信型でも改善が見られたことは、
「膝痛は自分でコントロールできる症状である」ことを示しています。
■ 結果②:痛みに対する“心の向き合い方”も変わる
本研究の特徴は、身体面だけでなく心理面(痛み対処方略)も分析した点にあります。
痛みに対する「考え方」や「行動の取り方」を8種類のパターンで測定しました。
その中で通信型グループでは、
- 「痛みに注意を向けすぎる」
- 「痛みが早く消えますようにと願う」
- 「薬に頼る」
などの対処行動が減少していました。
これは「痛みを過剰に恐れず、自分でコントロールできる」という心理的自立が進んだことを意味します。
■ 通信型の利点:自分のペースで続けられる
通信型プログラムの最大の魅力は、
「自宅で」「自分のペースで」「好きな時間に」実践できる点です。
痛みを抱える中高年の多くは、
- 通院や外出が億劫
- 家族の介護や仕事で時間が取れない
- 他人と一緒に運動するのが苦手
といった理由から、教室型プログラムを続けるのが難しい現状があります。
通信型なら、そんな人でも無理なく継続可能。
印刷教材を繰り返し読むことで、膝痛の原因や正しい運動法を「自分で理解」し、
結果的に「自己管理能力」が高まるのです。
■ 一方の教室型の強み:仲間と支え合う
もちろん、教室型にもメリットはあります。
専門家から直接指導を受けられるだけでなく、
同じ悩みを持つ仲間と励まし合える「社会的つながり」が生まれます。
孤独感が減ることで、運動継続率が高まるという報告もあります。
したがって、
- 社交的な方
- 外出できる体力がある方
には教室型プログラムが向いているでしょう。
■ どちらが良い?「自分に合うスタイル」を選ぶ時代へ
研究結果から導かれる結論は明確です。
通信型も教室型も、どちらも膝痛の改善に有効。
重要なのは「どちらが優れているか」ではなく「誰に合うか」です。
- 忙しい人 → 通信型
- 仲間と一緒に頑張りたい人 → 教室型
- 外出困難・地方在住 → 通信型
- 専門家の直接指導を受けたい → 教室型
このように、生活スタイルや性格、膝の痛みの程度に合わせて選ぶことが理想的です。
■ 今後の課題と展望
今回の研究参加者は、比較的「軽度の膝痛」の人が多かったこともあり、
より重度の患者への効果は今後の検討課題とされています。
また、膝痛の改善には「筋力トレーニング」だけでなく、
「痛みと上手に付き合う心のスキル(セルフ・エフィカシー)」が重要です。
研究チームは、今後この心理的要素を取り入れた新しい通信型プログラムを開発し、
より多くの人に広げていく計画を立てています。
■ まとめ:膝痛は“自分で治す”時代へ
この研究が示す最も大きなメッセージは——
「痛みはコントロールできる。あなた自身の力で。」
通信型プログラムは、専門家の手を借りずとも、
正しい知識と少しの努力で膝痛を軽減できることを証明しました。
「もう歳だから」と諦める前に、
今日から少しずつ、自分の膝と向き合う習慣を始めてみましょう。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
- 野呂美文ほか「膝痛を有する中高齢女性を対象とした膝痛改善プログラムの効果」
- 黒澤尚『歩いて治すひざの痛み』(講談社)
- 岩谷 力ほか「変形性膝関節症に対する大腿四頭筋訓練の効果」
- 大竹恵子・島井哲志「痛み経験とその対処方略」


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