こんにちは!
トレーナーの井上裕司です。
「昨日トレーニングを頑張ったら、今日は筋肉痛がすごい。」
そんな経験はありませんか?
筋トレをしている方の中には、
「筋肉痛がある=しっかりトレーニングできた」
「筋肉痛が強い=筋肉が成長している」
と考えている方も少なくありません。
確かに、普段とは違う運動や、強い伸張性運動を行った後には、遅れて筋肉痛が起こることがあります。
しかし、ここで重要なのが、「筋肉痛」と「トレーニング効果」は同じものではないということです。
筋肉痛がなくても筋肉は成長します。
反対に、強い筋肉痛があったからといって、必ずしもトレーニング効果が高かったとは限りません。
では、なぜ筋肉痛は起こるのでしょうか?
なぜ翌日や翌々日に痛くなるのでしょうか?
そして、筋肉痛と筋肥大・筋力向上には、実際どのような関係があるのでしょうか?
この記事では、「筋肉痛=トレーニング効果」という誤解を科学的な視点から整理し、筋肉痛とトレーニング効果の本当の関係について、できるだけわかりやすく解説します。

そもそも「筋肉痛」とは?
一言で筋肉痛といっても、その原因はさまざまです。
筋炎などの筋疾患、肉離れや打撲などの筋損傷、筋疲労、筋けいれん、さらには感染症や内臓疾患に関連して筋肉に痛みを感じる場合もあります。
つまり、
「筋肉が痛い=筋肉痛」ではありません。
運動によって起こる筋肉の痛みだけを見ても、
- 運動中に生じる痛み
- 運動直後から続く痛み
- 筋けいれん
- 筋肉の張り・こり
- 運動後しばらくしてから現れる遅発性筋肉痛
などに分けて考える必要があります。
今回、特に注目したいのが最後の「遅発性筋肉痛」です。
遅発性筋肉痛(DOMS)とは?
遅発性筋肉痛は、
Delayed Onset Muscle Soreness(DOMS)
と呼ばれます。
特徴的なのは、その名前の通り「遅れて痛くなる」ことです。
一般的には、
運動後数時間〜24時間程度で痛みが出始め、24〜72時間後にピークを迎え、その後徐々に軽減していき、通常は1週間程度で自然に消失します。
特に、
- 久しぶりに運動した
- 普段とは違う運動をした
- 運動強度を急に上げた
- 筋肉を強く伸ばしながら力を発揮した
といった場合に起こりやすくなります。
例えば、
月曜日にスクワットを行う
↓
月曜日はそれほど痛くない
↓
火曜日に少し筋肉痛
↓
水曜日にかなり痛い
↓
その後、徐々に軽くなる
という流れです。
なぜ筋肉痛は「翌日」にやってくるのか?
ここで、多くの方が疑問に思うのが、
「筋肉を使った直後ではなく、なぜ時間が経ってから痛くなるの?」
ということです。
その大きな鍵となるのが、伸張性筋活動(エキセントリック運動)です。
筋肉の働き方には3種類ある
筋肉の活動は、大きく3つに分けられます。
① 短縮性筋活動(コンセントリック)
筋肉が力を発揮しながら短くなる動きです。
例えばダンベルカールで、ダンベルを持ち上げる動作がこれにあたります。
② 等尺性筋活動(アイソメトリック)
筋肉が力を発揮していても、筋肉の長さが大きく変化しない状態です。
例えば、プランクなどが代表的です。
③ 伸張性筋活動(エキセントリック)
筋肉が力を発揮しながら、外からの負荷によって伸ばされていく動きです。
例えばダンベルカールなら、ダンベルをゆっくり下ろす動作です。
スクワットなら、しゃがんでいく動作も伸張性筋活動が含まれます。
そして、この「伸張性筋活動」が遅発性筋肉痛と非常に深い関係を持っています。
論文では、不慣れな伸張性運動を行った後にDOMSが特異的に発現しやすいことが示されています。
「筋肉痛=乳酸」は本当?
結論から言うと、
遅発性筋肉痛の原因を乳酸の蓄積だけで説明することはできません。
これは筋肉痛について理解するうえで非常に重要なポイントです。
乳酸は、激しい運動中に増加します。
そのため、
「激しい運動をする」
↓
「乳酸がたまる」
↓
「筋肉が痛くなる」
という説明が昔から広く使われてきました。
しかし、DOMSとの関係を考えると、この説明には大きな矛盾があります。
なぜ乳酸が原因ではないのか?
伸張性運動は、短縮性運動と比較して乳酸の産生量が少ないにもかかわらず、遅発性筋肉痛が強く起こることがあります。
さらに、筋肉痛が発現する頃には、運動中に増えた乳酸はすでに代謝されています。
論文でも、坂下り走では平地走より乳酸量が低かったにもかかわらず、DOMSが顕著に現れたことなどが紹介され、乳酸や水素イオンをDOMSの直接的な原因とすることはできないとしています。
つまり、
「運動中に乳酸が増えること」と「翌日以降に筋肉痛が起こること」は、同じ現象ではありません。
では、なぜ筋肉痛が起こるのか?
現在、論文で最も支持されている考え方が、筋損傷・炎症に関連する説です。
ただし、ここでいう「筋損傷」は、肉離れのような大きな筋断裂とは違います。
トレーニングによって筋肉やその周辺組織に生じる、微細な構造変化や損傷を指します。
特に伸張性筋活動では、筋肉に大きな張力がかかります。
その結果、
筋肉への強い機械的刺激
↓
筋線維・結合組織などの微細な損傷
↓
細胞内のカルシウム調節などに変化
↓
損傷部位でさまざまな反応が起こる
↓
痛みを感じる神経が刺激される
↓
遅れて筋肉痛として認識される
という流れが考えられています。
「筋線維そのもの」が痛みを感じているわけではない
ここも非常に興味深いポイントです。
痛みを感じるためには、痛みの刺激を受け取る「侵害受容器」が必要です。
骨格筋にはAδ線維やC線維などの感覚神経が分布しています。
一方、筋線維そのものには侵害受容器が存在しないことが報告されています。
つまり、
「筋肉が壊れたから、その筋線維そのものが痛みを感じる」
という単純な仕組みではありません。
筋肉周辺の結合組織や血管周辺などに存在する侵害受容器が、組織の変化や化学的刺激などを受け、それが神経を通じて脳へ伝わることで、私たちは「痛い」と感じます。
筋肉痛が起こるまでに何が起きている?
伸張性運動による機械的刺激によって、筋細胞内の構造に変化が起こると考えられています。
その一つが、カルシウムイオンの調節異常です。
通常、カルシウムイオンは筋収縮に重要な役割を果たしています。
しかし、運動による筋細胞内の構造変化によってカルシウム調節が乱れると、カルシウム依存性のタンパク質分解酵素などが活性化し、筋細胞内の構造タンパク質などにさらなる変化が生じる可能性があります。
さらに損傷部位では炎症反応が起こり、好中球やマクロファージなどの細胞が関与しながら修復・再生へ向かっていきます。
この一連の反応が、DOMSの発現に関係していると考えられています。
ただし、重要なのは、
「筋損傷があれば、その程度に比例して必ず強い筋肉痛が出るわけではない」ということです。
筋肉痛の強さ=筋損傷の大きさ、ではない
これはトレーニングをする人にとって非常に重要です。
「今日は筋肉痛がものすごい!」
↓
「昨日のトレーニングで筋肉をものすごく壊した!」
↓
「だから、ものすごく筋肉が成長する!」
この考え方は正確ではありません。
論文では、DOMSの程度と、筋力低下やCK活性値などの間接的な筋損傷指標との相関は低いとされています。
つまり、筋肉痛が強いからといって、筋損傷が必ず大きいとは限らない。
逆に、筋肉痛が弱いからといって、トレーニング効果がなかったとも限らない。
ということです。
筋肉痛がないと筋肉は成長しない?
これもよくある誤解です。
結論は、筋肉痛は筋肥大の絶対条件ではありません。
伸張性筋活動を含むトレーニングは、筋力向上や筋肥大に有効であることが報告されています。
しかし、筋損傷が起こりにくい短縮性筋活動中心のトレーニングでも筋肥大は起こります。
つまり、「筋肉を壊さなければ筋肉は大きくならない」という考え方も正確ではありません。
筋肉を成長させるうえで重要なのは、筋肉痛そのものを発生させることではありません。
トレーニングによって適切な刺激を与え、それに対して身体が適応していくことです。
「筋肉痛が来た=良いトレーニング」ではない
筋肉痛をトレーニングの「勲章」のように考える人もいます。
しかし、筋肉痛を起こすこと自体がトレーニングの目的になってはいけません。
論文でも、トレーニングでは伸張性負荷が必要になる場面が多い一方、
「筋肉痛を生じさせる必要がある」というわけではないと述べられています。
筋肉痛が強すぎれば、次のトレーニングの質が落ちる可能性もあります。
例えば、
- 関節の動きが悪くなる
- 筋力が一時的に低下する
- 正しいフォームを維持しにくくなる
- 痛みをかばった動作になる
といった問題が起こる可能性があります。
したがって、
「筋肉痛が強いほど良い」ではなく、「適切な刺激を継続できること」のほうが重要です。
なぜ同じトレーニングをすると筋肉痛が減るのか?
一度、強い筋肉痛を経験した後、同じような運動をすると、
「あれ?前回ほど痛くない」と感じることがあります。
これは、繰り返し効果(Repeated Bout Effect)として知られています。
初めて行った伸張性運動では筋肉痛や筋損傷が大きくても、同じ運動を再び行うと、その反応が大幅に軽減することがあります。
つまり身体は、「一度経験した刺激に適応する」のです。
論文でも、2回目の伸張性運動では1回目に比べて筋損傷や筋肉痛が顕著に軽減することが示されています。
これはトレーニングにおける非常に重要な考え方です。
筋肉は「壊す」だけではなく「適応する」
筋肉は、トレーニングによって刺激を受けると、その刺激に適応していきます。
最初は、「この運動は大変だ」と感じても、何度も繰り返すことで同じ運動への負担が小さくなっていきます。
これがトレーニングの「適応」です。
そのため、毎回強烈な筋肉痛を起こすことよりも、適切な負荷を継続的に与えることが重要になります。
筋肉痛がある日はトレーニングしていい?
ここは非常に重要です。
まず、「筋肉痛」と「ケガによる痛み」は分けて考える必要があります。
肉離れや打撲など明らかな傷害による痛みの場合は、単純なDOMSとは違います。
一方、運動後数時間〜数日で出現し、通常は徐々に消失するDOMSの場合は、必ずしも完全な安静が必要とは限りません。
論文では、DOMSがある筋群に軽い運動を行っても、筋損傷を悪化させたり回復を遅らせたりするとは限らないとされています。
ただし、「筋肉痛があっても、いつも通り高強度でトレーニングしていい」という意味ではありません。
筋肉痛が強い場合には筋機能が低下している可能性があります。
痛みをかばってフォームが崩れるのであれば、無理にその部位を鍛えるべきではありません。
その場合は、
- 別の筋群をトレーニングする
- 軽い運動にする
- コンディショニングを行う
- 回復を優先する
といった調整が合理的です。
筋肉痛をできるだけ減らすには?
最も確実な方法として、論文では、伸張性筋活動を避けることが挙げられています。
ただし、実際のスポーツや日常生活では伸張性筋活動を完全に避けることは困難です。
そこで重要になるのが、「いきなり強い負荷をかけないこと」です。
久しぶりの運動で、「昔はこの重量でできたから大丈夫」
といきなり高強度のトレーニングを行うと、強いDOMSにつながる可能性があります。
特に、
- 久しぶりの筋トレ
- 新しい種目
- 急激な重量アップ
- 急激な運動量増加
- 坂道や階段を大量に使う運動
- 強い伸張性負荷を伴う運動
には注意が必要です。
まず軽い負荷から始め、徐々に身体を慣らしていく。
これが基本です。
筋肉痛は「身体が弱い証拠」ではない
筋肉痛が起こると、「自分は筋力がないからだ」と思う人もいます。
しかし、必ずしもそうではありません。
筋肉痛は、運動の強度だけでなく、運動への慣れや、普段とは異なる刺激を受けたかどうかにも大きく左右されます。
普段からトレーニングしている人でも、久しぶりに違う種目を行えば筋肉痛になることがあります。
逆に、同じ運動を継続している人では、強い負荷をかけても以前ほど筋肉痛が出なくなることがあります。
これは身体が刺激に適応している証拠の一つです。
「年齢を重ねると筋肉痛が遅くなる」は本当?
「昔は翌日に筋肉痛が来たのに、今は2〜3日後に来る」という話をよく耳にします。
しかし、論文では、この「年齢を重ねるほど筋肉痛が遅れる」という一般的なイメージについて、運動の種類や強度などの条件が同じなのかを考慮する必要があり、単純には判断できないと指摘しています。
つまり、「年齢=必ず筋肉痛が遅れる」と単純化するのは適切ではありません。
筋肉痛の発現時期には、運動の種類、強度、慣れ、身体の状態など、さまざまな要因が関係します。
1週間以上続く筋肉痛には注意
DOMSは通常、時間とともに軽減し、1週間程度で自然に消失します。
そのため、「トレーニングしてから1週間以上経っても痛みが続いている」
という場合には、単純なDOMS以外の原因も考える必要があります。
特に、
- 強い腫れ
- 明らかな外傷
- 強い局所痛
- 力が入らない
- 日常生活に支障が出るほどの痛み
- 痛みが長期間改善しない
といった場合は、「ただの筋肉痛」と自己判断しないことが大切です。
筋肉痛を「成長の証」と考えすぎない
筋トレをしている人にとって、筋肉痛は一つの目安にはなります。
しかし、筋肉痛がある=筋肉が成長するではありません。
そして、筋肉痛がない=トレーニング効果がないでもありません。
筋肉の成長を考えるなら、
- 適切なトレーニング刺激
- 継続的な負荷
- 十分な栄養
- 適切な休養
- 睡眠
- 身体の回復状態
などを総合的に考える必要があります。
筋肉痛は、その中の「一つの現象」にすぎません。
まとめ|筋肉痛は「強くなるための条件」ではない
今回のポイントをまとめます。
筋肉痛について知っておきたい7つのこと
① 筋肉痛にはさまざまな種類がある
運動中の痛みと、翌日以降のDOMSは同じものではありません。
② DOMSは運動後すぐではなく、数時間〜24時間程度してから現れる
一般的には24〜72時間後にピークを迎え、通常は1週間程度で消失します。
③ DOMSの主な原因を乳酸だけで説明することはできない
乳酸は運動中に増加しますが、翌日以降の筋肉痛を直接引き起こす原因とは考えられていません。
④ 伸張性筋活動はDOMSと深い関係がある
筋肉が力を発揮しながら伸ばされる動作では、筋肉に大きな機械的負荷がかかります。
⑤ 筋肉痛の強さ=筋損傷の大きさ、ではない
痛みは主観的な感覚であり、筋損傷の程度と必ずしも一致しません。
⑥ 筋肉痛は筋肥大の絶対条件ではない
筋肉痛がなくても、適切なトレーニングによって筋肉は適応・成長します。
⑦ 大切なのは「筋肉痛を起こすこと」ではなく「継続できる刺激を与えること」
毎回動けなくなるほど筋肉痛を起こす必要はありません。
最後に
筋肉痛は、私たちがトレーニングを行う中で非常に身近な現象です。
だからこそ、
「痛い=効いている」
「筋肉痛が強い=筋肉が大きくなる」
「筋肉痛の原因=乳酸」
と単純に考えるのではなく、「身体の中で何が起きているのか」を知ることが重要です。
筋肉は、刺激を受けるだけでなく、その刺激に対して適応していきます。
最初は強い筋肉痛を起こした運動でも、繰り返すうちに筋肉痛が軽くなっていく。
これは「効かなくなった」のではなく、身体がその刺激に適応したという見方もできます。
トレーニングの目的は、筋肉痛を作ることではありません。
「昨日より少し強くなる」
「昨日より少し動きやすくなる」
その変化を積み重ねていくことこそ、長期的な身体づくりにつながります。
参考文献・論文
- 野坂和則.「筋肉痛の科学」横浜市立大学論叢 自然科学系列,2002.
- Hough T. Ergographic studies in muscular soreness. J Physiol. 1902;7:769–792.
- Armstrong RB, Warren GL, Warren JA. Mechanisms of exercise-induced muscle fibre injury. Sports Med. 1991;12:184–207.
- Clarkson PM, Nosaka K, Braun B. Muscle function after exercise-induced muscle damage and rapid adaptation. Med Sci Sports Exerc. 1992;24:512–520.
- Cleak MJ, Eston RG. Delayed onset muscle soreness: mechanisms and management. J Sports Sci. 1992;10:325–341.
- Nosaka K, Clarkson PM. Muscle damage following repeated bouts of high force eccentric exercise. Med Sci Sports Exerc.
- Nosaka K, Newton M. Concentric or eccentric training on eccentric exercise-induced muscle damage. Med Sci Sports Exerc. 2002;34:636–643.
- Nosaka K, Newton M, Sacco P. How long does the protective effect on eccentric exercise-induced muscle damage last? Med Sci Sports Exerc. 2001;33:1490–1495.
- Nosaka K, Newton M, Sacco P. Delayed-onset muscle soreness does not reflect the magnitude of eccentric exercise-induced muscle damage. Scand J Med Sci Sports. 2002;12:337–346.
※本記事は、資料「筋肉痛の科学」を主要な資料として、一般向けに内容を整理・再構成したものです。論文自体も、DOMSのメカニズムや予防・治療について「まだ十分に解明されたわけではない」と述べています。したがって、筋肉痛のメカニズムを一つの原因だけで断定するのではなく、複数の生理学的過程が関係する現象として捉えることが重要です。
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