こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
脂肪は「太る」「体に悪い」といったイメージが先行しがちですが、実は脂質はただのエネルギー貯蔵庫ではなく、体にとって欠かせない大切な存在です。
今回は、脂質の役割や代謝の流れを詳しく解説していきます。

脂肪の基本的な特徴
脂肪の最大の特徴は、「水に溶けない」という性質です。
脂肪は主に炭素と水素でできており、酸素が少ない構造のため、水に溶けにくくなっています。
この水に溶けない性質によって、
・浸透圧に影響しにくい
・コンパクトに大量のエネルギーを貯蔵できる
・細胞膜の材料として最適
・断熱・衝撃吸収材としても活躍(皮下脂肪など)
といったメリットがあります。
脂肪はホルモンも分泌する“賢い組織”
脂肪細胞は単なる脂肪の倉庫ではなく、レプチンやアディポネクチンなどのホルモンも分泌する「内分泌器官」としての役割も持っています。
実験では、持久的トレーニングをしたラットの脂肪を他のラットに移植すると、そのラットのグルコースの取り込み能力も高まったという報告もあります。
つまり、脂肪細胞が運動に反応して、血糖コントロールを助けるようなホルモンを出している可能性が示唆されているのです。
脂肪代謝の全体像を理解する
脂肪をエネルギーとして使うには、複数の段階を経る必要があります。
以下はその主な流れです。
① 脂肪分解(リポリシス)
中性脂肪(トリグリセリド)は、脂肪酸3本+グリセロール1つからなる構造です。
代謝の第一ステップは、この中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されるプロセス、つまり「脂肪分解」です。
脂肪分解は、運動やカフェインなどによって促進されることが知られています。
ただし、分解された脂肪酸がすべて使われるとは限りません。余った脂肪酸は再び中性脂肪に戻されることもあります。
② 筋肉内の脂肪も使われる
脂肪は脂肪細胞だけでなく、筋肉の中にも蓄えられています(筋中中性脂肪)。
この筋中脂肪が低強度の運動時を中心に使われていることは確かですが、高強度の運動時にどれほど使われているかについては、まだ議論の余地があります。
筋中脂肪もホルモン感受性リパーゼによって分解され、脂肪酸として利用されます。
③ 血液から筋肉へ:脂肪酸の輸送
脂肪分解によってできた脂肪酸は、水に溶けにくいためアルブミン(たんぱく質)にくっついて血液中を運ばれます。
そして、筋肉に取り込まれるときには、脂肪酸輸送体(CD36, FABPpmなど)の助けを借ります。
これらの輸送体は、グルコース輸送体GLUT4と同じように、必要なときだけ細胞膜に現れる仕組みを持っています。
特に運動中や食後には脂肪酸輸送体が活性化され、脂肪酸の取り込みが促進されます。
持久的トレーニングを行うことで、脂肪酸輸送体の量や機能が高まることがわかっています。
④ ミトコンドリアへの取り込み(CPT1・CPT2)
脂肪酸が筋肉に取り込まれた後、エネルギーとして使うには、ミトコンドリアに入る必要があります。
このとき働くのが、「CPT1(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1)」「CPT2」です。
CPT1:脂肪酸をアシルCoAに変換し、カルニチンと結合させる
CPT2:ミトコンドリアの内膜でカルニチンを外し、脂肪酸を取り込む
このステップは脂質代謝の“律速段階(制限因子)”とされており、ここがスムーズにいかないと脂肪は効率よく使われません。
カルニチンは脂肪燃焼に効く?
カルニチンは、CPT1・CPT2の働きに必要な物質であるため、「カルニチンを摂取すると脂肪が燃えやすくなる」といった話を耳にすることもあります。
確かに理論上は効果があると考えられますが、実際には脂質代謝には他にも多くの律速段階があるため、カルニチンだけ摂っても効果が限定的であるという意見も多くあります。
まとめ:脂質は、賢く・慎重に扱われるエネルギー源
・脂肪は水に溶けないがゆえに、貯蔵や細胞膜構成に最適な素材
・単なるエネルギー貯蔵だけでなく、ホルモンを分泌する賢い組織でもある
・脂質代謝は段階が多く、特に脂肪酸の輸送やミトコンドリアへの取り込みがカギ
・運動やトレーニングで、脂質をうまく使う体づくりができる
・だからこそ、脂肪は「悪」ではなく、体に必要不可欠な栄養素
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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