星状細胞が担うエネルギー供給の役割―脳と乳酸の意外な関係

生理学
2026年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

― 脳の「真の燃料」は糖か、乳酸か。知られざる脳内エネルギー革命 ―

「脳は糖質(グルコース)だけで動いている」
長年、こうした考え方が一般常識として広く浸透してきました。

確かに脳は、安静時でも全身エネルギー消費の約20%を占める高エネルギー消費臓器であり、主要な燃料はグルコースです。

しかし近年の脳科学研究では、脳が状況に応じて乳酸(ラクテート)を効率的なエネルギー源として利用していることが明らかになってきました。

🧠 星状細胞(アストロサイト)は脳内の“給油所”

脳内には、神経細胞(ニューロン)を支える補助細胞として星状細胞(アストロサイト)が存在します。

以前は単なるサポート役と考えられていましたが、現在では神経細胞へエネルギーを供給する重要な存在として注目されています。

その働きは次のような流れです。

  • 血液中のグルコースを取り込む
  • 一部をグリコーゲンとして蓄える
  • 神経活動が高まるとグリコーゲンを分解する
  • 乳酸を産生し、神経細胞へ受け渡す
  • 神経細胞が乳酸を使ってATPを産生する

この仕組みは アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル(ANLS) と呼ばれています。

🚛 脳には乳酸専用の輸送システムがある

脳が乳酸を活用するためには、細胞間でスムーズに受け渡す仕組みが必要です。

その役割を担うのが MCT(モノカルボン酸輸送体) です。

  • MCT1・MCT4:主にアストロサイト側に存在し、乳酸の放出・輸送を担当
  • MCT2:神経細胞側に存在し、乳酸を高効率で取り込む
  • MCT3:主に網膜組織に存在し、視覚機能維持に関与

つまり脳は、構造レベルで乳酸利用を前提としたインフラを備えているのです。

🚀 乳酸は“高効率な燃料”

かつて乳酸は「疲労物質」と誤解されていました。

しかし現在では、乳酸は再利用可能な重要エネルギー基質と考えられています。

乳酸は細胞内でピルビン酸へ変換され、ミトコンドリアで酸化されることでATP産生に利用されます。神経活動が活発な場面では、こうした迅速なエネルギー供給が非常に重要です。

さらに乳酸には、単なる燃料以上の役割も示唆されています。

  • 記憶形成のサポート
  • シナプス可塑性の調整
  • 神経保護作用
  • 遺伝子発現への関与

つまり乳酸は、脳機能そのものを支える代謝シグナル分子でもあるのです。

🏃 運動と脳をつなぐ“乳酸シャトル”

筋肉でも乳酸は活発に再利用されています。

例えば、

  • 速筋線維で産生された乳酸
  • 遅筋線維や心筋で再利用される

という流れは、細胞間乳酸シャトルとして知られています。

さらに近年では、運動によって増加した血中乳酸が脳へ取り込まれ、

  • 認知機能向上
  • BDNF増加
  • 気分改善
  • 学習能力向上

などに関与する可能性も研究されています。

「運動すると頭が冴える」という感覚は、乳酸代謝とも関係しているかもしれません。

🔍 乳酸=疲労物質は過去の常識

昔は、乳酸が筋肉痛や疲労の原因と考えられていました。

しかし現在では、

  • 疲労感の主因は別要素(代謝産物、神経疲労、炎症など)
  • 乳酸そのものは有用なエネルギー源
  • 回復や適応にも関与する物質

と理解されています。

乳酸は“悪者”ではなく、活動を支えるパートナーなのです。

■ まとめ:乳酸は脳を支える重要エネルギー

  • 星状細胞は乳酸を産生し、神経細胞へ供給している
  • 脳にはMCTという乳酸輸送システムがある
  • 乳酸は効率的なエネルギー源として利用される
  • 記憶・学習・神経保護にも関与する可能性がある
  • 運動で生じた乳酸が脳機能を高める可能性もある

私たちが考え、学び、集中し続けられる背景には、脳内で絶えず働く乳酸シャトルの存在があるのかもしれません。

これからは「乳酸=疲労物質」ではなく、乳酸=脳と身体を支える味方として捉え直す時代です。

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

📚 引用・参考文献

  1. Pellerin L, Magistretti PJ. Glutamate uptake into astrocytes stimulates aerobic glycolysis: a mechanism coupling neuronal activity to glucose utilization. PNAS. 1994.
  2. Suzuki A, et al. Astrocyte-neuron lactate transport is required for long-term memory formation. Cell. 2011;144(5):810-823.
  3. Brooks GA. The Science and Translation of Lactate Shuttle Theory. Cell Metabolism. 2018;27(4):757-785.
  4. Pierre K, Pellerin L. Monocarboxylate transporters in the central nervous system. J Neurochem. 2005;94(1):1-14.
  5. Hatta H. 乳酸をエネルギー源として捉えなおす. 2013.

\ 最新情報をチェック /

著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

井上 裕司をフォローする
生理学
井上 裕司をフォローする
Core&Calm(コアカーム) パーソナルジム  蓮田店

コメント

PAGE TOP