こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「脳は糖質で動いている」とよく言われます。
これはある意味で正しく、私たちの脳は安静時でも体全体のエネルギーの約20%を消費し、そのエネルギー源の多くが糖質(グルコース)です。
しかし、近年の研究により、脳は糖質“だけ”を使っているわけではないことが明らかになっています。
その一つが、「乳酸」というエネルギー源です。

乳酸を生み出す「星状細胞」の役割
脳には「星状細胞(アストロサイト)」という神経を支える細胞があります。
この星状細胞は、神経細胞にエネルギーを供給するという非常に大切な役割を持っています。
グリコーゲンを分解して乳酸を作り、その乳酸を神経細胞へ送り届けるのです。
神経細胞はその乳酸を取り込み、酸化してエネルギーとして利用します。
つまり、神経細胞は糖質だけでなく、乳酸も重要なエネルギー源として活用しているのです。
脳には乳酸の「専用の入り口」がある
脳には乳酸を取り込むための「乳酸輸送体(MCT)」も存在しています。
代表的なものに MCT1、MCT2 があり、乳酸を神経細胞内へスムーズに届けるために機能しています。
また、目の組織にも MCT3 が存在しており、視覚機能においても乳酸がエネルギー源になっている可能性が示唆されています。
筋肉でも乳酸は“受け渡し”されている
筋肉の世界でも乳酸は単なる“疲労物質”ではありません。
例えば、速筋繊維(瞬発系)が作った乳酸は、遅筋繊維(持久系)や心筋へ送られ、エネルギー源として再利用されています。
これを「細胞間乳酸シャトル」と呼びます。
脳内でも、星状細胞から神経細胞へと乳酸がシャトルされていると考えられます。
脳にとって乳酸は“望ましい”エネルギー源
興味深いことに、乳酸は糖質よりも脳の酸素消費量を増やすことがわかっています。
これは、乳酸のほうがエネルギー効率が高いという可能性を示唆しており、脳にとって非常に使いやすいエネルギー源であると言えます。
さらに最近では、記憶力や学習機能にも乳酸が関与しているという研究結果もあり、脳と乳酸の関係は今後さらに注目されていくでしょう。
まとめ
・星状細胞は乳酸を産生し、神経細胞へ供給している
・脳は糖質だけでなく、乳酸も重要なエネルギー源として活用している
・MCTという乳酸の通り道が、脳や目などに存在する
・脳にとって乳酸は、効率の良い“優秀な燃料”であり、記憶力にも関係している可能性がある
“乳酸=疲労物質”というイメージは、もう過去のものです。
これからは「乳酸=脳の味方」として、もっと注目していきたいですね。
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
コメント