【無機リン酸と筋疲労】疲労の本当の原因は乳酸ではない?

生理学
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こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

運動中や運動後、誰もが一度は感じたことがある「筋肉の疲労」。
この疲労感にはさまざまな要因がありますが、かつてはよく「乳酸が疲労の原因」と言われてきました。

しかし近年の研究では、無機リン酸(Pi)こそが、“疲労感”の直接的な要因の一つである可能性が高いと考えられています。

■ エネルギーの源「ATP」とは?

まずは基礎知識から。

運動時のエネルギー供給に欠かせないのがATP(アデノシン三リン酸)です。
このATPは、

・アデノシン(A)+ リン酸(P)が3つ結合したもの

・分解されると「ADP(アデノシン二リン酸)+ 無機リン酸(Pi)」に分かれ、エネルギーが放出されます

強度の高い運動を行うと、この無機リン酸(Pi)が筋肉内に大量に蓄積していくのです。

■ クレアチンリン酸の働きとリン酸の蓄積

ATPは筋肉内にたくさん貯めておくことができません。
そこで重要になるのが「クレアチンリン酸(PCr)」の存在です。

・クレアチンリン酸が分解されて「クレアチン+リン酸」になる

・このリン酸とADPが結びつき、再びATPが合成される

この過程でも無機リン酸(Pi)が筋肉内に増えていきます。
そして、この蓄積されたリン酸が筋疲労に大きく関与しているのです。

■ カルシウムとの関係:なぜ筋収縮が弱くなるのか?

無機リン酸が筋疲労に関係している理由の一つに、カルシウムとの結合性があります。

・筋肉を動かすためには、筋小胞体からカルシウムが放出される必要がある

・カルシウムが筋原線維に働きかけ、筋収縮が起こる

・しかし、無機リン酸が多くなると、カルシウムと結合してしまう

・結果、カルシウムがうまく作用できず、筋収縮の効率が低下する

つまり、「筋肉が動きにくくなる=疲労感」の原因の一つが、カルシウムが働けなくなる状態なのです。

■ 活性酸素もカルシウムに影響?

さらに、激しい運動では活性酸素(フリーラジカル)も発生します。
この活性酸素が筋小胞体の機能を低下させ、カルシウムを再び小胞体に戻す機能を阻害するという説もあります。

・カルシウムの調整がうまくいかない

・無機リン酸の蓄積と相まって、より強い筋疲労を感じやすくなる

という流れです。

■ では、運動後の疲労感は?

ここで注目すべきポイントがあります。

確かに無機リン酸は運動中に疲労を引き起こしますが、
運動が終わると、クレアチンリン酸の再合成がすぐに始まり、
数分以内に無機リン酸の蓄積は解消されていきます。

そのため、Piはあくまで「運動中の急性疲労」に関係しており、
運動後しばらくしてから感じる疲労感とは別物と考えられています。

■ まとめ:無機リン酸=「その場の疲労」に関係あり

・無機リン酸はATPの分解やクレアチンリン酸の利用で蓄積される

・蓄積されたPiはカルシウムの働きを妨げ、筋収縮力を弱める

・これが「運動中に感じる疲労」の一因

・しかし、Piは運動後すぐに減少するため、「長引く疲労感」にはあまり関与しない

「乳酸=疲労」の時代は終わりつつあり、
現代の運動生理学では、無機リン酸やカルシウムの働きに注目が集まっています。

疲労のメカニズムを正しく理解し、賢く回復・トレーニングしていきましょう!

※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。

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著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

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