こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「乳酸がたまる」と聞くと、なんとなく疲労や運動後のだるさをイメージする方も多いかもしれません。
でも実は、乳酸はただの“疲労物質”ではありません。
今回は、その乳酸を作ったり、再利用したりする酵素の仕組みについてご紹介します。

ピルビン酸 → 乳酸への変換に必要な酵素
乳酸を作るには、まずピルビン酸という物質を作るところから始まります。
このピルビン酸を乳酸に変換するときに働くのが、
✅ 乳酸脱水素酵素(LDH:Lactate Dehydrogenase)です。
この酵素は、なんと4本の“腕”を持っていて、それぞれが「H型」または「M型」のどちらかで構成されています。
H型とM型の違い
・H型(Heart):心筋に多く存在し、乳酸 → ピルビン酸へ戻す(=酸化)方向の反応が得意。
・M型(Muscle):骨格筋(特に速筋)に多く、ピルビン酸 → 乳酸へ変える反応が得意。
この2つが4本の腕として組み合わさり、以下の5タイプのLDHができます:
H₄M₀
H₃M₁
H₂M₂
H₁M₃
H₀M₄
たとえば、H₄は乳酸をピルビン酸に戻す能力が高く、H₀M₄は逆に乳酸を作る能力に長けています。
骨格筋と心筋で異なる酵素のタイプ
・速筋(瞬発系の筋肉) → M型が多く、乳酸を作りやすい
・遅筋(持久系の筋肉) → H型が多く、乳酸を再利用しやすい
・心筋(心臓) → H型が豊富で、ミトコンドリアも多く、乳酸を効率的に酸化してエネルギー化する
なぜ乳酸がすぐできるのか?
ピルビン酸が分解されるとき、その場は「細胞質」と呼ばれる場所です。
ミトコンドリアへ入って酸化されるにはひと手間かかるため、すぐには移動できません。
しかも、細胞質にはLDH(乳酸脱水素酵素)がたくさん存在しており、
ピルビン酸はそのまま乳酸になってしまうほうが“楽”なのです。
つまり、「乳酸になるのが当たり前」なのは、この流れによるものなんですね。
心筋や遅筋は乳酸をエネルギーとして再利用する
心筋や遅筋には、
・ミトコンドリアが多い
・H型LDHが多い
・乳酸を取り込む“乳酸輸送体(MCT1)”が豊富
といった特徴があり、乳酸をピルビン酸に戻して酸化させ、エネルギーに再利用する能力が高いです。
つまり、速筋で作られた乳酸は、
→ 血液を通じて遅筋や心筋に運ばれ、
→ ピルビン酸に変換され、
→ ミトコンドリアで燃やされてエネルギーになる、という流れです。
まとめ
・乳酸脱水素酵素(LDH)はH型とM型があり、組み合わせによって性質が変わる
・骨格筋(速筋)では乳酸が作られやすいが、心筋や遅筋では乳酸を再利用しやすい
・ピルビン酸は細胞質で乳酸になりやすく、再利用されるにはミトコンドリアに運ばれる必要がある
・遅筋や心筋は乳酸をうまく取り込んでエネルギー源として再利用している
「乳酸=悪者」ではなく、「乳酸=エネルギーの中継役」としての役割が見えてきますね。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
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