【クレアチンリン酸とは?】高強度運動とATP再合成のしくみ

生理学
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こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

― 限界を決めるのは「蓄積」だった:エネルギー代謝と筋疲労の科学 ―

運動をしていると、次第に筋肉の力が弱まってくる感覚を覚えることはありませんか?
この「筋力の低下=疲労」の原因のひとつが、体内でのエネルギー物質の変化にあります。

特に注目すべきは、「ADP(アデノシン二リン酸)」と「無機リン酸(Pi)」の蓄積です。
今回は、それらの背景にあるATP(エネルギー)とクレアチンリン酸の関係について、科学の視点から解説します。

■ ATPは“貯めておけない”生体通貨

ATP(アデノシン三リン酸)は、筋収縮に必要不可欠なエネルギー源であり、「生体通貨(エネルギーのお金)」に例えられます。
しかし、筋肉内に貯蔵できる量は極めてわずかです(筋肉1kgあたり約20〜25mmol程度 ※最新知見に基づき微調整)。激しい運動では数秒で使い果たしてしまう量しかありません。

つまり、ATPは貯めておくものではなく、「使うそばから作り直す(再合成する)」必要があるのです。

■ 高速再合成システム:クレアチンリン酸(PCr)

ここで登場するのが、クレアチンリン酸(PCr)という「即効型バックアップ電源」です。

  • 筋肉内には、ATPの数倍(約70〜80mmol/kg dry muscle)の量が存在。
  • ATPが分解されて「ADP(アデノシン二リン酸)」になった瞬間、クレアチンリン酸がリン酸基を譲り渡し、一瞬でATPに再生します。
  • 反応式: クレアチンリン酸 + ADP → ATP + クレアチン

この反応には酸素を必要とせず、1段階の化学反応で済むため、ダッシュやジャンプといった瞬発的な運動を支える主役となります。

■ ミトコンドリアの力を現場へ届ける「シャトル機構」

「クレアチンリン酸は酸素の貯蔵庫」という表現は、生理学的には「クレアチンキナーゼ・シャトル」という仕組みで説明されます。

  1. ミトコンドリア(エネルギー工場)が酸素を使って大量のATPを作る。
  2. そのエネルギーを「クレアチンリン酸」という運びやすい形に変換。
  3. 筋肉の収縮現場(フィラメント)まで運び、そこでATPに戻す。

つまり、クレアチンリン酸は、ミトコンドリアで作られた「有酸素エネルギー」を、酸素が届きにくい収縮現場まで高速でデリバリーする役割を担っているのです。

■ 疲労の真犯人:無機リン酸(Pi)の蓄積

かつては「乳酸」が疲労の主犯とされていましたが、現在の運動生理学では「無機リン酸(Pi)」の蓄積が重要視されています。

クレアチンリン酸が分解されてATPを作るとき、副産物として「無機リン酸」が発生します。高強度運動を続けると、この無機リン酸が筋肉内に急増します。

  1. アクチンとミオシンの結合を阻害: 筋肉が力を出す「橋渡し(クロスブリッジ)」を直接邪魔します。
  2. カルシウムの働きを抑制: 筋収縮のスイッチであるカルシウムイオンの放出を妨げます。

その結果、筋肉は「動け」という指令を受けていても、物理的に力が出せなくなる――これが筋疲労の正体の一つです。

■ まとめ:パフォーマンス向上のヒント

  • ATPは超短期決戦用。
  • クレアチンリン酸は、エネルギーの「高速再生」と「デリバリー」を担う。
  • 疲労の一因は、エネルギー切れだけでなく、分解産物(無機リン酸)の蓄積による収縮阻害である。

このメカニズムを知ることは、インターバル走の休息時間の設計や、クレアチンサプリメントの活用など、科学的なトレーニング戦略を立てる大きな助けとなります。

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

📚 引用・参考文献

本記事の内容は、以下の生理学的知見および論文に基づいています。

  1. Westerblad, H., Allen, D. G., & Lännergren, J. (2002).Muscle fatigue: lactic acid or inorganic phosphate? News in Physiological Sciences, 17(1), 17-21.
    • (無機リン酸が筋収縮に与える悪影響についての古典的かつ重要なレビュー)
  2. Allen, D. G., Lamb, G. D., & Westerblad, H. (2008).Skeletal muscle fatigue: cellular mechanisms. Physiological Reviews, 88(1), 287-332.
    • (筋疲労のメカニズム全体、特にカルシウム感受性と無機リン酸の関係についての包括的論文)
  3. Wallimann, T., Wyss, M., Brdiczka, D., Nicolay, K., & Eppenberger, H. M. (1992).Intracellular compartmentation, structure and function of creatine kinase isoenzymes in tissues with high and fluctuating energy demands: the ‘phosphocreatine circuit’ for cellular energy homeostasis. Biochemical Journal, 281(1), 21-40.
    • (クレアチンリン酸・シャトル機構についての詳細な解説)
  4. Sahlin, K. (1992).Metabolic factors in fatigue. Sports Medicine, 13(2), 99-108.
    • (運動中のATP再合成とPCr枯渇、代謝産物の蓄積に関する考察)
  5. 八田 秀雄 著 (2020). 『乳酸をどう考えるか ―パフォーマンス向上のための新しい指標―』
    • (日本におけるエネルギー代謝研究の第一人者による、ATP-CP系と疲労物質の解説)

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著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

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