こんにちは!
トレーナーの井上裕司です。
「腕を上げると肩が詰まる感じがする」
「以前より肩が動かしにくくなった」
「肩こりが気になる、背中が硬く感じる」
このような変化を感じたことはありませんか?
肩の動きというと、肩関節そのものをイメージする方が多いかもしれません。しかし、肩をスムーズに動かすためには、肩甲骨の動きも重要です。
肩甲骨は、腕の動きに合わせて位置や向きを変えることで、肩全体の運動を支えています。そのため、肩の可動域や動作を考えるうえでは、肩関節だけでなく、肩甲骨やその周囲の筋肉、胸郭などを含めて考える必要があります。
今回は、肩甲骨の解剖学的な役割から、加齢による可動域の変化、運動によって柔軟性を維持するための考え方まで、研究論文をもとに詳しく解説します。

1.肩甲骨とは?腕の動きを支える重要な骨
肩甲骨は、背中の上部に左右一つずつ存在する三角形に近い形をした骨です。肩関節を構成する骨の一つであり、上腕骨と関節を形成するとともに、肩周囲の筋肉が付着する土台としても働きます。
肩甲骨の特徴は、骨同士が強固に連結された一般的な関節とは異なり、胸郭の表面を滑るように動くことです。
肩甲骨と胸郭の間には、通常の関節のように骨同士が直接つながった構造はありません。しかし、周囲の筋肉や鎖骨などと連携することで、さまざまな方向に動くことができます。
肩甲骨の動きには、主に次のようなものがあります。
- 挙上・下制: 肩甲骨が上方向、下方向へ動く
- 内転・外転: 肩甲骨が背骨に近づく、または離れる
- 上方回旋・下方回旋: 肩甲骨の向きが変わり、腕を上げる・下ろす動作を支える
- 前傾・後傾: 肩甲骨が前方または後方へ傾く
これらの動きが組み合わさることで、腕を上げる、前に伸ばす、物を押す、引くといった動作が可能になります。
つまり、肩甲骨は単に背中にある骨ではありません。腕の動きを支え、肩周囲の筋肉が働くための重要な土台なのです。
2.肩甲骨と上腕骨は連動して動いている
腕を上げるとき、実際には肩関節だけが動いているわけではありません。
上腕骨が肩甲骨に対して動くと同時に、肩甲骨自体も胸郭の上を動きます。このような肩甲骨と上腕骨の協調した運動は、一般に「肩甲上腕リズム」と呼ばれます。
例えば、腕を頭上まで上げる動作では、上腕骨の動きに加えて肩甲骨の上方回旋などが起こります。肩甲骨が適切に動くことで、腕を高く上げる動作を支えています。
ここで重要なのは、肩甲骨と上腕骨の動きの割合が、あらゆる動作で一定とは限らないという点です。
腕を横から上げる場合と、前から上げる場合、物を押す場合では、必要となる肩甲骨の動きや筋肉の働きが異なります。また、個人差や動作の速度、負荷などによっても変化します。
そのため、肩の動きを評価する際には、単純に腕が何度上がるかだけでなく、肩甲骨がどのように連動しているかにも目を向けることが大切です。
3.研究で明らかになった、加齢による肩甲骨の可動域の変化
肩甲骨の動きは、年齢によってどのように変化するのでしょうか。
研究では、3歳・5歳の幼児46名、30代男性20名、60代男性23名を対象に、腕を動かした際の肩甲骨の動きを測定しています。
研究では、腕を横に90度上げた位置から前方90度の位置まで動かしたときなど、複数の姿勢における肩甲骨の角度変化を比較しました。
その結果、腕を横に90度上げた位置から前方90度の位置まで動かした際の肩甲骨の角度変化は、次のようになりました。
- 幼児:約79度
- 30代:約58度
- 60代:約51度
また、腕を前方90度の位置から水平面で最大限に内側へ動かした際の角度変化は、幼児で約16度、30代で約13度、60代で約7度でした。
さらに、腕を最大限に後方へ動かした位置から横に90度上げた位置までの角度変化は、30代で約15度、60代で約7度でした。
これらの結果から、研究者らは、調査した動作における肩甲骨の可動域が年齢の高い群ほど小さくなる傾向を報告しています。
ただし、この研究は1995年に発表されたもので、成人の対象者は男性に限られています。また、対象者数や測定方法にも限界があるため、すべての人に同じ変化が起こると解釈することはできません。
それでも、肩甲骨の動きが加齢によって変化する可能性を示した研究として、肩の機能を考えるうえで重要な知見といえます。
4.なぜ加齢によって肩甲骨の動きが小さくなるのか?
肩甲骨の動きには、肩甲骨そのものだけでなく、周囲の関節や筋肉、胸郭の状態など、さまざまな要素が関係しています。
① 肩鎖関節・胸鎖関節の可動性
肩甲骨は鎖骨を介して体幹とつながっています。
肩鎖関節は肩甲骨と鎖骨の間に、胸鎖関節は鎖骨と胸骨の間にある関節です。これらの関節は、腕を動かす際の肩甲骨の位置や向きの変化に関与しています。
そのため、これらの関節の動きが制限されると、肩甲骨を含む肩全体の運動にも影響する可能性があります。
② 筋肉の柔軟性や機能の変化
肩甲骨の動きは、僧帽筋、前鋸筋、菱形筋、肩甲挙筋など、周囲の筋肉によって調整されています。
これらの筋肉は、肩甲骨を動かすだけでなく、動作中の位置をコントロールする役割も担っています。
加齢や身体活動量の低下などによって筋肉の柔軟性や筋力、運動を調整する能力が変化すると、肩甲骨の動きにも影響が生じる可能性があります。
ただし、肩甲骨の可動域の低下を筋肉の硬さだけで説明することはできません。関節の状態や胸郭の動き、神経筋のコントロールなども含めて考える必要があります。
③ 胸郭の柔軟性の変化
胸郭は、胸椎、肋骨、胸骨などで構成され、呼吸や体幹の動きに関与しています。
肩甲骨は胸郭の表面を滑るように動くため、胸郭の形状や動きも肩甲骨の運動に関係します。
加齢に伴って胸椎の可動性や胸郭周囲の組織の柔軟性が変化すると、肩甲骨の動きにも影響することがあります。
このように、肩甲骨の可動性は一つの筋肉や関節だけで決まるものではありません。肩全体を一つの連動したシステムとして捉えることが重要です。
5.肩甲骨の動きが制限されると、肩関節にどのような影響があるのか?
肩甲骨の動きは、上腕骨と肩甲骨の関節である肩甲上腕関節の運動と密接に関係しています。
肩甲骨の動きが十分でない場合、腕を動かす際に肩甲上腕関節など、ほかの部位の運動や負担のかかり方が変化する可能性があります。
例えば、腕を頭上へ上げる動作では、上腕骨と肩甲骨の両方が適切に動く必要があります。肩甲骨の運動が制限されていると、目的の動作を行うために、ほかの部位で動きを補うことが考えられます。
1995年の研究でも、加齢に伴う肩甲骨の可動域低下が、肩関節周囲の疾患に関係する可能性について考察されています。
ただし、ここで注意したいのは、肩甲骨の動きが小さいからといって、必ず肩の痛みや障害が生じるわけではないということです。
2025年に公表された腱板関連の肩の痛みに関する診療ガイドラインでも、運動療法には肩甲骨に焦点を当てた運動や、筋力トレーニング、運動制御の練習など、さまざまな方法が含まれています。
肩甲骨の運動は重要な選択肢ですが、すべての人に同じ運動を行えばよいわけではありません。痛みの有無、動作の制限、筋力、生活習慣などに応じて、必要なアプローチを考えることが大切です。
6.肩甲骨の柔軟性を維持するためにできること
加齢による身体機能の変化を完全に防ぐことはできません。しかし、日頃から身体を動かし、筋力や関節の動きを維持することは、身体機能を保つうえで重要です。
ここでは、肩甲骨周囲の運動を取り入れる際の基本的な考え方を紹介します。
① 肩甲骨をゆっくり動かす
まずは、肩甲骨を意識しながら、肩をすくめる、力を抜いて下ろす、肩甲骨を背骨に近づける、外側へ動かすといった動作を行います。
大切なのは、肩に力を入れすぎず、無理のない範囲で動かすことです。
肩甲骨の動きを意識することで、自分がどの方向へ動かしやすいのか、どの方向に動かしにくさがあるのかを把握するきっかけになります。
ただし、肩甲骨を強く寄せることだけが正しい動きではありません。腕を上げる際には肩甲骨が外側へ動いたり、上方へ回旋したりすることも必要です。
② 胸椎や胸郭の動きにも目を向ける
肩甲骨の運動を考える際には、背中の胸椎や胸郭の動きも重要です。
例えば、椅子に座って背中を無理なく伸ばす、胸椎をゆっくり回旋させるといった運動は、体幹の動きを意識する機会になります。
ただし、胸を張る姿勢を長時間維持することだけを目標にする必要はありません。自然な呼吸を続けながら、複数の方向へ身体を動かすことが大切です。
③ 肩甲骨周囲の筋力を維持する
肩甲骨の動きを支える筋肉には、僧帽筋や前鋸筋などがあります。
これらの筋肉は、肩甲骨の位置を調整し、腕を動かす際の安定性に関与しています。
筋力トレーニングを行う場合は、軽い負荷から始め、正確な動作で無理なく繰り返せる範囲で実施しましょう。
肩甲骨周囲の運動としては、軽いチューブを使ったローイングや、壁を利用した腕の上げ下げなどが選択肢になります。ただし、痛みや可動域制限がある場合には、運動の種類や負荷を個別に調整する必要があります。
④ 継続できる運動習慣をつくる
柔軟性や筋力を維持するためには、一度だけ強い刺激を与えるよりも、無理なく継続できる運動習慣をつくることが大切です。
2024年に発表された肩の痛みに対する肩甲骨の運動療法のシステマティックレビュー・メタ解析では、肩甲骨を対象とした運動を含むプログラムが、肩の機能の改善に役立つ可能性が報告されています。
一方で、痛みの軽減については、ほかの運動方法と比べて明確な優位性が確認されなかった解析結果もあります。
つまり、肩甲骨の運動には一定の有用性が期待されるものの、効果を過大評価せず、肩全体の運動や筋力トレーニングと組み合わせて考えることが重要です。
7.肩甲骨の運動で注意したいこと
肩甲骨の動きを改善しようとして、痛みを我慢しながら無理に腕を上げたり、強く引っ張ったりすることは避けましょう。
特に、次のような症状がある場合には注意が必要です。
- 腕を上げると強い痛みがある
- 急に肩が動かなくなった
- 転倒や外傷のあとから肩が痛む
- 夜間にも強い痛みが続く
- しびれや明らかな筋力低下がある
このような場合には、単なる柔軟性の問題と決めつけず、医療機関で原因を確認することが大切です。
また、肩甲骨の動きには個人差があります。左右の動きが完全に同じでなければいけないわけではなく、見た目の左右差だけで異常と判断することもできません。
重要なのは、年齢や身体の特徴に合わせて、無理なく日常生活や運動に必要な機能を維持することです。
8.まとめ:肩の健康を考えるなら、肩甲骨の動きにも注目しよう
肩甲骨は、腕の動きを支える重要な構造です。肩関節の動きは、上腕骨だけでなく、肩甲骨、鎖骨、胸郭、周囲の筋肉などが連携することで成り立っています。
1995年の研究では、幼児、30代、60代の対象者を比較した結果、調査した動作における肩甲骨の角度変化が年齢の高い群ほど小さくなる傾向が示されました。
この結果は、肩の機能を考えるうえで、加齢による肩甲骨の可動域の変化にも目を向ける必要があることを示しています。ただし、年齢だけで肩の動きが決まるわけではなく、個人差や生活習慣、関節や筋肉の状態も関係します。
肩の健康を維持するためには、肩甲骨だけを動かすことにとらわれず、胸郭の動き、肩周囲の筋力、全身の運動習慣を含めて考えることが大切です。
年齢を重ねても、身体を動かす習慣を大切にすること。
それが、日常生活やトレーニングで必要となる身体機能を維持するための基本になります。
Core&Calmでは、一人ひとりの身体の状態や運動経験に合わせて、無理のないトレーニングを大切にしています。肩や背中の動きが気になる方も、まずはご自身の身体の状態を知ることから始めてみましょう。
参考文献・引用論文
- 田中直史,夫猛,朴正秀,大槻伸吾,大久保衛.肩甲骨の加齢による可動域の変化についての検討.肩関節.1995;19(1):118–122.
- Effectiveness of specific scapular therapeutic exercises in patients with shoulder pain: a systematic review with meta-analysis. JSES Reviews, Reports, and Techniques. 2024;4(2):161–174. doi:10.1016/j.xrrt.2023.12.006.
- Desmeules F, et al. Rotator Cuff Tendinopathy Diagnosis, Nonsurgical Medical Care, and Rehabilitation: A Clinical Practice Guideline. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2025;55(4):235–274. doi:10.2519/jospt.2025.13182.
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