こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
― 膝が痛い。それは「老化」ではなく、身体からのサインかもしれません ―
朝起きて立ち上がるとき、階段を降りるとき、あるいは買い物帰りの帰路で
「ズキッ」と走る膝の痛み。
その一瞬の違和感が、いつしか「もう歳だから仕方ない」とあきらめる理由になっていませんか?
実は、膝の痛みは“ただの老化”ではなく、筋肉の働き方が変化しているサインであることが多いのです。
とくに太ももの前にある「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」は、私たちが立つ・歩く・階段を上るといった動作を支える“主役”とも言える筋肉。
この筋肉が弱ったり、思うように力を発揮できなくなったりすると、膝関節への負担が増し、痛みへとつながります。
近年の研究では、膝の痛みがある人ほど、筋肉の量はあっても力を出し切れていないという驚きの事実が明らかになっています。
つまり、「筋肉がある=健康」とは限らないのです。
本記事では、女性高齢者の「膝関節痛」と「大腿四頭筋筋力」との関係をやさしく、かつ科学的に解説します。
さらに、膝を守るための運動方法や日常生活のヒントもご紹介。
あなたの膝が再び軽やかに動くための第一歩を、ここから一緒に踏み出しましょう。

◆ 膝の痛みはなぜ起こるのか?
膝関節は、立つ・歩く・しゃがむといった日常のあらゆる動作に関わる重要な関節です。
しかし、加齢とともに軟骨がすり減ったり、関節の変形が進むことで「変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)」が生じやすくなります。
とくに70歳以上の女性では、約40%が膝の痛みを抱えているともいわれています。
痛みが出ると「動かすのが怖い」と感じ、自然と活動量が減少します。
その結果、筋肉が衰え、さらに膝への負担が増すという悪循環に陥るのです。
◆ 太ももの筋肉「大腿四頭筋」とは?
膝を伸ばすときに最も重要な筋肉が「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」です。
この筋肉は、太ももの前側にある4つの筋(大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋)から構成されており、膝の安定や立ち上がり動作、歩行時の衝撃吸収などに深く関わっています。
理学療法やリハビリの分野では、この大腿四頭筋の筋力が高いほど、歩行能力やバランス能力が良好になることが多くの研究で報告されています。
つまり、「太ももの筋力=下半身の健康のバロメーター」といっても過言ではありません。
◆ 研究で明らかになった「膝痛と筋力の関係」
西九州大学などの研究グループ(村田伸ほか)による論文では、女性高齢者47名(平均年齢77.9歳)を対象に、膝の痛みの有無と大腿四頭筋の筋力との関係を調べました。
● 研究の方法
被験者は整形外科に通院中の女性高齢者で、歩行や階段昇降で膝に痛みがある人と、痛みがない人に分けられました。
それぞれについて次の3つの項目を測定しています。
- 大腿四頭筋の筋力(ハンドヘルドダイナモメーターを使用)
- 大腿部の太さ(周径)
- 筋肉の厚さ(超音波測定)
● 結果の概要
- 痛みのないグループの方が、大腿四頭筋筋力が有意に高い(平均19.3kg)。
 一方、痛みのあるグループは平均16.0kgで、約20%弱の差がありました。
- しかし、大腿部の太さや筋厚には両グループで大きな差はなかったのです。
● 興味深いポイント
痛みのない人では「筋力」と「筋肉の太さ」や「周径」に明確な相関関係がありました。
つまり、筋肉が太いほど強いという、納得のいく結果です。
しかし、痛みがある人ではその関係が消失していました。
◆ 「筋肉の量があっても力が出ない」 なぜ?
研究結果から、膝痛を持つ高齢者では「筋肉があっても最大の力を出し切れていない」ことが示唆されます。
原因として考えられるのは次のような要素です。
- 痛みそのものが力発揮を抑える
- 痛みを感じると身体は“防御反応”を起こし、無意識に力をセーブします。
 
- 「動かすと痛い」という恐怖心
- 痛みへの不安が、筋肉の活動を心理的に抑制します。
 
- 神経的抑制(筋抑制現象)
- 膝関節内の痛みや炎症が神経系に影響し、筋肉への信号が弱まることがあります。
 
このような要因により、実際の筋力測定では潜在的な最大筋力の8割程度しか発揮できていない可能性があると研究者は述べています。
◆ 膝の痛みを抱える人に大切なこと
① 無理に力を出さないこと
痛みが強い状態で無理に筋力測定やトレーニングを行うと、かえって悪化する恐れがあります。
理学療法士や医師の指導のもと、痛みの範囲を確認しながら段階的に進めることが大切です。
② 筋肉を「守る」軽い運動から
水中歩行や椅子に座っての膝伸ばし運動など、関節に負担の少ないエクササイズがおすすめです。
痛みのない範囲で筋肉を動かすことで、血流が改善し、関節内の炎症物質も減少します。
③ 継続が最大のリハビリ
筋力低下は数週間の安静でも起こりますが、回復には数か月かかります。
1日10分でも「続ける」ことが筋力維持の鍵です。
◆ 理学療法の現場から見た今後の課題
この研究は、「ハンドヘルドダイナモメーター」という簡便な測定機器を使った実験でした。
ただし、膝に痛みがある高齢者の場合、現在の測定法では真の筋力(潜在的最大筋力)を測りきれない可能性があります。
そのため、研究者たちは「痛みを誘発しない新しい測定法の開発」が必要だと指摘しています。
また、近年では超音波による筋厚測定やAIを活用した筋力推定法など、非侵襲的でより正確な方法も注目されています。
こうした技術が進めば、膝痛を抱える方でも安全に筋力を評価し、より効果的な運動療法を計画できるでしょう。
◆ 日常生活でできる大腿四頭筋トレーニング
膝の痛みを予防・軽減するには、大腿四頭筋を「使い続ける」ことが何より大切です。
以下に、自宅でも安全にできる基本的な筋トレを紹介します。
- 椅子での膝伸ばし運動
 背もたれのある椅子に座り、片脚ずつゆっくり膝を伸ばします。
 5秒伸ばしたら戻す、を10回×2セット。
- 壁スクワット
 背中を壁につけて立ち、膝が軽く曲がる程度まで腰を落とします。
 膝がつま先より前に出ないよう注意し、5秒キープ。
- 太ももタオル押し
 座ったまま膝の下に丸めたタオルを入れ、下方向にグッと押しつけます。
 太ももの前の筋肉に力を感じながら、5秒×10回。
※痛みを感じたらすぐに中止し、理学療法士などに相談しましょう。
◆ まとめ:膝の痛みを減らすカギは「太ももの筋肉」
膝関節痛を予防・改善するうえで、大腿四頭筋の筋力は非常に重要です。
今回紹介した研究によると、膝に痛みがある高齢女性では、筋肉の量が同じでも十分な力を発揮できないことがわかりました。
そのため、単なる筋トレではなく、痛みに配慮した正しい方法と継続的なリハビリが求められます。
「もう歳だから…」とあきらめる必要はありません。
筋肉は年齢に関係なく、使えば必ず応えてくれる臓器です。
今日から少しずつ、あなたの膝と向き合ってみましょう。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
🔖参考文献(引用元)
村田 伸・甲斐 義浩・大田尾 浩・松永 秀俊・冨永 浩一・松本 武士・吉浦 勇次・北嶋 秀一・角 典洋(2009)
 女性高齢者の膝関節痛と大腿四頭筋筋力との関連.理学療法科学, 24(4), 499–503.
 Murata, S., Kai, Y., Otao, H., Matsunaga, H., Tominaga, K., Matsumoto, T., Yoshiura, Y., Kitajima, H., & Sumi, M. (2009).
 Relationship between Arthralgia of the Knee Joint and Muscle Strength of the Quadriceps Femoris in Elderly Women.
 Rigakuryoho Kagaku (Physical Therapy Science), 24(4), 499–503.



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