こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「乳酸がたまると疲れる」というイメージをお持ちの方は多いかもしれません。しかし近年の研究では、乳酸は単なるゴミ(疲労物質)ではなく、体を動かすための大切なエネルギー源であることが分かっています。
今回は、乳酸の生成と再利用を支える酵素「LDH」の仕組みについて解説します。
1. 乳酸を作る・戻す鍵「LDH(乳酸脱水素酵素)」
糖を分解してエネルギーを作る過程で「ピルビン酸」という物質が生まれます。このピルビン酸を乳酸に変換する(あるいはその逆を行う)のが、乳酸脱水素酵素(LDH:Lactate Dehydrogenase)です。
LDHは4つの「サブユニット(部品)」が組み合わさってできており、その組み合わせによって性質の異なる5つのタイプ(アイソザイム)に分かれます。
- H型(Heart): 心筋に多く、乳酸をピルビン酸に戻す(酸化)反応が得意。
- M型(Muscle): 骨格筋に多く、ピルビン酸を乳酸に変える(還元)反応が得意。
これらが組み合わさり、組織ごとに最適なタイプが配置されています。
- LDH-1(H₄): 心臓・赤血球に多く、乳酸を素早くエネルギーへ変換。
- LDH-5(M₄): 骨格筋(特に速筋)に多く、瞬発的な運動時に乳酸を生成。
2. なぜ、まず乳酸ができるのか?
エネルギー代謝が行われる際、ピルビン酸は「細胞質」で作られます。これをミトコンドリアで燃やすには手間と時間がかかりますが、細胞質に豊富にあるLDH(M型)によって乳酸に変換する反応は非常にスピーディーです。
「まずは乳酸にして、あとで再利用する」という流れは、激しい運動時に素早くエネルギーを供給するための、効率的な戦略なのです。
3. 「乳酸シャトル」によるエネルギーの再利用
作られた乳酸は、血液を通じて他の場所に運ばれ、エネルギーとして再利用されます。
- 速筋(瞬発系の筋肉): 糖を分解し、どんどん乳酸を作る。
- 遅筋(持久系の筋肉)や心筋: 運ばれてきた乳酸を積極的に取り込む。
心筋や遅筋には、乳酸を運ぶドアの役割をする「MCT1(乳酸輸送体)」や、乳酸をピルビン酸に戻す「H型LDH」、そしてエネルギーを作る「ミトコンドリア」が豊富に存在します。
つまり、「速筋で作られた乳酸を、遅筋や心筋が燃料として燃やす」という連携プレー(乳酸シャトル)が体内で行われているのです。
まとめ
- 乳酸脱水素酵素(LDH)には、乳酸を「作るタイプ」と「再利用するタイプ」がある。
- 速筋は乳酸を作り、遅筋や心筋は乳酸をエネルギーとして再利用する。
- 乳酸はミトコンドリアで効率よく燃やされる「優れたエネルギー源」である。
「乳酸=悪者」ではなく、「乳酸=エネルギーを循環させるためのパス」と考えると、運動中の体の仕組みがもっと面白く見えてくるはずです。
引用・参考文献
- Brooks, G. A. (1986). The lactate shuttle during exercise and recovery. Medicine and Science in Sports and Exercise, 18(3), 360–368.
- Brooks, G. A. (2018). The Science and Translation of Lactate Shuttle Theory. Cell Metabolism, 27(4), 757–785.
- Gladden, L. B. (2004). Lactate metabolism: a new paradigm for the third millennium. The Journal of Physiology, 558(Pt 1), 5–30.
- 八田秀雄 (2009). 『乳酸をどう考えるか―パフォーマンスとの関係から、再利用まで』 杏林書院.
- Nelson, D. L., & Cox, M. M. (2017). Lehninger Principles of Biochemistry (7th ed.). W. H. Freeman.(LDHアイソザイムの構造と分布に関する記述)
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

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