―都市化と肩こり・腰痛の深い関係―
こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
日本人の多くが悩まされる「肩こり」「腰痛」。厚生労働省の調査では、自覚症状のトップを常に占めており、まさに国民病といえる存在です。整形外科や整体院、マッサージなどを利用する人も少なくありませんが、「一時的に良くなるが、またすぐに再発してしまう」という声もよく聞かれます。
では、なぜこれほど多くの人が慢性的な痛みに悩むのでしょうか?近年の研究によって、その背景にはストレスや都市化といった社会的要因が大きく関わっていることが明らかになってきました。
本記事では、最新の研究をもとに「ストレスと体の痛みの関係」「都市化がもたらすリスク」「心と体の悪循環」について掘り下げ、最後に私たちができる予防策や改善のヒントを紹介します。

日本人に多い肩こり・腰痛の実態
肩こりや腰痛は、医学的には「筋骨格系症状」と呼ばれます。特に日本では有訴率が高く、ある調査では腰痛を訴える人は約4割、肩こりは約3割にのぼりました。
一見すると、これらは「姿勢が悪い」「筋肉が弱い」といった身体的要因に原因があるように思えます。しかし実際には、画像診断や血液検査などで明確な異常が見つからないケースが非常に多いのです。
その結果、「気のせいだ」「加齢だから仕方ない」と片付けられがちですが、研究は別の方向性を示しています。つまり、痛みは心身相関の現れであり、心のストレスが体の不調に直結しているのです。
ストレスと身体症状 ― 心身はつながっている
人間の体はストレスを受けると、自律神経が乱れやすくなります。特に交感神経が優位になると筋肉が緊張し、血流が悪化。すると乳酸などの代謝産物が筋肉にたまり、痛みやだるさが生じやすくなります。
例えば、仕事で強いプレッシャーを受けると、肩や首が自然と硬くなる経験は多くの人がしているはずです。これが慢性的に続くと、いわゆる「肩こり」や「緊張型頭痛」として自覚されるのです。
日本全国の統計データを解析し、ストレスの自覚度と筋骨格系症状の関係を調べました研究があります。その結果、
- 肩こりは1995年・2001年ともにストレスとの関連が強い
- 腰痛もストレスと相関が見られる(特に2001年データ)
- 関節痛も2001年では関連が確認された
と報告されています。
つまり、「肩がこるのは姿勢のせい」だけではなく、「心の負担」が直接影響しているのです。
都市化が痛みを増幅する?

研究では、ストレスの背景要因として「社会生活指標」が分析され、以下の3つに分類されました。
- 都市化(人口密度の高さ、一次産業就業者の少なさ、高学歴化、核家族化など)
- 高齢化と生活の規則性(高齢者割合、規則正しい生活習慣など)
- 個人化(家族人数の少なさ、離婚率の高さなど)
このうち特に重要なのが都市化です。都市化が進んだ地域では、
- 競争的な労働環境
- 通勤ストレス
- 運動不足や不規則な生活
- 自然との接触の少なさ
などによって、慢性的なストレスが増大しやすく、その結果、肩こりや腰痛の訴えが増えることが確認されています。
都市生活は便利で快適な一方で、心身に「見えない負担」を積み重ねているのです。
心と体の悪循環
ストレスによって筋肉が緊張 → 痛みが発生 → 痛みによる不安やイライラがさらにストレスを生む…。
このように、心と体は悪循環に陥ります。慢性痛を抱える人が「気分が落ち込みやすい」「眠れない」と訴えるのは、この仕組みによるものです。
実際、心身医学の臨床では、腰痛や肩こりがうつ症状のサインである場合も少なくありません。つまり、「痛み」は単なる身体症状ではなく、心のSOSでもあるのです。
公衆衛生の観点から見る痛みの予防
研究の意義は、個人レベルだけでなく、地域や社会レベルでの健康対策の必要性を示している点にあります。
- 一次予防(発症予防)
地域や企業での健康診断で、肩こりや腰痛の訴えが多ければ「ストレス対策が必要」と判断できる。 - 二次予防(早期発見・介入)
慢性的な肩こりや腰痛を訴える人に対して、うつ病や不安障害など精神的な問題のスクリーニングを行う。 - 三次予防(重症化防止)
慢性痛による休職や生活の質低下を防ぐため、リハビリや心理的サポートを組み合わせる。
つまり、肩こりや腰痛を「単なる身体の不調」とせず、社会的ストレスのバロメーターとして捉えることが重要なのです。
個人でできるセルフケア
最後に、都市化社会を生きる私たちが、日常でできる工夫を紹介します。
- 体をほぐす習慣を持つ
1時間に1回は立ち上がり、肩を回す、首を伸ばす。 - 呼吸とリラックス
深呼吸、瞑想、ヨガなどで自律神経を整える。 - 睡眠環境の改善
寝る前のスマホを控え、規則正しい就寝リズムを意識する。 - 人とのつながりを大切にする
孤独はストレスを増幅させます。友人や家族との会話は、最良のストレス解消法のひとつです。 - 専門家に相談する勇気
長引く痛みは整形外科だけでなく、心療内科や精神科での診察も視野に入れる。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
まとめ
肩こりや腰痛は、単なる身体的な問題ではなく、ストレスや都市化という社会的要因と密接に関連しています。
現代人にとって、完全にストレスを避けることは不可能です。しかし、自分の体と心の声に耳を傾け、小さな工夫を積み重ねることで、慢性的な痛みから解放される可能性は十分にあります。
痛みは「心身の警告サイン」です。無理に我慢せず、体と心の両方をケアしていきましょう。
参考文献
1)竹内武昭,中尾睦宏,野村恭子,錦谷まりこ,矢野栄二:
ストレス自覚度ならびに社会生活指標が腰痛・関節痛・肩こりに及ぼす影響:都道府県別データの解析.
心身医学 47(2):103–109,2007
2)厚生労働省大臣官房統計情報部(編):
平成7年国民生活基礎調査.厚生統計協会,1997
3)厚生労働省大臣官房統計情報部(編):
平成13年国民生活基礎調査.厚生統計協会,2003
4)中尾睦宏,久保木富房:
ストレスとメンタルヘルス:成人のストレス.Clinical Neuroscience 20:514–516,2002
5)Takeuchi T, Nakao M, Nishikitani M, et al.
Stress perception and social indicators for low back, shoulder and joint pains in Japan: national survey in 1995 and 2001.
Tohoku J Exp Med 203:195–204,2004
コメント