こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「筋肥大を狙うなら重い重量で8〜12回が基本」
この言葉は、筋トレを始めた人なら誰もが一度は耳にしたことがある定番の“常識”です。
しかし、近年の科学的研究は、私たちが長年信じてきたこの常識を大きく揺るがしています。
「軽い重量でも筋肥大は重い重量と同程度に起こる」
という非常に重要な結論を明確にしています。
この結論は、筋トレ初心者はもちろん、熟練者、高齢者、さらにはリハビリ目的の方にとっても、
トレーニングの常識を根本から変える可能性を秘めています。
本記事では、
筋肥大の科学メカニズム → 強度と量の関係 → 実際のトレーニング方法 → 誰にどう活かすか
を総合的に解説していきます。

筋肥大の仕組み——なぜ筋肉は太くなるのか?
筋肥大(Hypertrophy)は、筋線維一本一本が太くなることで筋断面積(CSA)が増える生理現象です。
その背景には、以下の3つの主要なメカニズムが働いています。
● ① 機械的張力(Mechanical Tension)
- 高重量を扱うと、筋の張力が増し、筋肥大シグナル(mTOR)を強く刺激する。
- 従来は「これこそが筋肥大の中心」と考えられていた。
● ② 代謝ストレス(Metabolic Stress)
- 高回数・短休憩で得られる“パンプ”の状態。
- 乳酸、細胞腫脹、イオン濃度変化などが肥大シグナルを刺激。
● ③ 筋損傷(Muscle Damage)
- エキセントリック動作などで起こる微細破壊。
- ただし過剰な損傷は回復を阻害し逆効果。
これらが複合的に作用することで筋肥大は起こります。
従来は「重い重量=機械的張力が大きい=強い肥大」という流れで理解されていました。
しかし、最新研究は 「軽い重量でも限界まで行えば、筋繊維動員は最終的に重い重量と同等になる」
と示しています。
論文が示す衝撃的な結論:軽い重量でも重い重量でも筋肥大は同じ
2015年以降の主要研究を整理し、次の結論を導いています。
✔ 低負荷(30〜40%1RM)でも、高負荷(80%1RM)と同程度の筋肥大が起こる。
✔ 筋肥大には「限界までの努力度」が最重要で、重さ自体は決定要因にならない。
✔ 筋力向上は高負荷が有利だが、筋肥大は低負荷でも十分可能。
主要研究を詳しく解説
ここからは、紹介されている研究を噛み砕きながら解説します。
● 研究① Lasevicius ら(2018)
- 男性30名、下肢・上肢をそれぞれ20%、40%、60%、80%1RMで比較
- 各セットは限界まで
→ すべての強度で筋肥大の量は同等
ここで重要なのは
「軽い重量群は重い重量よりも圧倒的にレップ数が多かった」
という点。
つまり、
軽い重量=量(レップ数)が多くなるため最終的な刺激量が大きい
ということです。
● 研究② Schoenfeld ら(2015)
- 下腿三頭筋を低強度(20〜30RM) vs 高強度(6〜10RM)で比較
→ 筋肥大に差なし
下腿三頭筋は遅筋の割合が多いため「高回数が効きやすい」とされますが、
結果は「重さではなく限界までやること」が鍵であることを示しています。
● 研究③ Morton ら(2016)
- 若年男性49人
- 20〜25回の高レップ vs 8〜12回の一般的“筋肥大ゾーン”
→ どちらも除脂肪体重の増加は同程度
筋肥大を支配していたのは
努力度(限界まで追い込んだかどうか)
であり、重量ではありませんでした。
では軽い重量を使えばいいのか?メリットとデメリット
軽い重量で筋肥大が可能と聞くと、「じゃあ軽い方がいいじゃん!」と思うかもしれません。
しかしそれぞれメリット・デメリットが存在します。
【軽い重量のメリット】
- 関節や腱への負担が少ない(ケガを防げる)
- 高齢者・初心者でも扱いやすい
- 自宅トレーニングでも高レベルの刺激が得られる
- セーフティ設備が不要
【軽い重量のデメリット】
- とにかくツラい(代謝ストレスが強い)
- 高レップは酸欠感がつらく心理的負担が大きい
- 時間がかかる
特に軽い重量で20〜30回を限界まで行うと、
“脚が焼けるように痛い”“気分が悪くなる”など、多くの人が続けにくい傾向があります。
一方、高重量は高重量で
- フォームが乱れやすい
- ケガリスクが高い
- トレーニング初心者には危険
という問題があります。
結論:筋肥大には「軽い×重い」を両方使うのが最適
導かれる最適解は、
✔ 中〜高重量で機械的張力を確保しつつ、低重量で代謝ストレスを足す。
✔ 両方組み合わせることで、筋肥大メカニズム3要素を最大化できる。
実践編:今日から使える筋肥大プログラム
ここからは実際にどうプログラムに落とし込むかを提案します。
● 1週間の基本設計(部位別)
- 中重量(70〜80%1RM)で8〜12回:基礎刺激を作る
- 低重量(30〜40%1RM)で20〜30回:代謝ストレスで仕上げ
- 週あたり10〜20セット/筋群:筋肥大に必要な総量
● 具体例:胸トレ(初心者〜中級者)
- ベンチプレス(80%1RM) 8〜10回 × 3セット
- ダンベルフライ(40%1RM) 15〜25回 × 2セット
- ケーブルクロス(30%1RM) 20〜30回 × 2セット
→ 機械的張力+代謝ストレスが揃う最強構成。
● 高齢者・初心者向け(安全性重視)
- 20〜40%1RM
- 10〜20回
- 限界までやらなくてもOK
- 週2〜3回の軽いサーキット
軽い重量でも十分刺激が入るため、特に高齢者にとって重要な「継続」がしやすい。
研究が示す未来——“重さ”に縛られないトレーニングへ
「筋肥大は重さで決まらない」
というシンプルかつ強力なメッセージ。
これは、
- 高重量が怖い
- 自宅トレしかできない
- トレ歴が浅い
- 体が弱い
といった人々の可能性を大きく広げます。
さらに、研究は今後、
- 血流制限トレーニング(BFR)
- 時間管理型トレーニング(Time Under Tension)
- 個別化されたボリューム設定
など、より精密な「筋肥大の最適条件」を掘り下げていくと予測されています。
まとめ:筋肥大の鍵は“重さ”ではなく“限界近くまでの努力”
最後に重要ポイントを整理します。
✔ 重い重量でも軽い重量でも、筋肥大は同程度
✔ 筋力向上には高重量が必要
✔ 筋肥大には努力度(限界までの追い込み)が最重要
✔ 安全性・継続性を考えると軽負荷の価値は非常に高い
✔ 最適解は「中重量×低重量」のハイブリッド戦略
あなたの身体は、扱った重量の大きさではなく、
どれだけ筋肉を追い込んだかに反応します。
安全に、賢く、そして継続的に。
今日からあなたのトレーニングが、より科学的で効果的なものへ進化していくことを願っています。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
引用文献
Callegari I.O.M., Santarem P.S.M., Arrivabene T.T., Oliveira A.G.
「レジスタンストレーニングの異なる強度が筋肥大に及ぼす効果―ナラティブレビュー」
NSCA JAPAN Strength and Conditioning Journal, 2025.

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