100m走で差がつく!正しいスタート姿勢と重心の使い方|速くなるための科学的トレーニング法

アスリート
2025年10月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

~スタートで勝つための「姿勢」と「重心」の秘密~

こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

短距離走、特に100 mという「一瞬で決まる」レースにおいては、スタートの1歩目が勝負の鍵を握ります。

いくら体力・筋力があっても、スタートブロックからの離陸が鈍ければ、その後の加速フェーズで差を詰められず、トップスピードに乗せるまでに取り返しのつかない時間を失います。

ここでは、スタート姿勢・重心の使い方を「なぜパフォーマンスに効くのか」という科学的根拠を交えつつ、具体的なポイントとして解説します。

なぜスタート姿勢が100 mのレースを左右するのか?

100 mのレースでは、スタートブロックから0〜5 m付近までの加速で勝負の半分以上が決まる、というデータがあります。例えば、スタートのブロック離脱直後に得られる速度は、最終ラップのトップスピードの3分の1程度に達することもあると言われています。
つまり、ブロックスタートから第1歩、第2歩の「加速の立ち上がり」が極めて重要です。

そのためには、ただ“速く脚を動かす”というよりも、

  • 地面に大きな「水平(前方)方向の力」を出すこと
  • そのための重心の位置・姿勢を整えること
    が重要になってきます。研究でも「ブロックからの押し出す力(特に水平成分)が高い選手ほどスタートが速い」ことが示されています。

スタート姿勢を作る3つのフェーズ

スタートは大きく「On Your Marks(準備)」「Set(構え)」「Go/ブロック離脱」の3段階に分類できます。姿勢・重心の扱い方もこの流れに沿って考えると整理しやすいです。

1. “On Your Marks”―足・手・ボディの初期配置

まず「On Your Marks」の段階では、スターティングブロックを使用して脚をセットします。姿勢としては、

  • 両手を地面に置き、肩幅よりやや広めに。
  • ブロックの前後板(フロント・リア)に足をセット。
  • 胴体を軽く前傾させ、視線は斜め下方。

この時点ではまだ“動き出す姿勢”ではなく“動き出すための準備姿勢”ですが、重心の初期位置が後ろすぎる・前すぎると推進力を効率よく地面に伝えられません。

「重心をやや前方(スターティングライン寄り)に置いて、脚・腕がスムーズに動ける準備を整える」

ことがポイントです。研究によると、重心をスタートライン寄り・低め(地面との距離が近め)に設定している選手の方が、強い推進力を出しやすい傾向があります。

2. “Set”―構え姿勢・重心の詰めどころ

次に「Set」の合図で構えに入ります。ここがスタート成功の鍵とも言える段階で、体の角度・脚の角度・重心の前後位置・ブロックとの接触力が整っていなければ、離脱時のロスにつながります。

具体的には:

  • フロント脚(前側の脚)の膝角度をおおよそ90°前後に。リア脚(後ろ側)の膝角度を120〜135°程度に取る選手も多く報告されています。
  • 腰・胴体は前傾気味。理想的には離脱直後の加速方向に体重・重心を前に出せるよう、上体と下肢が一直線に近づくような姿勢。
  • 重心位置としては「ややスターティングライン寄り」かつ「低め」。これにより、押し出す脚が最初から効率的に「前方かつ少し上方向」への力を地面に伝えやすくなります。文献では、「重心をスタートラインに近づけ、体が低めであること」が加速性能向上に関連するとされます。
  • ブロックに対する荷重=脚がブロックにしっかりくい込んでいること。つまり、脚・臀部・体幹が“準備された弾性”として作用できるよう、軽い緊張を保つことが望ましいです。脚をただ収めるだけでなく、「押す準備が整っている」状態にしておくことが重心の使い方においても重要です。

この「Set」姿勢の段階でのポイントを押さえることで、次の「Go」段階での推進力の発生にスムーズにつなげることができます。

3. “Go/ブロック離脱”―重心を前方へ転移し、加速へ移る

号砲が鳴ったら、準備していた重心を前方へ転移させつつブロックを強く押し出し、加速フェーズに移ります。この離脱・第1歩・第2歩で差が決まります。

重心と力の使い方を整理すると以下のようになります:

  • ブロックから脚を押し出す際、前方水平成分の力(地面を後方・下方向に押すことによる反力で前方に体を押す力)が最も重要。文献では、高レベルスプリンターはこの水平力が大きいとされています。
  • 同時に「少し上方向」の成分も必要です。完全に水平に押すと地面の反力が水平すぎて上体が沈み込む可能性があるため、適度な垂直成分もあることで、脚が“押した反力”で体を前かつ上に向かわせ、重心の移動をスムーズにします。
  • 重心の移動スピードを高めるためには、脚・臀部・体幹の連動が重要。「脚が押し出す」→「重心が前へ移る」→「上体が前傾から徐々に立っていく」という動作の流れをスムーズに行えることが、加速立ち上がりの鍵です。
  • 研究では、「最初のフライト(飛び出し)時間が短く」「第1接地(第1歩)の接地時間が少し長め(推進力を発揮する時間を確保)」の選手が加速段階で有利であると報告されています。
  • 足首・膝・股関節の“硬さ”(stiffness)=反発力を出せる能力も関連があります。たとえば離脱直後の足首の“たわみ”が少ない(=硬い構えができている)方が、効率的に力を地面に伝えられるというデータがあります。

以上を踏まると、スタートで最も意識すべきは「重心を自分でコントロールし、力を地面に伝える」ことであり、「脚を速く動かすだけ」では決して十分ではない、ということが浮かび上がります。

スタートで差をつけるための「重心」の具体的ポイント

ここからは、重心という視点を軸にして、スタート姿勢・離脱において意識すべきポイントを整理します。

重心を「低く・やや前に」セットする

スタート時の重心が高すぎると、脚で押した力の多くが垂直成分(上方向)に消え、前方推進力が減ります。逆に重心が低すぎる・後ろすぎると、前方への押し出しに時間がかかり、加速開始が遅くなります。
理想的には、スタート時点で重心がやや前方・低め(膝・股関節がしっかり曲がっていて、上体前傾がある)という状態です。研究では、このような重心設定が初動加速に強く関係するとされています。

また、重心の“前寄り”とは具体的には「スターティングラインに対して体幹(重心)が少しでも近づいている」「体が起き上がっていない状態」などを意味します。これにより、ブロックを押し出した瞬間から前方への力の伝達がスムーズになります。

「前→上」への重心移動を滑らかに行う

離脱後、重心は単に前に進むだけではなく、徐々に「前から上」へシフトしていくことが重要です。なぜなら、100 m走の初期加速段階では“地面を後ろ・下に押して”前・上方向へ体を移動させる反力を利用するからです。

例えば、脚で地面を押す際、完全に地面に対して垂直に押してしまうと上昇成分が多くなり、前方への速度が効率的に生まれません。一方で、真っ水平に押すと上体が沈んでしまい、せっかくの反力が推進力にならない可能性があります。

そのため、適切な“押す角度”=“重心転移の軌道”を意識する必要があります。優れたスプリンターはこの押し出し→重心移動がスムーズで、力のベクトルが有効に前方へ働いています。

リア脚・フロント脚の使い分けと重心コントロール

スタートブロックで脚をセットする際、「前脚(フロント)」「後脚(リア)」がどのように重心移動に寄与するかを理解しておくと、姿勢が安定しやすくなります。

研究によれば、高レベルスプリンターは「フロント脚での水平力が大きく」「リア脚での垂直力を最小限に抑えている」ことが確認されています。

これを重心の視点で言い換えると、前脚を主体に“前方へ押し出す重心移動”を行い、後脚はその押し出しを支える役割(垂直的な跳ね上げではなく水平推進に寄与)に徹していると言えます。

つまり、重心を前脚方向へ有効に移動させるためには、前脚をしっかり押せるポジション(膝・股関節・足首の角度)をつくり、リア脚は“上ではなく前”への反力発生に貢献するように使う、という意識が大切です。

離脱直後の重心管理:第1接地・第2接地で差をつくる

スタート直後の第1接地(ブロック離脱後最初の足の接地)から第2接地にかけて、重心移動は加速曲線の中で最も重要な部分。

研究では、優秀なスプリンターほど「第1飛行時間が短く」「第1接地での接地時間がやや長め=しっかり力を伝えている」ことが示されています。

重心の観点では、離脱時に前方へしっかり移動しておき、接地した瞬間に「体の重心が脚を通じて速く前方に進む」ことができているかが鍵です。もし重心の移動が遅かったり、脚の動きと重心移動がずれていたりすると、地面に対する反力を無駄にしてしまい、加速が鈍る原因になります。

練習・トレーニングとして意識すべきこと

理論が理解できたところで、実際にトレーニング現場で取り入れられる姿勢・重心の使い方を紹介します。初心者〜中級レベルの選手でも実践しやすいものです。

  1. ブロックスタート反復練習(短距離:5-10 m)
     ・脚・ブロック設定・重心を「低め・前寄り」に調整して、30〜40%程度の力で5回反復。
     ・離脱直後、重心が前方へ滑らかに移る感覚を自覚する。
     ・反復するごとに力を徐々に上げ、「前脚で押す」「重心を前に転移させる」感覚を明確にする。
  2. 動画撮影+姿勢チェック
     ・「Set」時の膝・股関節の角度、上体の前傾具合、重心位置(体幹の垂直投影)を自分で撮影。
     ・理想的な姿勢=「前脚膝約90°」「リア脚膝120-135°前後」「上体前傾」「重心がスタートライン寄りかつ低め」あたりを目安に。文献ではこのような角度が確認されています。
     ・ブロック離脱直後の第1歩動作も撮影して、重心移動が「前→少し上」へ滑らかかを確認。
  3. 重心移動ドリル(ブロックレスでも可)
     ・スプリント用スタートポジションをとり、「前脚で強く押す→重心を前に滑らせる」動きを意図的に練習。
     ・例えば、スタティック(静止)から「セット→Go(10 m)」を意識し、特に第一歩・第二歩において「体重が後ろ脚から前脚へ/重心が前方に移っている」感覚を丁寧に掴む。
     ・鏡や動画で「押し出し時に体幹が一気に前方に移っているか」「脚だけ・上体だけが動いて重心が置き去りになっていないか」をチェック。
  4. 筋力・可動域の補強
     ・脚(特に前脚側)で水平に押し出せる力をつけるため、スクワット・デッドリフト・ランジなどの下肢主力トレーニングを行う。研究では、スタートにおける脚・股・膝・足首の“硬さ”または反発力の強さが、加速初期に関連していることが報告されています。
     ・足首・膝・股関節の可動域を保つためのストレッチ・ダイナミック可動域ドリルも重要。重心を低め・前寄りに構える際、関節可動域の制限があると理想ポジションが取りづらくなります。

よくある失敗パターンと改善策

実際にスタート姿勢・重心移動を意識して練習していても、「あれ? うまく前に出ない」「第一歩がもたつく」と感じることがあります。ここでは典型的な失敗とその改善策を紹介します。

失敗①:重心が後ろ過ぎている

→ ブロックから押し出しても「前に出ない」「脚が空回りする」感じがある場合、構え時に体重が後脚寄りor重心が後方すぎる可能性があります。
改善策:構え時に体幹を少し前傾させ、重心がスタートライン寄りであるか意識。前脚に荷重を少し多めにして「前脚で押し出す準備」を整える。

失敗②:姿勢が高すぎる/上体が起きすぎ

→ 上体が起きていると、脚の押し出しが垂直成分に偏り、前方加速が鈍る可能性があります。
改善策:構え時から腰・股関節をしっかり曲げて、重心が低い位置にあるかを確認。離脱直後も上体は徐々に起き上がるイメージで、初動は前傾を維持。

失敗③:脚の動きは速いが重心移動が追いついていない

→ 脚が速く動いても、重心の移動が遅ければ“脚だけ動いて体が遅れている”状態になりがちです。
改善策:動画を撮って、脚の動きと体幹(重心)の動きのズレを確認。脚が離地・接地するタイミングと、体幹(重心)が前に移動するタイミングが揃っているかを意識する。

まとめ:スタート姿勢・重心使いこなしで100 mの加速を制す

100 m走で“スタートからの加速”がレースを左右する以上、スタート姿勢・重心の使い方は極めて重要です。以下に改めて要点を整理します。

  • スタート時は「重心を低く・やや前にセット」すること。膝・股関節を曲げ、上体を前傾。
  • 「Set」姿勢では、前脚・後脚の角度・荷重バランス・体幹位置を整え、押し出し準備を整える。
  • 「Go」では、前脚主体で「前へ・少し上へ」重心を移動させ、地面への押し出しを最大化する。脚・体幹・重心が連動して動けることが加速優位につながる。
  • 練習では、ブロックスタート反復・動画による姿勢チェック・重心移動ドリル・筋力・可動域トレーニングをバランス良く取り入れる。
  • よくある失敗(重心が後ろ/姿勢が高すぎ/脚と体幹の動きがずれている)に対しては、構えの重心位置、上体角度、脚・体幹の連動性を再確認することで改善可能。

“速く脚を動かす”=“加速できる”ではありません。
むしろ、重心を“どう動かすか”=“どこに力を伝えるか”が、初動加速において勝敗を分けます。

姿勢・重心の使い方を磨くことで、100 m走でスタートからリードを奪う可能性がぐっと高まります。

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。

\ 最新情報をチェック /

著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

井上 裕司をフォローする
アスリート
井上 裕司をフォローする
Core&Calm(コアカーム) パーソナルジム × リラクゼーションサロン蓮田店

コメント

PAGE TOP