こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
私たちの心と体に深く関わる「セロトニン」。
しばしば「幸せホルモン」と呼ばれるこの物質は、気分の安定や睡眠の質、食欲、意欲、さらには記憶や学習といった認知機能にまで影響を与えることが知られています。
近年、このセロトニンに関する研究は急速に進み、従来の「うつ病=セロトニン不足説」を見直す動きや、意欲の仕組み、免疫やがん治療への応用可能性など、驚くべき発見が次々と報告されています。
本記事では、最新の研究成果をもとに、セロトニンの役割とその可能性をわかりやすく解説します。専門的な知見を取り入れつつ、一般の方にも読みやすい形でまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。

1. セロトニンとは?基本をわかりやすく整理
セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)は、脳内および末梢で多彩な働きを担う神経伝達物質です。
気分や睡眠、食欲、腸の蠕動、止血、さらには認知機能などにも影響を及ぼします。
非常に広範囲に作用する「万能選手」として知られており、いわゆる“幸せホルモン”とも呼ばれます。
2. 精神状態への関与:うつとの関係を再検証
長年、「うつ病はセロトニン不足が原因」という仮説が広く信じられてきましたが、近年のメタレビューはこの見解に異を唱えています。
2022年の“umbrella review”では、うつ病とセロトニンの濃度や活性には一貫した関係がないと結論づけられました。
一方、2025年5月に発表された systematic review & 多層メタ分析では、セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTT)のプロモーター部のメチル化と抑うつ症状との関連を探り、一部の研究では過剰なメチル化が高い抑うつリスクと結び付く可能性が示唆されていますが、メソッドの違いから結果には差異もあり、今後の統一的な研究が求められています。
3. 認知機能・行動への影響
- 注意力や処理速度の改善
統合失調症に対して5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト治療が、注意力や処理速度の向上に寄与しているとするRCTのシステマティックレビュー(Neuropsychopharmacology Reports, 2025年6月)があります。 - ネガティブ情報への対応と記憶改善
セロトニンが増加すると、ネガティブ情報に直面した際の行動制御能力が高まり、記憶にもプラスの影響をもたらすことが判明しました。
4. 意欲(モチベーション)と努力行動への作用
セロトニン低下が「報酬の魅力の低下」と「億劫感の出現」という2つの要因で意欲低下を引き起こすことが発見されており、特定の受容体が関与していると報告されています。
また、セロトニンは「結果」ではなく「努力プロセス」に作用し、楽観と悲観のバランス調整に影響することで、努力そのものの価値や幸福感を高めている可能性が示されています。
5. 覚醒・脳血流調節などの生理的作用
縫線核から大脳皮質へ投射するセロトニン神経が、覚醒に伴う神経血管連関(neurovascular coupling)を通じて、アストロサイトを活性化し、血管平滑筋にも働きかけ、結果として脳血流を低下させるメカニズムが明らかになってます。
6. 生殖機能および免疫との関係
- 生殖機能への関与
視床下部から分泌されるセロトニンが性腺刺激ホルモンの分泌を促し、卵胞発育中枢に働きかけることで生殖機能維持に影響することが解明されてます。家畜繁殖や人間の不妊治療への応用も期待されています。 - がん免疫に対する意外な効果
最近、SSRIs(いわゆる抗うつ薬)がキラーT細胞の活動を高め、腫瘍縮小に寄与する可能性があると発表されました(『Cell』誌掲載)。がん免疫療法との併用では、マウスモデルで腫瘍が50%以上縮小、あるいは消失する例もあったとされ、臨床応用へ期待が高まっています。
まとめ
セロトニンは単なる「幸せホルモン」ではなく、心の健康から意欲、認知機能、さらには免疫や生殖機能にまで広がる多面的な役割を担っていることが、最新研究によって明らかになってきました。
従来の「セロトニン不足=うつ病」という単純なモデルは再検証されつつありますが、その一方で、セロトニンが私たちの行動制御や意欲、身体の恒常性維持に欠かせない存在であることは揺るぎありません。
特に注目すべきは、近年の研究が示す 「意欲と努力の仕組み」「がん免疫との関係」 といった新しい知見です。これらは、将来的に精神医療やがん治療のアプローチを大きく変える可能性を秘めています。
私たちの日常においても、バランスの良い食生活、規則正しい睡眠、適度な運動はセロトニンを健全に保つ基本的な習慣です。科学の進歩とともに、セロトニンを味方につけた「心と体の健康づくり」がますます現実的なものとなるでしょう。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
- The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence (Molecular Psychiatry, 2022)(Nature)
- Exploring the association between serotonin transporter promoter region methylation levels and depressive symptoms: a systematic review and multi-level meta-analysis (Transl Psychiatry, 2025)(Nature)
- 5-HT1A receptor partial agonist adjunctive therapy improves attention/processing speed in schizophrenia (Neuropsychopharmacology Reports, 2025)(CareNet.com)
- Increased serotonin improves behavior control under negative information, enhances memory (Oxford Univ., 2024)(ox.ac.uk)
- Serotonin reduction causes decreased motivation via two mechanisms (QST, 2024)(国土交通省)
- Serotonin regulates effort-based optimism vs. pessimism (Healthist article, 2023)(ヘルシスト)
- Serotonergic regulation of cortical neurovascular coupling upon awakening (J Cereb Blood Flow Metab, 2024)(igakuken.or.jp)
- Serotonin’s role in reproductive function maintenance (Nagoya Univ., 2024)(Science Portal – 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」)
- SSRIs enhance T-cell anti-tumor immunity – UCLA study (Cell, 2025)(ニューヨーク・ポスト)
コメント