こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
三段跳び(トリプルジャンプ)は、陸上競技の中でも高度な技術を要する種目です。
ホップ・ステップ・ジャンプという3つのフェーズを連続して行うため、助走のスピードと安定性が記録に直結します。特に助走は踏切の再現性・跳躍距離の最大化・リズムの安定に大きく影響します。
この記事では、陸上経験者はもちろん、指導者や競技初心者にも分かりやすく、助走を速く・安定させるコツと、意識すべきフォームや筋力面の改善方法を、スポーツバイオメカニクスの視点から解説します。

三段跳びにおける助走の重要性
助走は「スピードを出すこと」だけが目的ではありません。
実際には以下の3つの役割を持っています。
- 踏切動作に最適な速度へ加速する
- 踏切足の位置を安定させる
- 上半身と下半身のタイミングを同期させる
陸上短距離走のように最高速度まで上げるのではなく、三段跳びでは踏切に適した“コントロールされた速度が求められます。
最高速度を出しすぎると踏切でバランスを崩し、逆に遅すぎると十分な跳躍距離が得られません。
助走のフェーズ別分析
加速局面(スタート〜中盤)
目的:リズムを作りながら徐々に加速する
ポイント:
- スタートはやや前傾姿勢で、3〜5歩かけて加速のきっかけを作る
- 上半身はリラックスし、腕振りで加速を補助
- 接地は前足部(つま先寄り)で地面を押す感覚
短距離走のスタートに似ていますが、助走後半での制御を考慮して加速しすぎないことが大切です。
中盤〜終盤(最高速度手前)
目的:踏切に向けたフォーム安定と速度の維持
ポイント:
- 上体は徐々に直立に近づける
- 接地時間を短くし、ピッチ(回転数)を高める
- 視線は前方やや下、踏切板を意識しすぎない
中盤以降は、無理に加速するよりも「フォームの再現性」が重要です。助走は毎回同じリズムで行うことで踏切位置が安定します。
踏切準備局面(最後の2〜3歩)
目的:踏切動作へスムーズにつなぐ
ポイント:
- 最後の3歩はややストライドを短くして安定性を高める
- 上半身のブレを抑え、腕は力強く前後に振る
- 踏切足の接地はフラット〜かかと寄りで衝撃を吸収しつつ力を伝える
特に最後の2歩(ペンティメートル・フィナルステップ)は、踏切板に向けた高さと前方スピードの調整が行われます。ここを安定させることが、距離の伸びと怪我予防の両方に直結します。
助走スピードを上げるための身体的要素
下半身の爆発的筋力
ハムストリングス、大殿筋、下腿三頭筋の強化が不可欠
効果的なトレーニング例:
- スプリントドリル(Aスキップ・Bスキップ)
- ウェイトトレーニング(スクワット、ランジ、クリーン)
- プライオメトリクス(バウンディング、ボックスジャンプ)
体幹の安定性
助走中は地面反力を効率的に伝えるため、体幹の安定が必須です。
- プランク、サイドプランク
- メディシンボールツイスト
- シングルレッグバランス
体幹が安定すると、踏切板に正確な位置で足を置く「助走の再現性」も高まります。
柔軟性と可動域
股関節・ハムストリングス・足首の柔軟性が、ストライドの大きさや接地角度に影響します。
- ダイナミックストレッチ(練習前)
- 静的ストレッチ(練習後)
- 股関節モビリティドリル
助走フォーム改善のための練習法
マーク走
- 助走の各歩数にマークを置き、一定のリズムで走る練習
- 踏切位置の安定に直結
部分助走ジャンプ
- 助走を半分程度にして、踏切からジャンプまでを確認
- フォームと踏切感覚の刷り込みに有効
映像分析
- 自分の助走を動画撮影し、接地位置・姿勢・腕振りをチェック
- スロー再生で改善点を可視化
よくある助走の失敗例と対策
失敗例 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
踏切位置が合わない | 歩幅のばらつき | マーク走で歩幅を固定 |
踏切時に減速 | 加速しすぎによる制御不足 | 中盤から速度維持に切り替え |
上体が前傾しすぎ | 重心コントロール不足 | 体幹強化とリズム調整 |
腕振りが弱い | 上半身の連動不足 | メディシンボールで腕振り練習 |
助走を安定させるメンタル面の意識
助走はわずかなタイミングのズレで全体のリズムが崩れます。特に大会では緊張による踏切ミスも多発します。
- ルーティン化:助走前の動作や呼吸法を毎回同じにする
- 視線の使い方:踏切板を凝視しない(自然な視野の中に入れる)
- リズムの暗唱:頭の中で「タッタッタッ」のようなリズムを刻む
まとめ
三段跳びの助走は、「速く」ではなく「速くて安定」がキーワードです。
- 前半は加速、後半はフォーム維持
- 最後の3歩で踏切に向けた準備
- 下半身・体幹・柔軟性を総合的に強化
- 助走フォームを映像やマーク走で反復
助走の質が上がれば、ホップ・ステップ・ジャンプの全フェーズが安定し、記録更新が見えてきます。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
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