こんんちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
陸上短距離走の記録を伸ばすためには、単純に「速く走る」だけではなく、走りの構造を理解し、動作の効率を最大限に引き出すことが重要です。
その中でも、「ピッチ(回転数)」と「ストライド(歩幅)」のバランスは、スプリント能力を左右する最重要ポイントの一つです。
本記事では、ピッチとストライドの基本から、理想的なバランスの考え方、練習方法までを整理して解説します。

1. ピッチとストライドの基礎知識
1.1 ピッチ(Step Frequency)
ピッチとは、1秒間に踏み出す歩数のことです。短距離走では、一般的に高いピッチ(約4〜5歩/秒)で走る選手ほど加速力が高くなります。
ピッチは神経系の反応速度、地面接地時間の短縮、脚の引き戻し動作の速さなどに影響されます。
1.2 ストライド(Step Length)
ストライドは、1歩あたりの進む距離を指します。筋力、柔軟性、股関節の可動域、地面への加える力の方向と大きさが大きく関わります。
ストライドが長いほど、同じピッチでも速く進めますが、無理に伸ばそうとすると接地時間が長くなり、ピッチが落ちる可能性があります。
2. ピッチとストライドの関係
2.1 スプリント速度の公式
スプリントの速度(V)は、以下の式で表されます。
V = ピッチ × ストライド
この公式から、速度を上げるためにはピッチを増やすか、ストライドを伸ばす必要があります。しかし、どちらか一方を極端に伸ばそうとすると、もう一方が犠牲になり、結果として速度が落ちることがあります。
2.2 例:バランスを崩した場合
- ピッチ重視しすぎ → 歩幅が狭くなり、前への推進力が減少。
- ストライド重視しすぎ → 接地時間が長くなり、回転数が落ちる。
3. 理想的なピッチとストライドのバランス
3.1 世界トップ選手の例
100m世界記録保持者ウサイン・ボルト選手のデータでは、平均ストライドは約2.6〜2.8m、ピッチは約4.3歩/秒。
一方で、身長が低めの選手はストライドが2.2〜2.4m程度でも、ピッチを4.8〜5.0歩/秒まで高めて高速を維持します。
3.2 個人差と体格の影響
- 高身長・長い脚の選手 → ストライドが自然に大きくなる。ピッチを落とさない工夫が必要。
- 低身長・回転型の選手 → ピッチが高く出やすい。ストライドを伸ばすために筋力強化や地面反発力の活用がカギ。
3.3 理想バランスの目安
一般的に、短距離選手は「最大速度時のピッチ4.5〜4.8歩/秒、ストライド2.2〜2.6m」が一つの目安になります。ただし、これはあくまで参考値であり、各選手の体格や筋力特性に合わせて最適値を見つける必要があります。
4. ピッチを高めるトレーニング方法
4.1 接地時間の短縮ドリル
- ミニハードル走(間隔短め)
- ハイニーラン(膝を素早く引き上げる)
- バウンディング(軽く弾むような接地)
4.2 神経系の強化
- 短距離ダッシュ(20〜30m)
- 反応スタート練習(合図と同時に動き出す)
5. ストライドを伸ばすトレーニング方法
5.1 筋力強化
- スクワット、ランジ、ヒップスラストで下半身の伸展力を強化
- プライオメトリクス(ボックスジャンプ、ホッピング)
5.2 柔軟性・可動域向上
- 股関節ストレッチ(動的ストレッチ中心)
- ハムストリングと大臀筋のストレッチ
6. ピッチとストライドを同時に伸ばす練習
6.1 フライングスプリント
助走をつけた30〜60mダッシュで最大速度を体感。
ピッチとストライドの両方が自然に高まる。
6.2 坂道ダッシュ
緩やかな上り坂でダッシュすることで、地面反発力と脚の引き戻し動作を強化。
6.3 メトロノーム走
一定のテンポ音に合わせて走ることで、ピッチを意識しながらストライドを保つ感覚を養う。
7. 実践的なフォーム改善ポイント
- 前傾姿勢は加速局面のみ
スタート〜30mまでは軽く前傾し、その後は上体を起こして最大速度へ。 - 接地位置は腰の真下
体の前で接地するとブレーキになる。腰の真下〜やや後方が理想。 - 腕振りでリズムを作る
ピッチの維持・加速には腕の素早い引きが重要。
8. 記録を伸ばすためのアプローチ
- 自分のピッチとストライドを計測(動画やGPSウォッチを活用)
- ピッチ型・ストライド型のどちらかを強みにする
- 1シーズンを通じて段階的に強化(オフ期=基礎作り、シーズン=スピード発揮)
まとめ
- ピッチとストライドは速度を決定する2大要素
- どちらかを伸ばすともう一方が落ちるため、バランスが重要
- 体格や筋力特性に応じた最適値を探すことが記録向上の近道
- トレーニングは「接地時間短縮」「地面反発力向上」「可動域確保」の3方向からアプローチする
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