こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
ビタミンと聞くと、ビタミンCやビタミンDのように名前を耳にする機会が多い栄養素を思い浮かべる方が多いでしょう。一方で、「パントテン酸」という名称は、栄養学に関心のある人以外にはあまり知られていません。しかし、パントテン酸は私たちの体内で行われるほぼすべての代謝反応に関与しているといっても過言ではない、極めて重要なビタミンです。
本記事では、パントテン酸の化学的特徴から、生理機能、健康・美容への影響、食品からの摂取方法、さらには近年の研究動向までを、専門的な正確さを保ちつつ、一般の方にも理解しやすい形で詳しく解説します。

パントテン酸とは何か
パントテン酸は水溶性ビタミンB群の一種で、ビタミンB5とも呼ばれます。その名前はギリシャ語の「pantos(すべて)」に由来し、「ほぼすべての食品に含まれている」という意味を持っています。この名称が示す通り、パントテン酸は動物性・植物性を問わず、非常に多くの食品に微量ずつ含まれています。
水溶性であるため体内に蓄積されにくく、毎日の食事から継続的に摂取する必要がありますが、通常の食生活を送っていれば不足することは少ないとされています。
化学構造と体内動態
パントテン酸は、パントイン酸とβ-アラニンが結合した構造を持ちます。小腸で吸収された後、血液を介して全身の組織に運ばれ、細胞内で補酵素A(CoA)やアシルキャリアタンパク質(ACP)の構成要素として利用されます。
体内での貯蔵量は限られており、余剰分は尿中に排泄されます。このため、慢性的な偏食や極端な栄養制限が続くと、理論上は欠乏のリスクが高まります。
補酵素A(CoA)とパントテン酸の中心的役割
パントテン酸の最も重要な役割は、補酵素Aの構成成分である点です。補酵素Aは、生体内で以下のような反応に不可欠です。
- 解糖系およびクエン酸回路によるエネルギー産生
- 脂肪酸のβ酸化(脂肪を燃やす過程)
- 脂肪酸やリン脂質の合成
- コレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモンの合成
- 神経伝達物質アセチルコリンの合成
これらの反応は、生命維持そのものに直結しており、パントテン酸は代謝のハブ(中心点)として機能しています。
生理機能と健康への影響
1. エネルギー代謝と疲労回復
パントテン酸が不足すると、糖質や脂質を効率よくエネルギーに変換できなくなり、慢性的な疲労感や倦怠感を引き起こす可能性があります。「しっかり食べているのに疲れやすい」と感じる場合、他のビタミンB群とのバランスも含めて注目すべき栄養素です。
2. 神経機能と精神状態
アセチルコリンは記憶や学習、自律神経の調節に関わる重要な神経伝達物質です。パントテン酸はその合成に不可欠であり、不足すると集中力の低下、イライラ、不眠などの症状が報告されています。
3. 皮膚・毛髪・粘膜の健康
皮膚細胞の再生や皮脂代謝にも関与するため、パントテン酸は美容分野でも注目されています。特に、ニキビや肌荒れとの関連については複数の研究があり、外用薬やサプリメントとして利用されるケースもあります。
欠乏症について
パントテン酸欠乏症は非常にまれですが、重度の栄養失調、アルコール依存症、長期間の経腸・静脈栄養など特殊な条件下で報告されています。代表的な症状には以下があります。
- 慢性的な疲労
- 頭痛
- 不眠
- 抑うつ状態
- 手足の灼熱感(Burning Feet Syndrome)
これらは他のビタミンB群欠乏と重なって現れることが多く、単独で診断されることはほとんどありません。
過剰摂取の安全性
水溶性ビタミンであるパントテン酸は、安全性が高いことで知られています。通常の食事や一般的なサプリメント摂取で健康被害が生じることはほぼありません。ただし、極端な高用量摂取では、下痢や腹部不快感が報告されています。
推奨摂取量と食品源
日本人の食事摂取基準では、成人の目安量は1日5mgとされています。以下は主な食品源です。
- レバー(特に鶏・豚)
- 鶏肉、豚肉
- 魚介類
- 卵黄
- 納豆
- 全粒穀物
- アボカド、ブロッコリー
水溶性で熱に弱いため、調理方法としては蒸す・炒める・汁ごと摂取するといった工夫が有効です。
近年の研究動向
近年では、パントテン酸とストレス耐性、脂質異常症、皮膚疾患との関連についての研究も進んでいます。特に、コルチゾールなどの副腎皮質ホルモン合成への関与から、ストレス環境下での重要性が注目されています。
まとめ
パントテン酸は、派手さはないものの、エネルギー代謝、神経機能、ホルモン合成、美容と健康のあらゆる側面を支える不可欠な栄養素です。日々の食事を大切にし、栄養バランスを意識することが、パントテン酸をはじめとするビタミンB群を十分に活かす鍵となります。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
参考・引用文献
- Institute of Medicine. Dietary Reference Intakes for Thiamin, Riboflavin, Niacin, Vitamin B6, Folate, Vitamin B12, Pantothenic Acid, Biotin, and Choline. National Academies Press, 1998.
- National Institutes of Health, Office of Dietary Supplements. Pantothenic Acid Fact Sheet for Health Professionals.
- Linus Pauling Institute, Oregon State University. Micronutrient Information Center: Pantothenic Acid.
- Gropper SS, Smith JL. Advanced Nutrition and Human Metabolism. Cengage Learning.


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