乳酸と酸素の関係。「乳酸=無酸素」の常識を見直してみよう。

生理学
2025年8月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

乳酸って、悪者なのでしょうか?

「乳酸がたまると筋肉が疲れる」
「乳酸が出る運動は、無酸素運動」
「乳酸は老廃物だから、すぐに処理しないといけない」

運動やスポーツの現場で、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
実はこれ、かつて広く信じられていた「常識」なんです。

けれど最近では、こうした乳酸に対する見方が大きく変わりつつあります。
乳酸は本当に“悪者”なのか?
乳酸ができるとき、本当に筋肉は酸素が足りていないのか?

今回は、「乳酸=無酸素の証拠」という定説を一度立ち止まって見直してみましょう。

◆ よくある考え方:「乳酸は酸素がない時にできる」

これまで一般的に言われてきたのが、

「乳酸ができるのは、筋肉を中心に体内が“無酸素状態”になっているから」
という考え方です。

この理屈は一見、非常にシンプルです。

◆ ピルビン酸の2つの代謝経路

運動中、グリコーゲンやグルコース(糖質)が分解されると、ピルビン酸が作られます。
このピルビン酸は、次の2つのルートに分かれます。

  1. ミトコンドリアに入り、酸素を使ってエネルギー(ATP)を生み出す経路(TCA回路)
  2. 酸素を使わず、細胞質内で乳酸へと変換される経路

ここで重要なのが、

①の「酸化的経路」には酸素が必要

②の「乳酸生成」には酸素が不要

という点です。

◆ 「酸素の有無で分かれる」という認識が広まった

この違いから、

・酸素があれば → ミトコンドリアでエネルギー産生

・酸素がなければ → 乳酸ができる

という単純な理解が定着しました。

特に高強度の運動では乳酸が多く作られるため、

「強度が高い運動では、筋肉が無酸素状態になる」
「乳酸ができる=無酸素運動」

という認識が広く浸透してしまったのです。

◆ 乳酸=老廃物という誤解

この考え方はさらに進み、

「乳酸は代謝できない」

「疲労物質として蓄積される」

「最終的に肝臓で糖に戻るまで使えない」

など、乳酸は“老廃物”や“悪者”として扱われてきました。

◆ でも本当にそうなのか?

実際には、酸素があっても乳酸は生成されます。
乳酸は糖質代謝の自然な一部であり、エネルギー源として心臓や脳、他の筋肉で再利用もされます。

つまり、

・乳酸は“無酸素状態の副産物”ではない

・酸素が十分ある状況でも乳酸は作られる

・乳酸は“疲労物質”ではなく“エネルギーの一時的な形”

というのが、現在の生理学的理解に基づいた事実です。

◆ 今も残る「乳酸=無酸素運動」というイメージ

とはいえ、今でも
「乳酸ができる運動=無酸素運動」
というイメージは根強く残っています。

確かに、運動強度が高くなるほど乳酸が多く作られるのは事実です。
しかしそれを「酸素が足りないから」とするのは、少し単純すぎる解釈かもしれません。

乳酸は、糖代謝が活発になっているサイン。
そして、それを一時的に処理するための、体の“逃げ道”でもあるのです。

◆ まとめ:乳酸は悪者ではない

乳酸はもう「疲労物質」ではありません。
むしろ、エネルギー供給のサポートをしている“代謝の中継役”なのです。

体の仕組みを正しく知ることで、運動への見方も変わってきます。

「乳酸=無酸素」という考え方から一歩抜け出して、
もっと柔軟に、そして深く、私たちの身体を理解していきましょう。

※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。

\ 最新情報をチェック /

著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

井上 裕司をフォローする
生理学
井上 裕司をフォローする
Core&Calm(コアカーム) パーソナルジム × リラクゼーションサロン蓮田店

コメント

PAGE TOP