こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
乳酸って、悪者なのでしょうか?
「乳酸がたまると筋肉が疲れる」
「乳酸が出る運動は、無酸素運動」
「乳酸は老廃物だから、すぐに処理しないといけない」
運動やスポーツの現場で、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
実はこれ、かつて広く信じられていた「常識」なんです。
けれど最近では、こうした乳酸に対する見方が大きく変わりつつあります。
乳酸は本当に“悪者”なのか?
乳酸ができるとき、本当に筋肉は酸素が足りていないのか?
今回は、「乳酸=無酸素の証拠」という定説を一度立ち止まって見直してみましょう。

◆ よくある考え方:「乳酸は酸素がない時にできる」
これまで一般的に言われてきたのが、
「乳酸ができるのは、筋肉を中心に体内が“無酸素状態”になっているから」
という考え方です。
この理屈は一見、非常にシンプルです。
◆ ピルビン酸の2つの代謝経路
運動中、グリコーゲンやグルコース(糖質)が分解されると、ピルビン酸が作られます。
このピルビン酸は、次の2つのルートに分かれます。
- ミトコンドリアに入り、酸素を使ってエネルギー(ATP)を生み出す経路(TCA回路)
- 酸素を使わず、細胞質内で乳酸へと変換される経路
ここで重要なのが、
①の「酸化的経路」には酸素が必要
②の「乳酸生成」には酸素が不要
という点です。
◆ 「酸素の有無で分かれる」という認識が広まった
この違いから、
・酸素があれば → ミトコンドリアでエネルギー産生
・酸素がなければ → 乳酸ができる
という単純な理解が定着しました。
特に高強度の運動では乳酸が多く作られるため、
「強度が高い運動では、筋肉が無酸素状態になる」
「乳酸ができる=無酸素運動」
という認識が広く浸透してしまったのです。
◆ 乳酸=老廃物という誤解
この考え方はさらに進み、
「乳酸は代謝できない」
「疲労物質として蓄積される」
「最終的に肝臓で糖に戻るまで使えない」
など、乳酸は“老廃物”や“悪者”として扱われてきました。
◆ でも本当にそうなのか?
実際には、酸素があっても乳酸は生成されます。
乳酸は糖質代謝の自然な一部であり、エネルギー源として心臓や脳、他の筋肉で再利用もされます。
つまり、
・乳酸は“無酸素状態の副産物”ではない
・酸素が十分ある状況でも乳酸は作られる
・乳酸は“疲労物質”ではなく“エネルギーの一時的な形”
というのが、現在の生理学的理解に基づいた事実です。
◆ 今も残る「乳酸=無酸素運動」というイメージ
とはいえ、今でも
「乳酸ができる運動=無酸素運動」
というイメージは根強く残っています。
確かに、運動強度が高くなるほど乳酸が多く作られるのは事実です。
しかしそれを「酸素が足りないから」とするのは、少し単純すぎる解釈かもしれません。
乳酸は、糖代謝が活発になっているサイン。
そして、それを一時的に処理するための、体の“逃げ道”でもあるのです。
◆ まとめ:乳酸は悪者ではない
乳酸はもう「疲労物質」ではありません。
むしろ、エネルギー供給のサポートをしている“代謝の中継役”なのです。
体の仕組みを正しく知ることで、運動への見方も変わってきます。
「乳酸=無酸素」という考え方から一歩抜け出して、
もっと柔軟に、そして深く、私たちの身体を理解していきましょう。
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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