こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
健康や美容、そして日々のエネルギーを支える「ビタミン」。その中でも、私たちがあまり意識していないにもかかわらず、体のあらゆる働きに欠かせない存在が「ナイアシン(ビタミンB₃)」です。
「代謝ビタミン」とも呼ばれるナイアシンは、食べた栄養をエネルギーに変えるだけでなく、血管や脳、皮膚の健康にも深く関与しています。さらに近年の研究では、老化や認知症予防、さらには腎結石リスク低減といった新しい効果までも注目されるようになりました。
しかし一方で、サプリなどによる高用量摂取では副作用のリスクも指摘されています。健康に役立つ一方で「量とバランス」が大切な栄養素なのです。
本記事では、ナイアシンの基本的な栄養的役割から、最新の研究成果、効果的な摂取法までをわかりやすく解説していきます。専門的な知識をかみ砕きながら、日常生活にどう活かせるのかを一緒に見ていきましょう。

ナイアシン(ビタミンB₃)とは?
ナイアシンは「ビタミンB₃」とも呼ばれ、水溶性ビタミンに分類されます。ニコチン酸とニコチンアミドが主要な形で、体内では必須アミノ酸「トリプトファン」からも合成されます。例えば、トリプトファン60 mgから約1 mgのニコチンアミドが生合成されます 。
食品由来では、動物性にはニコチンアミド、植物性にはニコチン酸が含まれ、小腸などから吸収されます。日本の食事では利用効率は約60%とされています 。
栄養的役割:代謝・エネルギー・身体機能の司令塔
ナイアシンは500種類以上の酵素の補酵素として働き、糖質・脂質・タンパク質のエネルギー代謝をスムーズに進めます。また、脂肪酸・ステロイドホルモンの生成、DNAの修復・合成、アルコール代謝など幅広い機能にも関与しています 。
特に重要なのは、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびそのリン酸型NADPの生成です。これらは細胞内のエネルギー産生(解糖・クエン酸回路・電子伝達系)に必須であり、精神・神経の健康維持、老化予防にも深く関与しています 。
効果と応用 — カルディオ、脳、肌、老化…
1. 心血管系への影響
ナイアシン(特にニコチン酸)は薬理的にHDL(善玉コレステロール)を10~30%増やし、LDLやトリグリセリド(悪玉脂質)を低減するとされ、「HDLを上げる最も強力な手段」とも言われます 。
過去の臨床試験では、シンバスタチン+ナイアシンの組み合わせで冠動脈の狭窄が改善し、心血管イベントを90%減少させたという画期的な結果もありました(HATS試験) 。
しかし、AIM-HIGH試験ではスタチン服用中の患者にナイアシンを追加しても心血管イベントのリスク低下は見られず、むしろ一部で脳梗塞のリスク増加も示唆されました 。
さらに最新の知見では、ナイアシンの代謝産物(2PY・4PY)が血管内で炎症を引き起こし、逆に心血管リスクを高める可能性も報告されています 。
2. 神経・精神への影響
ナイアシンはセロトニンの生成にも影響を与えます。トリプトファンがナイアシン生成に優先されることで、ナイアシン不足はセロトニン減少を招き、精神の安定を損なうおそれがあります 。
また、近年ではNADが神経細胞の健康維持や脳老化予防に寄与することが示されており、MS(多発性硬化症)、アルツハイマー、神経腫瘍などへの治療的可能性も注目されています 。
3. 老化・ミトコンドリア・筋肉機能
ナイアシンをNAD経路で補給することは、加齢や病的状態によるミトコンドリア機能低下、筋力低下の改善に寄与します。
さらに、ニコチンアミドリボシド(NR)と呼ばれるB₃の一形態では、NAD+を効率よく増加させる働きがあり、抗老化・認知機能改善・抗炎症など、多様な健康効果が報告されています 。
4. 肌・皮膚の健康と発がん抑制
DNA修復や皮膚のバリア機能維持にはNAD依存の酵素が重要です。動物実験では、ナイアシン補給によって紫外線による皮膚がんのリスクが低減したとする報告もあります 。
5. 腎結石リスク低減(最新研究)
2025年現在、最新の研究によると、米国のNHANESデータを用いた横断研究で、ナイアシン摂取量が多い人ほど腎結石のリスクが22%低いことが分かりました。ただし因果関係は明確でなく、食事からの自然な摂取が望まれます 。
吸収・排泄・安全性(過剰・欠乏リスク)
- 吸収・排泄:ナイアシンは高用量(3~4 g)でも吸収率が高く、多くはNADに変換されます。肝臓での代謝後、N¹-メチル化体などが尿中に排泄されます 。
- 欠乏症:ペラグラ
重度のナイアシン不足は「ペラグラ」を引き起こし、皮膚炎・下痢・認知障害や精神症状(抑うつ、混乱など)が現れ、未治療では死亡リスクもあります 。慢性的アルコール多飲や消化吸収障害、特定疾患(Hartnup病など)では注意が必要です。 - 過剰摂取・制限量:サプリ等での高用量摂取は、ニコチン酸による顔面の紅潮・かゆみ(フラッシング)や肝機能障害、消化器症状のリスクがあります 。なお、ニコチンアミドにはフラッシングが起こりにくいです 。
日常的な摂取の目安(日本基準に基づく)
日本の推奨量は、18〜49歳男性で15 mgNE/日、女性で11〜12 mgNE/日など、年齢・性別で異なります 。食品に依存しつつ、サプリなどで補う場合は上限に注意が必要です。
栄養素としての総合評価と活用ポイント
項目 | 主なポイント |
---|---|
【強み】 | エネルギー代謝、NAD生成、代謝・DNA修復サポート、皮膚・神経・心血管・精神・老化・腎石など幅広い分野で効果。 |
【注意】 | 高用量は副作用リスクあり。心血管イベントへの追加効果は限定的。必ず安全な範囲で摂取。 |
【応用例】 | バランスの良い食事+必要時サプリ。NAD補給にNRなどの形態も注目。 |
結論:ナイアシンは縁の下の力持ち
ナイアシンは、普段の暮らしの中では意識しづらい「代謝の縁の下の力持ち」として、非常に重要なビタミンです。エネルギー供給、DNA修復、神経・皮膚・心血管の維持、さらには老化や腎石予防まで、その役割は多岐にわたります。
ただし、高用量での使用には必ず医療専門家の助言を仰ぎ、安全なバランスを守ることが大切です。今後はNAD経路やNR、ナイアシン代謝産物の研究にも注目しつつ、日常に上手に取り入れたい栄養素ですね。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
【参考文献】
- 米国Office of Dietary Supplements「Niacin – Health Professional Fact Sheet」 (栄養補助食品局)
- 大正健康応援サイト「ナイアシンとは?」 (大正健康)
- 健康長寿ネット「ナイアシンの働きと1日の摂取量」 (長寿科学振興財団)
- Mayo Clinic「Niacin」 (Mayo Clinic)
- Nature「Association of dietary niacin intake with all-cause and cardiovascular mortality (2024)」 (Nature)
- ScienceDirect「Niacin cures systemic NAD+ deficiency…」 (サイエンスダイレクト)
- ScienceDirect「The Promise of Niacin in Neurology」 (サイエンスダイレクト)
- LPI Oregon State「Niacin」 (Linus Pauling Institute)
- Wikipedia「Vitamin B3 / Pellagra」 (ウィキペディア)
- Wikipedia「AIM-HIGH (trial)」 (ウィキペディア)
- Wikipedia「HDL-Atherosclerosis Treatment Study」 (ウィキペディア)
- Hartford HealthCare「Is Niacin Good or Bad for Your Heart Health?」 (instituteofliving.org)
- NatureNews(EatingWell)「Eating More of This Vitamin May Lower Kidney Stone Risk by 22%」 (EatingWell)
- Health.com「What You Need To Know About Niacin Flush」 (Health)
- Verywell Health「Nicotinamide Riboside Benefits…」 (Verywell Health)
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