こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「クエン酸を摂ると糖質代謝が促進される」
「クエン酸は疲労回復に効く」
――そんな言葉、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
でも、これらの主張には誤解や過大評価が含まれている可能性があります。
今回は「クエン酸回路とクエン酸摂取」の関係を、少し掘り下げてみたいと思います。

■ クエン酸が糖代謝を“阻害”するって本当?
実はクエン酸には、「糖の代謝を抑える働き」があるというデータがあります。
これは、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)という酵素を阻害することで起こります。
PFKは、糖をエネルギー(ATP)に変換する過程で必要な重要な酵素。
つまり、クエン酸の濃度が高くなると、
・PFKが抑制される
・結果として糖代謝の流れが鈍る
というわけです。
■ 疲労回復のメカニズムとクエン酸
よくある説明の流れは、以下のようなものです。
- 運動時、糖質を分解してATPを生み出す
- その際、ADPや無機リン酸(Pi)が発生
- クエン酸を摂ると、糖代謝が抑制される
- よって、ADPや無機リン酸の発生も抑えられる
- その結果、疲労が軽減される(?)
このように、糖代謝を抑えて疲労を減らす説がありますが、これは本当に正しいのでしょうか?
■ クエン酸回路=摂取すれば回路が活性化する?
TCA回路(クエン酸回路、クレブス回路)とは、糖質や脂質を酸化してATPを作り出す重要なエネルギー回路です。
ここで混同されがちなのが、
「クエン酸回路」だからクエン酸を摂取すれば回路が活性化するのでは?
という考え方。
一見すると理にかなっていそうに思えますが、実際には以下の理由からこれは誤解だと考えられます。
■ クエン酸回路は“基質”が流れ込むことで回る
TCA回路は、糖質や脂質が分解されたあとに自然と進行する回路です。
・クエン酸は途中産物であり、外部から大量に摂取したからといって回路が加速するわけではない
・むしろ、基質のバランスが崩れると逆に回路の流れが阻害される可能性もある
実際には、「クエン酸を摂取してTCA回路が活性化する」という明確なエビデンスは乏しく、その可能性は低いと考えられています。
■ 疲労物質=乳酸? それともクエン酸が除去?
「クエン酸は疲労物質を除去して疲労を抑える」
という説もよく見かけますが、これも誤解されやすいポイントです。
・安静時の疲労と乳酸は基本的に無関係
・乳酸は“疲労物質”というよりエネルギー再利用物質
・クエン酸が乳酸や他の疲労物質を“除去する”という確固たる証拠もない
つまり、「クエン酸=疲労回復」の図式は科学的根拠が弱いのです。
■ まとめ:クエン酸は確かに関与するが、過信はNG
・クエン酸は糖代謝に抑制的な関与をすることがある
・クエン酸回路(TCA)は摂取によって直接活性化するわけではない
・疲労回復効果についても明確なメカニズムは確認されていない
もちろん、クエン酸は体内でも重要な役割を果たす物質ですし、クエン酸を含む食品が健康に良い側面はあります。
しかし、「飲めば疲労が取れる」「代謝が爆上がりする」といった過剰な期待は控えめにするのが科学的な姿勢といえるでしょう。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
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