こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
ダイエット、運動習慣、禁煙、食生活の改善…。
私たちは「健康のために何かを変えたい」と思うことがありますが、実際にそれを継続できる人は多くありません。
なぜ続けられないのか。
それは「人は段階を踏んでしか変化できない」という心理的メカニズムを理解していないからです。
この段階的な変化のプロセスを体系化した理論が、
**行動変容ステージモデル(TTM:Transtheoretical Model)**です。
本記事では、TTMの基本から、日常生活や健康指導における活用方法までわかりやすく解説します。

1. 行動変容ステージモデル(TTM)とは?
行動変容ステージモデルは、1970年代後半にアメリカの心理学者ジェームズ・O・プロチャスカ(James O. Prochaska)とカルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)によって提唱されました。
目的は、「人が生活習慣を変える過程を、科学的に説明し、支援すること」です。
特徴は、変化を5つ(または6つ)のステージに分け、それぞれの段階に合ったアプローチを取ることが重要だとした点です。
2. 5つのステージと特徴
TTMでは、人の行動変化は次の5段階を経て進みます。
2-1. 無関心期(Precontemplation)
- 特徴:変える必要性を感じていない、または変えたいと思っていない
- 例:「運動不足だけど別に困っていない」「禁煙する気はない」
- 対応:情報提供、気づきを促すことが重要。批判や押し付けは逆効果。
2-2. 関心期(Contemplation)
- 特徴:変える必要性を認識しているが、まだ行動していない
- 例:「そろそろ運動を始めたほうがいいかな」「禁煙したほうが健康に良いよな」
- 対応:メリット・デメリットの整理、行動する意義を明確化。
2-3. 準備期(Preparation)
- 特徴:近いうちに行動を始める予定を立てている
- 例:「来週からジムに行く」「禁煙パッチを買う」
- 対応:具体的な計画作り、必要な環境整備(道具・時間・仲間)。
2-4. 実行期(Action)
- 特徴:新しい行動を始めてから6か月以内
- 例:「週3回の筋トレを始めた」「禁煙して3週間目」
- 対応:行動の習慣化、周囲からのサポート、障害への対処。
2-5. 維持期(Maintenance)
- 特徴:新しい行動を6か月以上続けている
- 例:「運動を1年以上続けている」「禁煙して2年目」
- 対応:再発防止策の強化、モチベーションの維持。
※一部の文献では、この後に「再発期(Relapse)」を加えた6段階モデルとして紹介されます。
再発は失敗ではなく、再び準備期や実行期に戻るための経験と捉えます。
3. TTMの3つのキーポイント
3-1. 人は一足飛びには変われない
無関心期の人に「明日から運動しよう」と言っても、ほとんど効果はありません。
段階に合った支援をすることで、初めて行動変容が起こります。
3-2. 戻ることも想定する
行動変容は直線的ではなく、螺旋階段のように進んだり戻ったりを繰り返します。
再発は自然な現象であり、罪悪感を与えるより再挑戦を促す方が効果的です。
3-3. 外部からの支援が重要
家族や友人、トレーナー、医療従事者など、周囲からの支援は行動継続の大きな力になります。
4. TTMを使った健康習慣の定着法
4-1. 自分のステージを見極める
まずは、今の自分がどの段階にいるのかを確認します。
例:運動不足を解消したい場合
- 運動の必要性を感じていない → 無関心期
- 必要性を感じているが始めていない → 関心期
- ジムに入会した → 準備期
- 週2回通っている → 実行期
- 6か月以上継続中 → 維持期
4-2. ステージ別アプローチ例
ステージ | アプローチ例 |
---|---|
無関心期 | 健康リスクやメリットをやさしく伝える |
関心期 | 行動のメリットを具体化する |
準備期 | 計画立案・道具準備 |
実行期 | 習慣化サポート、進捗確認 |
維持期 | モチベーション維持、変化の記録 |
5. 行動変容ステージモデルの活用事例
5-1. ダイエット指導
クライアントが「痩せたい」と言っても、本気度は人それぞれ。TTMを使えば、現状のモチベーションや行動意欲を客観的に判断できます。
5-2. 運動習慣の定着
企業の健康経営プログラムでは、TTMを使って社員の運動習慣を段階的に改善する取り組みが行われています。
5-3. 禁煙支援
世界中の禁煙プログラムでTTMが導入され、禁煙成功率の向上に寄与しています。
6. TTMを使うと失敗が減る理由
- ステージに合ったアプローチなので押し付けにならない
- 小さな成功体験を積める
- 再発時にも前向きに立て直せる
これにより、「始めたけど続かない」という典型的な失敗パターンを防ぎやすくなります。
まとめ
行動変容ステージモデル(TTM)は、「やる気」や「根性」に頼らず、科学的に行動を変えるための強力なツールです。
大切なのは、自分や相手がどのステージにいるのかを正しく見極め、その段階に合ったアプローチを行うこと。
健康習慣は一夜にして身につきません。
段階を理解し、焦らず一歩ずつ進めば、誰でも長く続けられる行動を身につけることができます。
※本記事は行動科学および健康心理学の知見をもとに執筆しています。
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