カルシウムの過剰摂取は本当に危険? ― 骨と臓器に及ぼす影響を科学的に考える

栄養学
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こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

カルシウムは骨や歯を構成する必須ミネラルであり、筋肉の収縮や神経伝達にも欠かせない存在です。特に高齢者や閉経後の女性では骨粗しょう症のリスクが高まるため、カルシウム摂取の推奨が広く行われています。その結果、牛乳・乳製品の摂取推奨や、小魚・大豆製品の摂取啓発が盛んに行われる一方で、カルシウムを強化した食品やサプリメントも数多く流通するようになりました。

しかし、ここで浮かび上がる疑問があります。カルシウムは「多ければ多いほど良い」のか?
近年の研究では、カルシウムを過剰に摂取した場合、必ずしも骨の強化にはつながらず、むしろ臓器への負担や健康障害を引き起こす可能性があることが明らかになりつつあります。

本記事では、京都大学大学院医学研究科や赤穂化成の研究チームによる動物実験(リタイヤ雌ラットを用いた研究)を中心に、カルシウム過剰摂取の影響について解説します。

実験の概要

研究では、25週齢を超え、4回以上の出産歴を持つ雌ラットを使用しました。被験ラットは5つの群に分けられ、それぞれ異なるカルシウム量を含む飼料が与えられました。

  • 1/10倍群(極端に低カルシウム)
  • 1倍群(基準値、コントロール群)
  • 2倍群
  • 5倍群
  • 10倍群(極端に高カルシウム)

飼育期間は4週間で、飲料水はイオン交換水を自由に摂取させました。飼育後には血液検査と血漿生化学検査を行い、肝機能、腎機能、鉄代謝などに関する多項目のデータが収集されました。

実験結果

低カルシウム群の影響

基準量の1/10しかカルシウムを与えなかった群では、ALP(アルカリフォスファターゼ)値の有意な上昇 が観察されました。ALPは骨代謝や骨形成が盛んな時期に上昇する酵素であり、この変化はカルシウム不足による骨代謝亢進を示唆しています。つまり、体内のカルシウム不足を補うため、骨の分解と再構築が活発化していると考えられます。

高カルシウム群の影響

一方、カルシウムを5倍および10倍量摂取させた群では、以下の変化が確認されました。

  • 肝機能障害の兆候
    GOTやGPTといった肝酵素の数値が有意に上昇。これは肝臓の負担や障害を示す指標です。
  • 腎機能への影響
    UN(尿素窒素)が上昇。腎臓での窒素代謝や老廃物排泄に支障が出ている可能性を示唆します。
  • 鉄代謝の異常
    TIBC(総鉄結合能)が低下。鉄の運搬や利用に影響を与えていると考えられます。

なお、雄の若いラットを用いた研究では、腎結石や膀胱結石の形成が顕著に確認されていますが、今回のリタイヤ雌ラットでは肉眼的な結石は見られませんでした。しかし、血液データの変化から、組織レベルでは腎や肝への負担が蓄積していたことが示唆されます。

ミネラルバランスの重要性

カルシウムの過剰摂取が特に問題となるのは、他の必須ミネラルとのバランスを乱す ことです。

  • マグネシウム(Mg)
    カルシウムと拮抗する働きを持つ。過剰なカルシウムはMgの吸収を妨げ、結果として骨の質を低下させる。
  • 鉄(Fe)
    TIBCの低下は鉄代謝障害の兆候であり、貧血や肝機能低下と関連する可能性。
  • 銅(Cu)
    高カルシウム状態では肝臓への銅蓄積が観察され、肝障害を引き起こすリスクがある。

実際に、研究ではカルシウム過剰摂取ラットの骨は「硬いが脆い」という特性を示しました。これは、骨形成が進む一方で、ミネラルバランスの崩壊により骨のしなやかさが失われた結果と考えられます。

この現象は臨床的にも重要であり、骨粗しょう症予防のためにカルシウムサプリメントを安易に増やした結果、かえって骨折リスクを高めてしまう可能性があるのです。

臨床的意義と人への応用

動物実験の結果はそのまま人間に当てはまるとは限りませんが、栄養学的な示唆は大きいです。特に以下の点が強調されます。

  1. カルシウムの過剰摂取は肝腎機能に負担をかける
  2. マグネシウムや鉄など他のミネラルとの相互作用を無視できない
  3. カルシウムサプリメントは「不足を補う」ために使うべきであり、強化目的で過剰に摂るのは危険

日本人の推奨摂取量は成人男性で750mg、女性で650mg程度とされていますが、通常の食事でも600〜800mgは摂取可能です。牛乳、豆腐、小魚、野菜などを組み合わせれば、サプリメントに頼らず十分な量を確保できます。むしろサプリメントを過剰に利用することで、簡単に1000mgを超えてしまうケースが懸念されます。

まとめ

カルシウムは骨や健康維持に欠かせない栄養素であり、不足すれば骨粗しょう症のリスクが高まります。しかし、「取りすぎれば取りすぎるほど骨が強くなる」というのは誤解です。

実験データは、カルシウムの過剰摂取が肝機能や腎機能に悪影響を与え、さらに他のミネラルとのバランスを崩して骨質を脆弱化させることを示しています。

サプリメントや強化食品の利用が容易になった現代だからこそ、「バランスの取れた摂取」が重要です。特にマグネシウムやビタミンDとの組み合わせを意識し、日常の食事の中で自然に必要量を満たすことが、最も健全な骨の健康法だといえるでしょう。

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

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著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
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保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

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