肝グリコーゲンと筋グリコーゲンの特徴の理解
こんにちは!
パーソナルトレーナーの井上です。
生理学の基本的な知識は、すべての運動指導者にとって必要な科目です。
少しでも参考になればと思いますので、是非ご覧ください。
肝グリコーゲン
糖質を食べすぎると、必要ない分は余ります。この余った部分は体内で貯蔵できます。
しかし、グルコースとして貯蔵することができませんので、グリコーゲンへと合成してから貯蔵されるのです。
肝臓にもグリコーゲンが貯蔵されており、運動をする時のエネルギー代謝に関係してくるのですが、この肝臓のグリコーゲンの主な役割は血糖値の維持です。
血糖値というのは、その名の通り血液の糖分の量になります。
この血糖値は常に一定値を維持するようにできていて、
糖質を食べ、血糖値が上がればインスリンの作用により下がります。
逆に、糖質が体内に入ってこなければ血糖値は下がっていきます。
その下がった血糖値を上げるために、肝臓のグリコーゲンがグルコースへ分解され、血液の中に送り込むのです。
でんぷん(お米など)を摂取するとこのような流れになります。
でんぷん(多糖類)は消化酵素によりやがてグルコース(単糖類)となり小腸から吸収されると、まず門脈を通じて肝臓に入ります。それから一部は血液に送り出され、一部は肝臓でグリコーゲンとして貯蔵されます。
貯蔵量は一般的には、肝臓で500kcal。筋肉には1500kcal。
ここで肝臓にはグリコーゲンからグルコースを作る過程で働く酵素(グルコース6ホスファターゼ)があり、貯めてあるグリコーゲンからグルコースを作り血液の中へ送り込むことができるのです。
血液の中のグルコース濃度が下がってくると、肝臓のグリコーゲンが分解されグルコースとして血液の中へ送り出され、血糖値が維持されるのですが、肝臓のグリコーゲンの量は500kcal程度しかありません。
運動を定期的に行う人は、運動をあまりしない人より糖質を消費するので、余計に肝臓のグリコーゲンによる血糖値調節は長くは続かないのです。
仮に血糖値の調節がうまくいかず、血糖値が下がってしまうと大変です。
例えば、脳は基本的には糖質のみを利用するので、血糖値が下がってしまうと脳へのエネルギーが足りなくなってしまいます。
そこで一つの防御反応として、血糖値が低下すると空腹感を感じるようになり、さらに運動時などのパフォーマンスは低下すると考えられますね。
このように肝臓ではグリコーゲンからグルコースに戻して血液へ送り出しますが、
筋肉のグリコーゲンからはグルコースとして血液に送り出すことができません。
※筋肉ではグリコーゲンから乳酸にして放出
※乳酸はグルコース以上に使いやすいエネルギー
筋グリコーゲンの方が優先される?
肝臓のグリコーゲンは脳へのエネルギー供給を中心に、血糖値の維持に関わっているため、筋肉のグリコーゲンよりも人体にとって必要ではないでしょうか?
では実際に肝臓のグリコーゲンと筋肉のグリコーゲンのどちらの優先度が高いか考えてみましょう。
運動後の糖質摂取によるグリコーゲンの回復を見てみましょう。
肝臓のグリコーゲンの補充よりも、筋肉のグリコーゲンの補充の方が優先
運動後などでグリコーゲンが減った状態で糖質を摂取すると、肝臓のグリコーゲンよりも筋肉のグリコーゲンを合成するために優先的に糖質が回されているのです。
この理由として考えられるのが、筋肉のグリコーゲンは運動での力発揮に直接関係してくるという点にある可能性があります。
筋肉のグリコーゲンが低下してくると、
エネルギー源がなくなると同時に、筋小胞体から放出されるカルシウムイオンの出入りが難しくなり、カルシウムイオンが筋収縮に果たす役割ができなくなり、力発揮が低下していきます。
これは仮説ではありますが、食うか食われるかの野生動物にとって、
獲物を得るためには捕獲するための力発揮が必要。
逆に捕獲されないためにも逃げるための力発揮が必要。
もしかしたら、脳へ糖質が供給されるより、
生きていくための力の方が最優先!!
ですので、筋肉のグリコーゲンの補充が優先されてしまっているのかな?と思うわけなのです。
脳へのエネルギー供給は大事ではあるのですが、
捕獲されてしまってはどうしようもない。
獲物が捕獲できなければどちらにせよ供給できない。
とりあえず筋グリコーゲン濃度を回復させて動けるようにするという身体の仕組みがあるのかもしれない…
糖新生の経路
肝臓の重要な機能として糖新生があります。
これは糖質を新たに作るということ。
糖質が身体の中に長時間入ってこなかった時の策ですね。
血糖値が低下してしまった時に、肝臓にグリコーゲンがない。糖質も外部から入ってこない。これでは血糖値は下がったままなので、肝臓で他の物質から糖質へ変換し、血糖値を上げるのです。
他の物質から糖質へ変換されるときに経路ですが、糖質の分解と同じ経路を逆向きに進んでいるのではありません。
糖新生経路と呼ばれる経路で進んでいきます。
ただし、糖質を分解する経路と全く違う経路ではありません。経路が被る箇所もかなりあります。
糖新生経路では、最初に他の物質がピルビン酸になり、そしてピルビン酸からホスホエノールピルビン酸になるというところがまず違ってきます。
糖新生経路は、
①他の物質がピルビン酸に変わり、やがてオキサロ酢酸になる。
②オキサロ酢酸がホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼという酵素によってホスホエノールピルビン酸ができる
③それ以降は基本的には解糖系を逆向きに進む。
強度の低い有酸素運動は、肝臓での糖新生がより活発になります。
ただし、強度の高い運動時には肝臓への血流が減るので糖新生はその分難しくなります。
肝臓での糖新生により、乳酸からも糖質へ変換することができます。
筋肉でできた乳酸が肝臓に運ばれて、グルコースに変換し血液の中に送り出されて、また筋肉に取り込まれるという回路状の代謝。
これをコーリ回路と呼びます。
とくに代謝の活発ではない安静時や強度の低い有酸素運動時には、このようにしてある程度乳酸が利用されているのですね。
いまだに乳酸というと、コーリ回路によって乳酸が肝臓で糖質に戻されるということしか認識していない人が結構います。
しかし運動時や運動直後の乳酸の代謝を考える場合は、乳酸は酸化機構で再利用されます。すべて肝臓に戻って糖質に変換されて貯蔵ではありません。
乳酸を糖質に戻すには、エネルギーが必要なのです。
運動時や運動直後のように多くのエネルギーが必要な時にわざわざさらにエネルギーを使って乳酸から糖質に再生するのではありません。乳酸をそのまま使ってしまう方がはるかに効率的なのです。
運動時ではなく、安静時においてはエネルギー産生の必要量は多くないですよね?
乳酸からエネルギーを生み出す必要はあまりないので、酸化機構でエネルギーとして再利用されるだけでなく、肝臓で糖新生されてもいます。
ただし、運動時にも強度が低い場合には肝臓への血流も維持されるので、乳酸などからの糖新生もされています。
実は運動後には肝臓だけでなく筋肉でもある程度は乳酸から糖新生も起こっています。
できた乳酸の多くが運動後に糖質にされているのではなく、乳酸は運動中や運動後にはほとんどが酸化機構で再利用されますが、一部は糖質にも戻されているのです。