こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「糖質を減らせば痩せる」。このシンプルなメッセージは、現代人にとって非常に魅力的に聞こえます。
主食のご飯やパン、麺類を減らすだけで、肉も魚も野菜も自由に食べられる。
手軽で短期間に効果が出やすいため、糖質制限ダイエット(ローカーボ・ダイエット)は瞬く間に広まりました。
しかし、2016年に発表した論考では、
「糖質制限ダイエットは一見簡単だが、長期的には身体に深刻なダメージを与える可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
本記事では、その科学的根拠とリスク、そして安全に体重を管理するための方法について、専門的な視点からわかりやすく解説します。

1. 糖質制限ダイエットとは何か?
糖質制限ダイエットとは、炭水化物(主に糖質)の摂取を極端に減らし、脂質やタンパク質を主なエネルギー源とする方法です。
代表的な方式には、アトキンス式や日本の「和田式」「江部式」などがあります。
これらの方法では「糖質さえ減らせばカロリーは気にしなくてよい」とされ、カロリー計算を否定する主張も見られます。
しかし、実際には糖質を減らすことで総摂取カロリーも大きく減少していることが多く、
「糖質制限=低カロリーダイエット」となっているのが実情です。
そのため、一時的に体重が減少しても、リバウンドするケースが少なくありません。
2. 体内で何が起きるのか:ケトン体と代謝の関係
人間の身体は、糖質・脂質・タンパク質の3大栄養素を使ってエネルギーを作ります。
通常は糖質(ブドウ糖)が主要なエネルギー源ですが、糖質を制限すると体は「脂肪を燃やしてエネルギーを得る」状態に切り替わります。
このとき発生するのがケトン体です。
ケトン体は本来、飢餓状態で脳や筋肉を維持するための一時的な代替エネルギー源ですが、
糖質制限を続けると血中にケトン体が過剰に蓄積し、「ケトーシス(ケトン血症)」を引き起こします。
さらに悪化すると「ケトアシドーシス」という危険な状態になり、意識障害や臓器不全を招くことがあります。
この状態を「生命の危険を伴う」と警告し、
特に若い女性の場合、ホルモンバランスや生殖機能の発達に悪影響を与える可能性があると指摘しています。
3. 「糖質を取らなくても大丈夫」は本当か?
糖質を抜くと、確かに短期間で体重は減ります。
しかしそれは主に体内の水分と筋肉が減っているためであり、脂肪が減っているわけではありません。
糖質が不足すると、体は筋肉中のタンパク質を分解して糖(ブドウ糖)を作り出す「糖新生」を行います。
その結果、筋肉量が減少し、基礎代謝が低下。
つまり「痩せにくく太りやすい体」へと変化してしまうのです。
さらに、脂質の代謝が進みすぎると肝臓や腎臓に負担をかけ、
長期間続けることで脂肪肝、腎機能障害、さらには動脈硬化のリスクが高まると報告されています。
4. 「糖質制限で病気が治る」は危険な誤解
糖質制限推奨派の一部は、「アレルギーや花粉症、ガンまでも改善する」と主張しています。
しかし、これらは科学的な根拠に乏しい“健康神話”の域を出ません。
実際、アメリカ糖尿病学会(ADA)が認めているのは「医師の管理下で短期間に限った糖質制限療法」です。
一般の人が自己判断で長期間行うことは推奨されていません。
つまり、「糖質制限=健康になる」という単純な図式は危険であり、
糖尿病治療など特定の医療目的でのみ、慎重に実施されるべき方法なのです。
5. 日本人と糖質の関係:縄文時代の誤解
一部の糖質制限論者は「日本人は本来、肉食中心だった」と主張します。
しかし、考古学的研究では、縄文人の臼歯の形や食文化から見ても植物性食品を多く摂取していたことが明らかになっています。
さらに、縄文時代の平均寿命は15歳前後であり、
生活習慣病が発症する前に亡くなっていたため、現代人と比較すること自体に意味がありません。
つまり「先祖が肉食だったから糖質制限は自然」という論理は、科学的に誤りなのです。
6. 医師たちの警鐘:「極端な糖質制限」に潜むリスク
医療現場でも糖質制限に対する懸念は強まっています。
糖尿病専門医は、
「極端な糖質制限は肝臓・腎臓に負担を与え、長期的には健康を損なう」として、書籍や講演を通じて警告を発しています。
また、日本ローカーボ食研究会ですら、
「科学的根拠が不十分なまま、一般向けに広まりすぎている」と自ら注意喚起しているのです。
つまり、医療関係者の間では「糖質制限=危険」との共通認識が形成されつつあります。
7. 健康的に痩せるための本質:バランスと持続可能性
「無理をせず、カロリーと栄養バランスを整えることが、最も安全で確実な方法である」。
具体的には以下のようなポイントが重要です。
- ご飯やパンを完全に抜かず、1食につき100〜150gの炭水化物を確保
- タンパク質(魚・豆腐・鶏肉)を適度に摂取
- 食物繊維・ビタミン・ミネラルを豊富に含む野菜を多く摂る
- 1日3食を基本とし、極端な断食を避ける
- 週2〜3回の軽い運動を習慣化する
これらを続けることで、血糖コントロール・脂質代謝・筋肉量維持がバランスよく働き、
「太りにくく健康的な身体」を長期的に保つことができます。
8. まとめ:科学的根拠に基づいた“賢い選択”を
糖質制限ダイエットは、短期的な成果を求める人々の心をつかみました。
しかし、科学的な視点から見れば、
その背後にはケトーシス、臓器負担、ホルモン異常といった重大なリスクが潜んでいます。
健康とは「一時的に痩せること」ではなく、「長く生きて元気であること」です。
極端な方法に頼らず、自分の体質と生活習慣に合わせた、バランスの取れた食生活こそが真のダイエットなのです。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
📘 参考文献
- 安居光國「糖質制限ダイエットを考える」Rikatan 19巻, 2016年
- 岡本卓『本当は怖い糖質制限』(祥伝社)
- 石原結實『糖質制限は危険!』(海竜社)
- 山田悟『糖質制限の真実』(幻冬舎)
- 日本ローカーボ食研究会(http://low-carbo-diet.com/)


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