こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「乳酸が増える=酸素が足りていないから」
そう思っていませんか?
たしかに、激しい運動で酸素が不足したときに乳酸が増えるのは有名です。
ですが、酸素が足りている状態でも乳酸濃度が上がるケースがあります。
その代表例が「敗血症」です。

敗血症とは?
敗血症とは、重度の感染症によって全身の炎症反応や臓器障害が引き起こされる状態です。
このとき、安静にしているのに血中乳酸濃度が上がることが知られています。
「安静なのに乳酸が増える」という現象は、酸素不足だけが乳酸の原因ではないことを示しています。
では、なぜ乳酸が増えるのでしょうか?
鍵を握るのは「Na⁺-K⁺ポンプ」
筋肉細胞の中にはカリウム(K⁺)が多く、細胞の外にはナトリウム(Na⁺)が多く存在します。
この濃度差を保つことで、神経伝達や筋肉の収縮がスムーズに行われています。
しかし、敗血症の状態ではこのバランスが崩れてしまいます。
筋肉からカリウムが漏れ、逆にナトリウムが細胞内に入り込みやすくなるのです。
これに対応するため、細胞は懸命に働きます。
🔄 Na⁺-K⁺ポンプ(ナトリウム-カリウムポンプ)が活性化され、
ナトリウムを細胞外へ、カリウムを細胞内へ戻そうとするのです。
ポンプを動かすには「ATP」が必要
このポンプの活動には、エネルギー(ATP)が必要不可欠です。
そしてそのATPは、特に解糖系という経路で糖質を分解して作られます。
このときの副産物として乳酸が産生されるのです。
つまり──
敗血症ではNa⁺-K⁺ポンプが活性化
→ ATPをたくさん消費
→ ATPを作るために解糖系が活発化
→ 結果として乳酸が増える
このように、酸素が足りなくなくても、エネルギー需要が高まることによって乳酸が産生されるというわけです。
乳酸=酸欠の証ではない?
Na⁺-K⁺ポンプのように、電解質(ナトリウムやカリウムなど)のスピーディーな出入りは、
神経伝達や細胞の働きにとって不可欠です。
そのため、瞬時に対応する必要があるときは、
酸素を使う「ミトコンドリア経由」ではなく、
スピード優先の「解糖系経由」でATPを作る方が合理的です。
そしてその結果、乳酸が産生されるのです。
まとめ:乳酸=「酸素不足」ではない
・敗血症では、酸素が足りていても乳酸が増える
・その背景には、Na⁺-K⁺ポンプの働きすぎによるATP需要の増加がある
・ATPをすばやく補うため、解糖系が活性化 → 乳酸ができる
・つまり、乳酸の増加は“酸欠”の証とは限らない
・「無酸素運動」という表現は、正確には適切でない場面もある
乳酸は“苦しい運動の副産物”ではなく、
身体が危機に対してすばやく対応するためのエネルギー戦略の一部とも言えます。
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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