こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
女性の睡眠は、男性とはまったく異なるリズムで揺れ動きます。
その最大の理由は、視床下部—下垂体—卵巣系(HPO軸)で生じるホルモンの大きな変動です。
月経周期、妊娠、産後、更年期。
女性が人生を通して経験するこれらの変化は、すべて睡眠と深く関わっています。
本記事では、専門論文の知見にもとづき、女性ホルモンが睡眠に及ぼす影響を一般の方にも分かりやすく解説します。

1. なぜ女性は睡眠トラブルが起こりやすいのか?
日本人の不眠症の有症率は、男性17.3%に対し女性21.5%と、女性がより多いことが報告されています 。
その背景には、女性が人生を通して経験する大きなホルモン変化があります。
- 思春期 → 性ホルモン急上昇
- 性成熟期 → 月経周期のリズム
- 妊娠・出産 → 大きなホルモンの波
- 更年期 → エストロゲンの急低下
さらに、家事・育児負担や社会的役割の影響も加わり、女性の睡眠は揺れ動きやすいのです 。
2. 月経前に眠くなる/眠れなくなるのはなぜ?
■ 黄体期(排卵後〜月経前)の体温上昇と眠気
黄体期には プロゲステロンの作用で基礎体温が上昇 します。この体温上昇により、体温リズムの振幅が低下し、夜の眠りが浅くなったり、日中の眠気が増したりします 。
● 主な変化
- 入眠しづらい(入眠潜時の延長)
- 夜中に目が覚めやすい
- 日中に強い眠気が出る
- 深い睡眠(徐波睡眠)が減る可能性
これらは、プロゲステロン代謝産物(例:アロプレグナノロン)が脳のGABA受容体に作用し、催眠作用を生むためと考えられています 。
■ 月経前症候群(PMS)との関連
PMSの女性では、さらにメラトニン分泌の低下が起こる可能性が指摘されており、
「月経前に気分が落ち込む+眠れない」が同時に起こることがあります 。
● 対処法(非薬物)
- 朝の光を浴びる
- 月経前の予定は詰め込みすぎない
- 基礎体温や睡眠記録をつけて傾向を知る
3. 妊娠中の睡眠:なぜ初期は眠く、後期は眠れない?
■ 妊娠初期(1〜3か月)
とにかく眠い…これは珍しいことではありません。
● 原因
- プロゲステロンの強い催眠作用
- 体温上昇による眠気
- 身体疲労・つわり
■ 妊娠中期(4〜6か月)
比較的安定し、睡眠の質も良くなります。
■ 妊娠後期(7〜9か月)
夜間の中途覚醒が増える大きな理由は次の通りです。
- 頻尿
- 胎動
- 腰痛・恥骨痛
- 子宮の増大による不快感
さらに、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群が生じることもあり、注意が必要です 。
● 対処法
- 後期は睡眠薬の使用は原則避ける
- 昼寝は20〜30分
- むずむず脚には鉄分不足のチェック
4. 産後の睡眠:世界で最も睡眠が乱れる時期
産褥期は、人生で最もホルモンが急変する時期だと言われています。
■ 特徴
- 夜間授乳・夜泣きで睡眠が断片化
- 日中の強い眠気
- 身体疲労
● マタニティブルーズ
産後3〜5日頃に発症し、
- 涙もろい
- 気分が落ち込む
- 眠れない
などが見られますが、多くは数日で回復します 。
しかし数週間以上続く場合は産後うつの可能性もあります。
5. 更年期の睡眠:ホットフラッシュと夜間覚醒
閉経前後(45〜55歳)には、エストロゲンの急低下により自律神経症状が増えます。
■ 代表的症状
- 入眠困難
- 夜中に何度も目が覚める
- ホットフラッシュで睡眠が中断される
- 深い睡眠が減る
更年期女性の 42〜57%が不眠を訴える と報告されています 。
● なぜ睡眠時無呼吸が増える?
プロゲステロンには呼吸中枢を刺激する作用があります。
更年期にはこの作用が弱まり、無呼吸が増えやすくなると考えられています 。
● 対処法
- ホットフラッシュが強い場合はホルモン補充療法(医師判断)
- 心理的ストレスへのケア
- 適度な運動や趣味で気分転換
6. 女性の睡眠とホルモンを理解することの大切さ
女性の睡眠は、
ホルモンの波 → 気分の変化 → 睡眠の質への影響
という強い連動があります。
月経・妊娠・産後・更年期のそれぞれで睡眠が変化することは、自然な身体の反応です。
大切なのは、
「自分の睡眠の揺れがホルモンによるものだと理解すること」。
それだけで不安は和らぎ、適切な対処がしやすくなります。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
引用文献(出典)
渋井佳代「女性の睡眠とホルモン」バイオメカニズム学会誌 Vol.29, No.4, 2005


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