こんにちは!
トレーナー育成講師の井上です。
私たちが筋肉を使って動くとき、その「筋力」は筋肉の大きさだけで決まるわけではありません。実は、中枢神経(脳や脊髄)からの指令が筋力調節のカギを握っているのです。
今回は、筋力がどのように調節されているのかを、神経系の観点からわかりやすく解説していきます。

筋力調節のカギは「中枢神経」にあり
どれほど筋肉の断面積が大きくても、神経の制御がうまく働いていなければ、大きな力を出すことはできません。筋力は主に以下の3つの神経的要素によって調節されています。
- 運動単位の動員(種類と数)
- α運動神経の発火頻度
- 運動単位の活動タイミング(活動時相)
それぞれのメカニズムについて、詳しく見ていきましょう。
① 運動単位の動員|小さな力から大きな力までコントロール
●運動単位とは?
「運動単位(motor unit)」とは、1つの運動神経と、それが支配するすべての筋線維のまとまりを指します。
例えば、1つの運動単位が5本の筋線維を支配しているとします。これが5つあれば、合計25本の筋線維が存在することになります。
●力の強さ=運動単位の数
筋力は、どれだけ多くの運動単位が動員されるかによって決まります。弱い力では1つの運動単位だけが活動し、徐々に力を強めたいときは、2つ、3つと運動単位が追加で動員されていきます。
このように必要な筋張力に応じて運動単位を増やす仕組みを「動員(recruitment)」と呼びます。
●サイズの原理とは?
運動単位は、運動神経が小さいもの(S型)から順番に動員されていくという法則があり、これを「サイズの原理(size principle)」といいます。
S型運動単位:遅筋線維を支配。持久力に優れる。
FR型・FF型運動単位:速筋線維を支配。大きな力や瞬発力に優れる。
この順序は通常の随意運動では守られますが、電気刺激や伸張性運動、急激な動きの際には例外的に速筋(F型)が先に動員されることもあります。
② 発火頻度による調整|連続収縮で力をコントロール
●単収縮と強縮の違い
筋肉は、神経から1回だけ信号が送られた場合、「単収縮」と呼ばれる一瞬の収縮を起こします。
しかし、連続的に神経が発火すると、筋肉は弛緩する間もなく連続して収縮を続けます。これを「強縮(テタヌス)」といい、より大きな力を発揮できます。
●rate codingとは?
このような発火頻度(神経の連続発火の速さ)を高めることで、収縮力を強める調整メカニズムを「rate coding」と呼びます。
ただし、発火頻度には限界があり、ある一定の頻度を超えると、それ以上速く発火しても筋力の増加は起きません。
●筋線維タイプで異なる性質
遅筋(S型):発火頻度が変化しても力の変動は小さい
速筋(F型):発火頻度の変化に敏感で、より精密な力調整が可能
速筋は、パワーと速度が求められる場面で柔軟に筋力調整できるという長所があります。
③ 運動単位の活動時相|タイミングで変わる力の質
筋力は、「どの運動単位を」「いつ動かすか」といったタイミングの調整(活動時相)によっても変化します。
●タイミングをずらすと持続力アップ
運動単位の発火タイミングを少しずつずらしていけば、一つひとつの収縮力は小さくても、全体として安定した力を長く発揮できます。
●タイミングを揃えると瞬発力アップ
一方、複数の運動単位を同時に発火させれば、非常に大きな力を一瞬で発揮できます。ただし、持続力はなく、瞬発的な運動に限られます。
このように、活動時相の調整によって「持続的な力」や「瞬間的な力」の使い分けが可能になるのです。
まとめ|神経のコントロールで筋力は決まる
筋肉の力は、単に筋肉の大きさや質だけではなく、「神経系のコントロール」によって精密に調節されています。
・運動単位の数(動員)
・神経の発火頻度(rate coding)
・発火のタイミング(活動時相)
これら3つの要素がバランスよく働くことで、私たちは滑らかで力強い運動を可能にしているのです。
筋トレやスポーツパフォーマンスを高めたい方にとって、神経系の理解は欠かせない知識といえるでしょう。
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