筋肉の「作用」は変化する?関節角度とモーメントアームの関係をやさしく解説

解剖学
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こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

筋肉が関節を動かす力を「作用(さよう)」と呼びます。
この作用は、じつは関節の角度や筋肉のつき方によって変化するのをご存じですか?

今回は、筋肉の作用が決まる仕組みをわかりやすく解説し、よく動く「股関節」を例に、動きと力の関係を丁寧に説明します。

◆ 筋肉の作用とは?どうやって決まるの?

筋肉の「作用」とは、その筋肉が収縮したときに関節に与える動きのことを指します。

たとえば、上腕二頭筋(力こぶの筋肉)は、肘を曲げる「屈曲(くっきょく)」という作用があります。

● 筋肉の作用を決める3つの要素

  1. 筋肉の起始と停止(ついている場所)
  2. 筋肉の走行(どんな方向にのびているか)
  3. 身体の基本姿勢(解剖学的立位)での関節角度

これらをもとに、解剖学では「この筋肉はこの作用をもつ」と定義されています。

◆ でも、筋肉の作用は常に同じとは限らない!

筋肉の作用は、関節の角度が変わることで変化することがあります。
このように、動いているときの関節角度まで考慮した作用を「運動学的作用」と呼びます。

● 例:長内転筋の作用の変化

長内転筋は、股関節を内側に閉じる「内転」が主な作用ですが、それだけではありません。

通常の姿勢では「股関節の屈曲(足を前に上げる動き)」にも関与

しかし、股関節を90度曲げた状態(座った姿勢)では、「伸展(足を後ろに引く動き)」に変わる!

このように、関節の角度によって筋肉の動きが逆になることもあるのです。

◆ モーメントアームとは?筋肉の力の伝わり方

筋肉の発揮する力は、腱を通して骨に伝わり、関節を動かします。

このとき関節を動かす「回転力」を関節トルクといい、以下の式で表されます:

トルク(T)= モーメントアーム(Ma) × 筋張力(F)

● モーメントアームとは?

モーメントアームとは、関節の中心から筋肉の力が働く方向(力線)までの距離です。
この距離が長いほど、同じ力でも大きなトルク(回転力)を生みます。

◆ 実際の例でみる「股関節」の筋肉の作用

● 矢状面(横から見たとき)

股関節の前側にある筋肉:屈曲(前に曲げる)作用
例:大腿直筋、腸腰筋、長内転筋

股関節の後ろにある筋肉:伸展(後ろに引く)作用
例:大殿筋、大内転筋の後部線維、ハムストリングス

▸ 大内転筋の後部線維

股関節の後ろに位置し、モーメントアームも長い

強い伸展トルクを発揮できる
→ 伸展筋として非常に重要

▸ 大腿直筋 vs 小殿筋前部線維

両方とも屈曲に関与しますが、モーメントアームが長い大腿直筋のほうが強い力を出せます。

▸ 大殿筋 vs 中殿筋後部線維

股関節の伸展では、大殿筋の方がモーメントアームが長いため、より大きなトルクを出すことが可能です。

※ただし、これは「解剖学的立位」での話。股関節の角度が変われば、モーメントアームも変わります。

● モーメントアームが変わる例:腸腰筋

解剖学的立位(直立姿勢)ではモーメントアームが短い

しかし、股関節90度屈曲時(座位など)ではモーメントアームが長くなり、トルクが増加

◆ モーメントアームだけでは決まらない!筋肉の「太さ」も重要

筋肉の力は、生理学的断面積(PCSA)にも左右されます。
つまり、モーメントアームが長くても、筋肉自体が細ければ大きな力は出せません。

● 例:恥骨筋 vs 腸腰筋

恥骨筋は腸腰筋よりモーメントアームが長い

しかし、断面積が小さいため、実際の屈曲トルクは腸腰筋が圧倒的に強い

◆ 前額面(正面から見たとき)の作用

股関節の外側にある筋肉:外転(足を外に開く)
例:中殿筋、縫工筋、大腿筋膜張筋

股関節の内側にある筋肉:内転(足を閉じる)
例:内転筋群

● 大殿筋の特殊な作用

大殿筋は一見、伸展が主な役割と思われがちですが、関節の内側を通るためわずかに内転作用ももちます。
ただし、大殿筋を上部線維・下部線維に分けて考えると、

上部線維:外転作用

下部線維:内転作用

と、線維ごとに異なる作用があるのがわかります。

◆ まとめ|筋肉の作用は「姿勢」と「構造」で変わる!

筋肉の働き(作用)は、以下の要素に大きく左右されます。

・関節の角度(運動中の姿勢)

・モーメントアームの長さ

・筋肉の生理学的断面積(太さ)

・筋線維の走行・付着部

つまり、教科書的な「筋肉の作用」だけでなく、動いているときにどう働くか(運動学的作用)を理解することが重要です。

スポーツパフォーマンス、リハビリ、筋トレなど、すべての動作の理解に役立つ知識なので、ぜひ活用してみてください。

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