こんにちは!
パーソナルトレーナーの井上です。
解剖学的な知識は、すべての運動指導者にとって現場での「地図」となります。関節がどのような角度で配置されているかを知ることで、正しいフォーム指導や、姿勢の崩れの発見につながります。
今回は、肩複合体を支える3つの骨の構造的特徴について解説します。
1. 鎖骨(さこつ):上肢を支える唯一の「梁(はり)」
鎖骨は、上から見ると緩やかなS字状をした、長さ約12~15cmの骨です。
- 構造:
- 内側の「胸骨端(きょうこつたん)」は胸骨とつながり、胸鎖関節を形成。
- 外側の平らな「肩峰端(けんぽうたん)」は肩甲骨とつながり、肩鎖関節を形成します。
- 配置の基準:
安静時、鎖骨は真横(前額面)に対して約20°後ろに引けた位置(後退位)にあります。鎖骨と肩甲骨が成す角度は約60°に保たれているのが標準的な指標です。
2. 肩甲骨(けんこうこつ):自由自在に動く「浮遊する三角形」
肩甲骨は、筋肉によって背面に浮いているような扁平な骨です。
- 各部の名称と役割:
- 背面:肩甲棘(けんこうきょく)が横に走り、その上下に棘上窩(きょくじょうか)と棘下窩(きょくげか)があります。それぞれインナーマッスルの起点となります。
- 前面:胸郭に接する面は凹んでおり、肩甲下窩(かか)と呼ばれます。
- 突起:前方に突き出した烏口(うこう)突起は、小胸筋や上腕二頭筋(短頭)などが付着する重要なポイントです。
- 体表からの位置指標(姿勢評価の基準):
- 上角:第2胸椎の高さ。
- 肩甲棘:第3胸椎の高さ。
- 下角:第7胸椎の高さ。
- 肩甲骨面(スキャプラプレーン):
肩甲骨は背中に対して真っ平らに付いているのではなく、前額面に対して約35〜40°内側(前方)に傾いて位置しています。この角度に沿って腕を上げる軌道を「肩甲骨面(スキャプラプレーン)」と呼び、肩への負担が最も少ない安全な動かし方とされています。
3. 上腕骨(じょうわんこつ):精密な角度を持つ腕の主軸
上肢を構成する長管骨であり、その上端には球状の上腕骨頭があります。
- 関節の角度(頸体角と後捻角):
- 頸体角(けいたいかく):骨幹部(軸)と骨頭の角度は約135°。
- 後捻角(こうねんかく):骨頭は肘の軸に対して、約26~30°後ろにねじれて付いています。これにより、少し前を向いている肩甲骨の関節窩と、骨頭がピタリと正面で向き合うようになっています。
- 結節間溝(けっせつかんこう):
外側の大結節と内側の小結節の間にある溝で、ここを上腕二頭筋長頭腱が通ります。この溝の向きや形状は、肩の痛み(二頭筋腱炎など)に関わることが多い重要な部位です。
まとめ|「肩甲帯」としての連動
これら「鎖骨」と「肩甲骨」をひとまとめにした構成体を肩甲帯(けんこうたい)と呼びます。ここに上腕骨が加わることで、私たちは自由な動きを手に入れています。
- 鎖骨のS字がクッションとなり、衝撃を逃がす。
- 肩甲骨の40°の傾きが、腕を上げるレールになる。
- 上腕骨の後捻角が、関節の適合性を高める。
指導の際は、これらの「骨の角度」を頭に描きながら、クライアントの動きを観察してみてください。角度のズレが、不調やパフォーマンス低下のヒントを教えてくれるはずです。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
【引用文献】
- Neumann, D. A. 著「筋骨格系のキネシオロジー」: 肩甲帯の解剖学的角度およびスキャプラプレーンに関する詳細。
- 坂井建雄 監訳「プロメテウス解剖学アトラス」: 骨の各部名称と正確な配置図の確認。
- Boileau, P., & Walch, G. (1997). The three-dimensional geometry of the proximal humerus. Journal of Shoulder and Elbow Surgery. (上腕骨の頸体角・後捻角の研究)
- Sahrmann, S. A. 著「運動機能障害症候群のマネジメント」: 肩甲骨の標準的位置と姿勢評価。

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