肩関節のバイオメカニクス:骨頭の緻密な動きと「凹凸の法則」の例外

解剖学
2026年1月
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こんにちは!
パーソナルトレーナーの井上です。

運動指導者にとって、肩関節の理解は避けて通れない最重要科目の一つです。肩は単一の関節ではなく、複数の関節が連動する「肩複合体」として機能しています。今回は、関節内の数ミリ単位の動き(関節内運動)に焦点を当て、健常時と障害時の違いについて解説します。

1. 肩関節を構成する「5つの関節」

肩関節は、3つの解剖学的関節と2つの機能的関節が協調することで、人体最大の可動域を実現しています。

  • 解剖学的関節(骨同士が接合している):
    1. 胸鎖(きょうさ)関節
    2. 肩鎖(けんさ)関節
    3. 肩甲上腕(けんこうじょうわん)関節
  • 機能的関節(組織同士が滑り合う):
    1. 肩甲胸郭(きょうかく)関節
    2. 第2肩関節(肩峰下関節)

2. 肩甲上腕関節の構造と安定性

一般的に「肩関節」と呼ばれる肩甲上腕関節は、受け皿(関節窩)に対してボール(上腕骨頭)が非常に大きく、骨頭の約1/3程度しか接していません。
このため、股関節のような「骨による安定」は期待できず、関節唇(かんせつしん)や靭帯(烏口上腕靭帯・関節上腕靭帯)、そして筋肉による補強が不可欠です。

3. 数ミリ単位で変化する「骨頭の旅」

腕を動かす際、上腕骨頭は関節窩の中で一定の位置に留まっているわけではなく、緻密に移動(翻訳運動)しています。

  • 挙上(腕を上げる)時の上下移動
    下垂位(腕を下ろした状態)では中心より2mmほど下にありますが、腕を上げるにつれて上方へ移動し、最大挙上時にはほぼ中心に位置します。
  • 水平面での前後移動
    • 最大水平伸展+最大外旋:骨頭は4mm後方へ移動。
    • 水平屈曲(60~80°)+最大内旋:骨頭は中心付近に安定。
  • 回旋による移動
    • 内旋(内ひねり):骨頭は前方へ移動。外転角度が大きくなるほど移動量も増え(90°外転時で12mm)、方向もやや上方へと変化します。
    • 外旋(外ひねり):外転角度が大きくなると、骨頭は後下方へと移動します。

4. 「凹凸の法則」に従わない理由:靭帯による制御

通常、関節運動は「凹凸の法則(凸面が動くとき、滑りは転がりと逆方向に起こる)」に従うとされますが、肩関節の外転位においては、この法則とは逆の動きが見られます。その鍵を握るのが「下関節上腕靭帯(IGHL)」です。

  • 90°外転位でのメカニズム
    この位置では靭帯や関節包がハンモックのように骨頭を支えます。
    • 内旋時:後方の関節包や靭帯が緊張し、骨頭を後ろから前へ押し出すため、骨頭は前方に移動します。
    • 外旋時:前方の関節包が緊張し、骨頭を前から後ろへ押し戻すため、骨頭は後方に移動します。

このように、軟部組織の緊張によって骨頭の動きが制御されるため、教科書的な「凹凸の法則」だけでは説明できない複雑な挙動を示すのです。

5. 健常者と障害者の決定的な違い

肩の痛みや機能不全がある場合、この「数ミリの動き」に狂いが生じています。

状態開始肢位(静止時)挙上時の動き
健常者中心より0.4mm下方上方移動は0.7mm以下(安定している)
インピンジメント患者中心より0.2mm下方1.2mm以上、上方に大きく移動する
腱板損傷患者中心より0.3mm上方挙上初期からさらに上方へ移動し、その後低下

まとめ|指導への活かし方

インピンジメントや腱板損傷を抱える方は、動作の初期から骨頭が「上にズレ上がってしまう」傾向があります。

  • 初期の安定化:挙上初期(0~30°)に骨頭を下方へ引き下げるインナーマッスルの再教育が重要です。
  • 角度による戦略:外転角度や回旋角度によって、靭帯の緊張具合が変わることを考慮したストレッチや補強運動が必要です。

関節内の微細なズレを理解することで、なぜそのフォームが痛むのか、どの組織を狙ってアプローチすべきかが明確になります。

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

【引用文献】

  • Harryman, D. T., et al. (1990). Translation of the humeral head on the glenoid with passive glenohumeral motion. JBJS. (骨頭移動と靭帯の関係に関する古典的研究)
  • Yamaguchi, K., et al. (2000). Goniometric assessment of shoulder range of motion: Comparison of three methods. Journal of Shoulder and Elbow Surgery.
  • Neumann, D. A. 著「筋骨格系のキネシオロジー」: 凹凸の法則と肩関節のバイオメカニクスの標準的教科書。
  • 井尻慎一郎 著「肩関節の評価とリハビリテーション」: 臨床における骨頭移動のデータ解説。

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著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

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