こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
~乳酸ができるのは“酸素が足りないから”ではない?~

◆ ミトコンドリアは常に働いている
私たちの体では、酸素を使ってエネルギー(ATP)を作る「ミトコンドリアの酸化機構」が常に働いています。
酸素は体内に常に存在し、ミトコンドリアはその酸素を使ってエネルギーを生み出しています。
酸素の摂取量は、体がどれだけのエネルギーを必要としているかを表す指標でもあり、運動強度に比例して増加していきます。
◆ エネルギー産生量は「必要な分だけ」
ミトコンドリアがATPを生み出す量は、「そのとき必要なエネルギー量」に応じて変化します。
つまり、運動強度が高くなれば、それに応じてミトコンドリアの活動も活発になります。
しかし、必要以上のATPを勝手に作ることはありません。
◆ 糖質分解のスピードはそれ以上に速い
ここで注目したいのが「糖質分解(解糖系)」のスピードです。
運動強度が上がると、ミトコンドリアのエネルギー産生量よりもはるかに早い速度で糖質が分解されていきます。
結果として、糖質から生まれるピルビン酸が余ってしまうのです。
※糖質分解量 > ミトコンドリアのATP産生量
◆ 余ったピルビン酸はどうなる?
この“余ったピルビン酸”は、細胞内にある「乳酸脱水素酵素(LDH)」によって、乳酸へと変換されます。
ピルビン酸はミトコンドリアに入ってエネルギーに変換されるべき存在ですが、入りきらなかった分は、細胞質で乳酸になる。
これはごく自然な代謝の反応です。
◆ 乳酸は「酸素がないからできる」は誤解?
従来、「乳酸=酸素が足りない無酸素状態でできるもの」と考えられてきました。
しかし実際には、VO₂MAX(最大酸素摂取量)の60〜70%程度という、酸素が十分に供給されている状態でも乳酸は増加します。
つまり、ミトコンドリアも働き、酸素も足りているのに乳酸は生まれているのです。
◆ 乳酸は“糖質の過剰分解”のサイン
このことから言えるのは、
✅ 乳酸ができる=酸素不足ではなく、糖質分解が過剰になったサイン
✅ ピルビン酸の処理能力を超えると乳酸が生まれる
✅ 酸素があっても乳酸はできる
ということ。
乳酸は決して「悪者」ではなく、代謝のバランスを保つために体が選んだ、自然な代謝経路のひとつなのです。
◆ まとめ
運動中に乳酸が増えるのは、体が頑張って糖を使っている証拠。
「乳酸=酸素が足りない証拠」ではなく、「糖質代謝が活発になっている結果」と捉えましょう。
体の仕組みを知れば、乳酸もまた大切なエネルギー代謝の一部だとわかります。
運動中に感じる“きつさ”の正体、少し違った視点で見えてきませんか?
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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