こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
「酸素が足りないと乳酸が増える」
「アドレナリンが出ると乳酸が増える」
このような話を聞いたことはありませんか?
今回は「酸素濃度」や「アドレナリン」と乳酸の関係性について、正しく理解しておきたいポイントをまとめました。

◆ 酸素が足りないと、乳酸は増えるのか?
酸素が不足した状況で運動をした場合、乳酸はどうなるのでしょうか?
感覚的には「酸素が足りない=乳酸が多く作られる」と思う方が多いはずです。
実際、一定の条件下ではそのような傾向があります。
酸素が足りないと──
✅ ATPが作りづらくなる
✅ ADPと無機リン酸(Pi)が蓄積する
✅ それを補うために糖質の分解(解糖系)が加速
✅ 解糖によってピルビン酸が急増 → ミトコンドリアで処理しきれず乳酸に
この流れを見ると、確かに「酸素不足=乳酸産生が促進される」という一面はあります。
◆ でも「酸素不足=常に乳酸が増える」ではない
ただし、実際の生理学はそこまで単純ではありません。
たとえば、高所(=酸素濃度が低い環境)での運動では、
必ずしも乳酸が多く産生されるとは限りません。
なぜなら、酸素濃度が低い環境では、
・糖質の分解自体を抑制する反応が働くこともある
・身体が環境に適応し始めると、乳酸の産生量は逆に減少してくる
つまり、酸素濃度の低下は確かに代謝に影響を与えるものの、
乳酸の量を決定づける要因は「糖質の分解の度合い」にあると言えそうです。
◆ 結論:乳酸のカギは「糖質の分解スピード」
酸素が少ない状況で乳酸が増えるのではなく、
糖質の分解スピードが上がるかどうかが、乳酸産生のカギとなります。
つまり、乳酸は「酸素不足のマーカー」ではなく、
エネルギー代謝のスピードメーターとも言えるのです。
◆ アドレナリンと乳酸の関係
次に、もう一つの重要なホルモン「アドレナリン」と乳酸の関係です。
アドレナリンは、運動中やストレス下で分泌されるホルモンで、
✅ 糖質の分解(解糖)を促進する作用があります。
そのため、運動強度が上がり「無酸素性作業閾値」を超えてくると、
・アドレナリンの分泌が増加
・糖質の分解が活性化
→ 結果として乳酸の産生が急激に増える
という現象が起きるのです。
◆ アドレナリンは安静時でも乳酸を増やす?
興味深いのは、運動していない状態(安静時)でも、
アドレナリンが過剰に分泌されると乳酸が増えることがあるという点です。
たとえば、
緊張
不安
恐怖
興奮
といった精神的ストレスによってアドレナリンが多く出ると、
体が「運動モード」と勘違いし、糖質を分解し始めて乳酸が増える可能性があるのです。
◆ まとめ
・酸素不足=乳酸増加とは一概には言えない
・本当に大事なのは「糖質の分解量」
・アドレナリンは糖質の分解を促進し、乳酸の産生を高める
・運動だけでなく、ストレスでも乳酸は増えることがある
乳酸は“悪者”ではなく、エネルギー代謝のサインとも言える存在。
ぜひ正しく理解して、トレーニングや体調管理に役立ててみてください。
※本記事は、健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断・治療を目的としたものではありません。
症状や体調に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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