こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
私たちは一日に約2万回も呼吸をしています。しかし、その呼吸を支える「呼吸筋」の存在や働きを意識することはほとんどありません。
横隔膜や肋間筋は、絶え間なく動き続ける生命維持の要であり、運動パフォーマンスにも、健康寿命にも深く関わる重要な筋肉です。
ところが、呼吸器疾患、加齢、座りすぎの生活、運動不足などの影響で、呼吸筋は知らないうちに弱っていきます。呼吸が浅くなる、息切れしやすくなる、活動量が減る──そんな小さな変化が積み重なると、健康全体に大きな影響を及ぼすことがあります。
その一方で、呼吸筋はいくつになっても鍛えることができる筋肉です。
近年では、従来の「吸って吐く」の単純なトレーニングではなく、科学的根拠に基づいた高精度な方法が進化し続けています。中でも注目が集まっているのが、高負荷持続型吸気筋トレーニング(SHL-IMT) です。
SHL-IMTは名前だけ聞くと難しそうですが、簡単に言えば「強い負荷をかけながら、できるだけ長く息を吸い続ける」新しいトレーニング法です。これにより、呼吸筋の“力”と“持久力”を同時に高めることができると報告されています。
本記事では、最新研究のデータをもとに、
なぜSHL-IMTが効果的なのか、従来型との違いはどこにあるのか、どんな人に向いているのか
を、できるだけ専門的で、かつ一般の読者にも理解しやすい形で解説していきます。
呼吸は、意識すれば人生を変えられる機能です。

■呼吸筋トレーニングとは何か
呼吸は無意識に行われていますが、その背後では「呼吸筋」という多くの筋肉が働いています。主役は横隔膜で、肋骨の間にある外肋間筋なども重要な役割を果たしています。これらの筋肉が弱ったり疲れやすくなると、息切れしやすくなり、運動や日常生活での動きが制限されてしまいます。
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD) では呼吸筋の機能低下が顕著で、呼吸がしにくい→運動量が減る→さらに筋力が落ちるという悪循環が起こります。
そこで重要なのが「呼吸筋トレーニング」。吸気筋トレーニング(IMT)は過去から研究が多く行われ、呼吸困難の軽減、運動耐容能の改善、活動量の向上などが報告されています。
■新しいトレーニング手法:高負荷持続型吸気筋トレーニング(SHL-IMT)とは
従来のIMTは、最大吸気の約2秒の短い吸い込み を繰り返すのが一般的です。しかし、短時間の吸い込みでは「持久力」に対する刺激が弱いことが問題とされてきました。
そこで登場したのが SHL-IMT(Sustained High-Load Inspiratory Muscle Training) です。
これは、
- 最大限に近い強度で
- 吸気をできるだけ長く持続させる
というトレーニング方法で、吸う力「筋力」だけでなく、「持久力」も改善できると期待されています。
SHL-IMTは、吸気の全範囲にわたって負荷がかかるため、横隔膜を含む呼吸筋の総仕事量(圧×時間)が大きくなります。
■今回紹介する最新研究の概要
研究論文では、健常若年男性30名 を対象に、
- SHL-IMT群
- 従来型IMT群
- シャム(低負荷)群
の3群に分け、8週間のトレーニング+8週間の非トレーニング期間 を設けて効果を調べています。
評価指標は以下の3つ:
- MIP(最大吸気圧):吸う力
- SMIP(持続最大吸気圧):吸う持久力
- 外肋間筋の筋厚と筋輝度(超音波)
■研究結果:SHL-IMTは“筋力”も“持久力”も向上させる
◆1.MIP(吸う力)が大きく改善
SHL-IMT群は、従来型IMT群よりもMIPが大きく増加し、
- トレーニング4週
- トレーニング8週
- ディトレーニング4週
- ディトレーニング8週
のすべてで、シャム群・IMT群より高値でした。
つまり、SHL-IMTは“吸う力”を最も強く改善する。
さらに興味深い点として、トレーニングを中止しても 8週間後まで効果が維持されていた ことです。
◆2.SMIP(吸う持久力)はSHL-IMTだけが改善
SMIPは、吸気筋の“持久力”をより正確に測る指標です。
- SHL-IMT群:4週・8週で有意に増大
- 従来型IMT群:変化なし
- シャム群:変化なし
吸気筋の持久力は、特に日常生活や運動時の“息切れのしにくさ”と関係するため、臨床的な意義が深い指標です。
◆3.筋厚・筋輝度は3群で有意差なし
超音波で測定した外肋間筋の厚さや筋輝度は、どの群でも大きく変化しませんでした。
呼吸筋の改善は、形態(筋肉の厚み)が変わらなくても、
機能(力・持久力)が向上する ことが示されたと言えます。
■なぜSHL-IMTは従来IMTより効果が大きいのか
●ポイント1:横隔膜は持久力に優れた筋
横隔膜は 約55%がタイプⅠ線維(持久力タイプ) で構成されています。これは長時間の吸気努力に向いた筋で、SHL-IMTのような持続負荷に適した構造です。
●ポイント2:総仕事量が大きい
SHL-IMTは“圧×時間”の積が大きく、
‐ 筋力
‐ 持久力
の両方に強い刺激を与えます。従来IMTは「短時間の吸気」を反復するため、持久的な刺激が不足します。
●ポイント3:呼吸補助筋の代償が抑えられる
高負荷IMTでは横隔膜以外の筋が出しゃばりすぎることがありますが、SHL-IMTは吸気全体に負荷がかかるため、横隔膜を含む呼吸筋全体に広い刺激が入ると考えられます。
■ディトレーニング(中止後)の特徴
本研究では8週間の中止期間が設けられています。
●吸気筋力(MIP)は維持される
SHL-IMTは中止後も効果が残存。
IMTも効果は残るが、SHL-IMTに及ばない。
●吸気持久力(SMIP)は低下が早い
SMIPのような持久力指標は、刺激がなくなると比較的早く低下します。これは一般的な筋生理学の知見とも一致します。
→持久力を維持したい人は、継続的なトレーニングが必要。
■どんな人にSHL-IMTが向いているか
以下のような場面で特に有効と考えられます。
◆1.息切れが強い人・呼吸器疾患患者
COPD患者ではIMTが運動耐容能を改善することが多く報告されていますが、
持久力の改善にはSHL-IMTの方が理論的に適しています。
呼吸筋疲労を遅らせるため、日常生活での“息切れしにくさ”向上にも期待できます。
◆2.スポーツ選手
呼吸筋の効率は、運動パフォーマンスに直結します。
特に、
- 長距離走
- 水泳
- サッカー
- バスケットボール
- 武術・格闘系
など、高強度で長時間の呼吸負荷がかかる競技では、吸気筋の疲労が動きを制限します。
SHL-IMTは持久力の向上に優れるため、競技力向上に適します。
◆3.高齢者・身体活動が低い人
呼吸筋の衰えは、姿勢保持や活動量に影響し、フレイルの一因となります。
横隔膜の働きが改善すると、姿勢の安定性にも寄与するため、全身機能の底上げに役立ちます。
■SHL-IMTの実践例
※安全に行うためには、医療職・理学療法士などの指導を受けることを推奨します。
●基本的な流れ
- ゆっくりと最後まで息を吐く
- トレーニングデバイスを使って“できるだけ長く”吸い続ける
- 限界まで吸ったら終了
- 休憩(1分)
- これを複数セット実施
研究では 6回 × 6セット を実施していますが、一般の方はまず「1回×5セット」などから始めると安全です。
■注意点
- 高血圧の方は急激な吸気で血圧が上がる可能性があります
- 呼吸器疾患のある方は、医療従事者と相談しながら行う
- めまいが出たら中止
- 筋肉痛や胸痛がある場合は無理をしない
■まとめ
本記事で紹介した研究から、以下のポイントが明確になりました。
⭐SHL-IMTは吸気筋の筋力・持久力を最も効率よく高める
⭐従来のIMTよりも効果が大きい
⭐筋力効果は長期間維持される
⭐持久力効果は中止すると低下しやすい
⭐形態的変化はなくても機能は改善する
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
■引用文献
氏川拓也・他(2025)「高負荷持続型吸気筋トレーニングの吸気筋機能に対する効果およびその持続性」理学療法科学 40(5): 219–224.


コメント