高負荷持続型吸気筋トレーニング(SHL-IMT)の科学──呼吸筋の「力」と「持久力」を同時に高める最新エビデンス

健康
2026年1月
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こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

私たちは一日に約2万回も呼吸をしています。しかし、その呼吸を支える「呼吸筋」の存在や働きを意識することはほとんどありません。
横隔膜や肋間筋は、絶え間なく動き続ける生命維持の要であり、運動パフォーマンスにも、健康寿命にも深く関わる重要な筋肉です。

ところが、呼吸器疾患、加齢、座りすぎの生活、運動不足などの影響で、呼吸筋は知らないうちに弱っていきます。呼吸が浅くなる、息切れしやすくなる、活動量が減る──そんな小さな変化が積み重なると、健康全体に大きな影響を及ぼすことがあります。

その一方で、呼吸筋はいくつになっても鍛えることができる筋肉です。
近年では、従来の「吸って吐く」の単純なトレーニングではなく、科学的根拠に基づいた高精度な方法が進化し続けています。中でも注目が集まっているのが、高負荷持続型吸気筋トレーニング(SHL-IMT) です。

SHL-IMTは名前だけ聞くと難しそうですが、簡単に言えば「強い負荷をかけながら、できるだけ長く息を吸い続ける」新しいトレーニング法です。これにより、呼吸筋の“力”と“持久力”を同時に高めることができると報告されています。

本記事では、最新研究のデータをもとに、
なぜSHL-IMTが効果的なのか、従来型との違いはどこにあるのか、どんな人に向いているのか
を、できるだけ専門的で、かつ一般の読者にも理解しやすい形で解説していきます。

呼吸は、意識すれば人生を変えられる機能です。

■呼吸筋トレーニングとは何か

呼吸は無意識に行われていますが、その背後では「呼吸筋」という多くの筋肉が働いています。主役は横隔膜で、肋骨の間にある外肋間筋なども重要な役割を果たしています。これらの筋肉が弱ったり疲れやすくなると、息切れしやすくなり、運動や日常生活での動きが制限されてしまいます。

特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD) では呼吸筋の機能低下が顕著で、呼吸がしにくい→運動量が減る→さらに筋力が落ちるという悪循環が起こります。

そこで重要なのが「呼吸筋トレーニング」。吸気筋トレーニング(IMT)は過去から研究が多く行われ、呼吸困難の軽減、運動耐容能の改善、活動量の向上などが報告されています。

■新しいトレーニング手法:高負荷持続型吸気筋トレーニング(SHL-IMT)とは

従来のIMTは、最大吸気の約2秒の短い吸い込み を繰り返すのが一般的です。しかし、短時間の吸い込みでは「持久力」に対する刺激が弱いことが問題とされてきました。

そこで登場したのが SHL-IMT(Sustained High-Load Inspiratory Muscle Training) です。
これは、

  • 最大限に近い強度で
  • 吸気をできるだけ長く持続させる

というトレーニング方法で、吸う力「筋力」だけでなく、「持久力」も改善できると期待されています。

SHL-IMTは、吸気の全範囲にわたって負荷がかかるため、横隔膜を含む呼吸筋の総仕事量(圧×時間)が大きくなります。

■今回紹介する最新研究の概要

研究論文では、健常若年男性30名 を対象に、

  • SHL-IMT群
  • 従来型IMT群
  • シャム(低負荷)群

の3群に分け、8週間のトレーニング+8週間の非トレーニング期間 を設けて効果を調べています。

評価指標は以下の3つ:

  1. MIP(最大吸気圧):吸う力
  2. SMIP(持続最大吸気圧):吸う持久力
  3. 外肋間筋の筋厚と筋輝度(超音波)

■研究結果:SHL-IMTは“筋力”も“持久力”も向上させる

◆1.MIP(吸う力)が大きく改善

SHL-IMT群は、従来型IMT群よりもMIPが大きく増加し、

  • トレーニング4週
  • トレーニング8週
  • ディトレーニング4週
  • ディトレーニング8週

のすべてで、シャム群・IMT群より高値でした。

つまり、SHL-IMTは“吸う力”を最も強く改善する。

さらに興味深い点として、トレーニングを中止しても 8週間後まで効果が維持されていた ことです。

◆2.SMIP(吸う持久力)はSHL-IMTだけが改善

SMIPは、吸気筋の“持久力”をより正確に測る指標です。

  • SHL-IMT群:4週・8週で有意に増大
  • 従来型IMT群:変化なし
  • シャム群:変化なし

吸気筋の持久力は、特に日常生活や運動時の“息切れのしにくさ”と関係するため、臨床的な意義が深い指標です。

◆3.筋厚・筋輝度は3群で有意差なし

超音波で測定した外肋間筋の厚さや筋輝度は、どの群でも大きく変化しませんでした。

呼吸筋の改善は、形態(筋肉の厚み)が変わらなくても、
機能(力・持久力)が向上する ことが示されたと言えます。

■なぜSHL-IMTは従来IMTより効果が大きいのか

●ポイント1:横隔膜は持久力に優れた筋

横隔膜は 約55%がタイプⅠ線維(持久力タイプ) で構成されています。これは長時間の吸気努力に向いた筋で、SHL-IMTのような持続負荷に適した構造です。

●ポイント2:総仕事量が大きい

SHL-IMTは“圧×時間”の積が大きく、
‐ 筋力
‐ 持久力
の両方に強い刺激を与えます。従来IMTは「短時間の吸気」を反復するため、持久的な刺激が不足します。

●ポイント3:呼吸補助筋の代償が抑えられる

高負荷IMTでは横隔膜以外の筋が出しゃばりすぎることがありますが、SHL-IMTは吸気全体に負荷がかかるため、横隔膜を含む呼吸筋全体に広い刺激が入ると考えられます。

■ディトレーニング(中止後)の特徴

本研究では8週間の中止期間が設けられています。

●吸気筋力(MIP)は維持される

SHL-IMTは中止後も効果が残存。
IMTも効果は残るが、SHL-IMTに及ばない。

●吸気持久力(SMIP)は低下が早い

SMIPのような持久力指標は、刺激がなくなると比較的早く低下します。これは一般的な筋生理学の知見とも一致します。

→持久力を維持したい人は、継続的なトレーニングが必要。

■どんな人にSHL-IMTが向いているか

以下のような場面で特に有効と考えられます。

◆1.息切れが強い人・呼吸器疾患患者

COPD患者ではIMTが運動耐容能を改善することが多く報告されていますが、
持久力の改善にはSHL-IMTの方が理論的に適しています。

呼吸筋疲労を遅らせるため、日常生活での“息切れしにくさ”向上にも期待できます。

◆2.スポーツ選手

呼吸筋の効率は、運動パフォーマンスに直結します。
特に、

  • 長距離走
  • 水泳
  • サッカー
  • バスケットボール
  • 武術・格闘系

など、高強度で長時間の呼吸負荷がかかる競技では、吸気筋の疲労が動きを制限します。

SHL-IMTは持久力の向上に優れるため、競技力向上に適します。

◆3.高齢者・身体活動が低い人

呼吸筋の衰えは、姿勢保持や活動量に影響し、フレイルの一因となります。
横隔膜の働きが改善すると、姿勢の安定性にも寄与するため、全身機能の底上げに役立ちます。

■SHL-IMTの実践例

※安全に行うためには、医療職・理学療法士などの指導を受けることを推奨します。

●基本的な流れ

  1. ゆっくりと最後まで息を吐く
  2. トレーニングデバイスを使って“できるだけ長く”吸い続ける
  3. 限界まで吸ったら終了
  4. 休憩(1分)
  5. これを複数セット実施

研究では 6回 × 6セット を実施していますが、一般の方はまず「1回×5セット」などから始めると安全です。

■注意点

  • 高血圧の方は急激な吸気で血圧が上がる可能性があります
  • 呼吸器疾患のある方は、医療従事者と相談しながら行う
  • めまいが出たら中止
  • 筋肉痛や胸痛がある場合は無理をしない

■まとめ

本記事で紹介した研究から、以下のポイントが明確になりました。

⭐SHL-IMTは吸気筋の筋力・持久力を最も効率よく高める

⭐従来のIMTよりも効果が大きい

⭐筋力効果は長期間維持される

⭐持久力効果は中止すると低下しやすい

⭐形態的変化はなくても機能は改善する

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

■引用文献

氏川拓也・他(2025)「高負荷持続型吸気筋トレーニングの吸気筋機能に対する効果およびその持続性」理学療法科学 40(5): 219–224.

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著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

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