こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
三段跳びは「ホップ(1歩目)→ステップ(2歩目)→ジャンプ(3歩目)」という3段階の踏切と着地を繰り返しながら、走力・跳躍力・技術・リズムを総合的に使って距離を競う種目です。
中でも「ステップでつぶれる」というのは、一定以上の距離を伸ばせずに悩んでいる選手にとって非常に典型的かつ根深い課題です。例えば、ホップで良い跳躍をしたにも関わらず、ステップで地面に“沈んでしまう”または“伸びなくなってしまう”ことで、後半ジャンプ段階まで加速・反発を活かせず、結果として記録が頭打ちになってしまうという状況です。
本稿では、
- ステップでつぶれる「原因」を整理し、
- それぞれに「改善のための技術・ドリル・意識」を提示し、
- 実践時の「チェックポイント」や「トレーニング導入のヒント」も紹介します。
競技力を上げたい選手・指導者・部員の皆さんにとって役立つ内容になるよう工夫しました。

「ステップでつぶれる」とは?
まず「ステップでつぶれる」と聞いて何が起きているかを整理します。
- ステップ(2歩目)に入る段階で、脚・体幹・上体のバランスが崩れ、「跳び出せずに低く沈む」「加速が失われる」「踏切時に膝・股関節が過剰に曲がる」などの動きが出る。
- その結果、ステップの距離が短くなったり、踏切が弱くなってジャンプ(3歩目)に十分なスピードや反発力が残らなかったりする。
- 多くの場合、ホップで高さや距離を稼ごうとしてしまい、ステップでそれを受け止めきれず「潰れ」てしまうパターンです。
- また、接地脚・リード脚・重心の位置・接地タイミングなどがうまく機能しておらず、「伸びずに接地時間が長くなってしまう」「体重を支えきれずに沈んでしまう」といった物理的なロスも発生しています。
このような「つぶれ」に至るメカニズムをきちんと理解することが、改善への第一歩です。
原因分析:ステップでつぶれる主要な原因
ここでは「ステップでつぶれてしまう」典型的な原因を整理します。複数の原因が重なっているケースも多いため、自己の跳躍を冷静に振り返る際のチェックリストとして活用してください。
1. 助走‐ホップ‐ステップのリズム・配分のズレ
助走からホップ、そしてステップにかけての流れがうまくつながっていないと、ステップ段階で勢いが落ちてしまいます。例えば以下のようなパターンがあります。
- 助走が「全力」に近すぎて、ホップで勢いを使いすぎてしまい、ステップに入り切らない。
- ホップで高度や跳び上がる時間が長く、空中滞空が長めになってしまい、ステップで接地が遅れ、地面からの反発・加速を十分に得られず沈む。
- ホップ・ステップ・ジャンプの比率が極端になっている(たとえばホップで大きく稼いで、ステップで距離が出ず、ジャンプへ至らない)という初心者的なパターンがあります。
2. ホップ(1歩目)で「跳び上がり過ぎ」・角度が大きすぎる
ホップの役割は“次のステップにスムーズにつなげる”ことであり、ただ「高く飛ぶ」ことだけではありません。
- ホップで跳び上がり過ぎてしまうと、重心が高くなりすぎてしまい、ステップの踏切・接地時に落下・衝撃を受け止めきれずに膝が曲がったり体が沈んだりして「つぶれ」につながります。
- 「跳躍角度が大きすぎる(=垂直方向の跳び上がりが強すぎる)」と、水平に進むための慣性が損なわれ、ステップで支えきれなくなるといった指摘があります。
3. ステップ(2歩目)の踏切・接地ポジション・タイミングのズレ
ステップでつぶれる場面において、最も実技的かつ改善しやすいポイントがここです。具体的には:
- 接地脚(踏切脚)が自分の重心位置より前方に入ってしまい、膝・股関節が曲がることで「クッション」されてしまい、反発力が十分に出ない。
- 接地時間が長くなってしまい、地面を“押す”時間を失い慣性・速度を維持できず、身体が沈んでしまう。
- リード脚(次の脚)・振上脚・上体の動きが遅れて、接地から跳び出しにかけて力がスムーズに伝わらない。
- 身体軸(上体・腰)が前傾・崩れていたり、踏切直前にブレーキ的な動き(脚が後ろ流れ・ストライドが伸びすぎ)がある。
4. 上体・体幹・脚の順動作がつながっていない
三段跳びは、走り・踏切・空中動作・着地・跳び出しという一連の動作が非常に密接に連動しています。ステップでつぶれる選手には、次のような共通点があります:
- 上体が踏切直前~接地時に前傾・沈み込んでしまい、重心が前に流れてしまって反発を受けにくい。
- 脚・腕・体幹の順動作(助走→ホップ→ステップ)を意識できておらず、“脚だけで跳ぼう”となってしまっている。脚力だけに頼ると、ステップで無駄に膝を曲げてしまいがちです。
5. スパイク・装備・脚力・疲労による物理的なロス
少し視点を広げると、ステップでつぶれる原因には用具・脚力・疲労の影響もあります。例えば:
- 接地時に脚・膝・足首の受け止めが不十分(足首が固まらず“曲がる”ことで力が吸収されてしまう)と、踏切の反発を得にくい。
- スパイクの性能(クッション性・ソール剛性・フィット感)が不適切で、踏切・接地の反発・推進を活かしきれていない。
- 練習量・疲労・筋力・ストレッチ・体調管理などのフィジカル面が整っていないと、ステップでの脚・体幹の“受け止め・跳び返し”が弱くなりがちです。
改善のための技術・意識・ドリル
上記の原因を踏まえて、具体的な改善策を見ていきましょう。実践しやすいドリルや意識の持ち方も交えて解説します。
改善①:ホップを「低く・遠く」に設定する
ホップ(1歩目)を改善することで、ステップでのつぶれを防ぐ土台を作れます。
- 意識として「高く跳びすぎない」=“跳び上がる”ではなく“前に運ぶ”イメージ。ホップでは“走りの流れを保ったまま着地→ステップにつなぐ”ことを意識します。
- ホップで跳び上がりが少ないことで、ステップに入ったときに落下衝撃が小さくなり、脚・体幹が受け止めやすくなります。
- ドリル例:助走を少し控えめ(例:9割スピード)で入り、ホップを「地面を軽く蹴る」「水平成分を意識して前に運ぶ」ことにフォーカス。バウンディング(地面を強く蹴って飛ぶ)よりも“地面を押して前に行く”感覚を養うと良いです。
改善②:助走・リズム・配分を見直す
助走からホップ→ステップ→ジャンプまでの流れを意識的に整理します。
- 助走では「走り切るスピード」だけでなく、「ホップに入るまでの加速」「ホップ直前の身体の軸の立て直し」「踏切版へのスムーズな入射」が重要。
- 助走後半ではストライドが伸びすぎず、ビッチ(歩数/接地回数)を意識して入ることで、ホップ・ステップ時に脚が後ろ流れず、踏切脚が準備しやすくなります。
- 跳躍3段(ホップ・ステップ・ジャンプ)の比率を意識する:初心者では「ホップ大きめ/ステップ小さめ/ジャンプ大きめ」の傾向がありますが、ステップが潰れないようになるためには「ホップを控えめ/ステップをきちんと乗せる/ジャンプを活かす」配分に近づけることが大切です。
改善③:ステップ(2歩目)の接地・踏切・脚・重心の意識を高める
ここが“つぶれ”を防ぐ核心部になります。以下のポイントを整理しておきましょう。
- 接地脚が重心の真下~やや前に入ること:脚が前に出すぎると、ブレーキ的な作用が入ってしまい、「沈む」動きになります。
- 膝・股関節を曲げすぎず、可能な限り“脚を伸ばしたまま”反発できるようにすること。幅跳びなどと異なり、ステップでは膝を曲げてしまうと力が“クッション”されてしまい、跳び出せません。
- 接地時間をできるだけ短くし、地面を“強く押す”イメージで踏切へ移行。落下‐接地‐蹴り出しまでの時間が長いと、速度・反発力が失われ、つぶれに繋がります。
- 腕振り・リード脚(振上脚)のスイング動作を意識して、接地から跳び出しへの“連動”を高める。脚だけで跳ぶのではなく、全身で“刻む”動きが必要です。
- 上体・体幹を立てる(垂直に近く保つ)こと。前傾・沈み込みがあると反発を十分に受けにくく、体がつぶれやすくなります。
ステップ改善のドリル例
- 「片脚バウンディング」または「片脚跳び(ミニホップ+ステップ意識)」:ホップからステップを意識し、ステップ脚での踏切を強化。
- 「ハードルスキップ連続」:短い距離にハードルを並べて、リズムよくスキップ&ホップ/ステップの動きを養成。
- 「ステップ意識接地ドリル」:ホップ直後、通常より少しだけ短めの距離でステップへ。接地脚が重心近くに来るか、膝を曲げずに受けられるかチェック。
- 「鏡・ビデオ撮影で踏切脚・リード脚・上体の動きを確認」:自分の接地位置・上体の角度・膝・股関節の動きを可視化して、改善点を探す。
改善④:装備・脚力・メンタル面も考慮
跳躍技術だけでなく、身体・装備・練習環境も見直しが必要です。
- スパイク/シューズの見直し:跳躍種目(特に三段跳び)では、接地衝撃がかなり大きくなります。脚・膝・足首が耐えられる設計のものを選ぶことが重要です。
- 筋力・体幹・脚関節の安定性の向上:ステップで受け止め→跳び出す動きを繰り返すため、脚・臀部・体幹の筋力および柔軟性・関節可動域が整っていることが望ましいです。
- 疲労・コンディション管理:助走・ホップからステップへ至るまでにスピード・反発を保つためには、日々の疲労・練習量・回復が整っていることが前提です。
- メンタル面:ステップでつぶれる感覚を「許容」してしまうと、体が衝撃に対して“慎重”になりすぎ、踏切脚を入れる動きやスイングが鈍くなります。失敗を恐れず、ステップでしっかり脚を乗せる/接地を受け止めるという意識が大切です。
実践時のチェックポイントまとめ
練習や試合で「ステップでつぶれそう/つぶれた」感覚が出た時、自分でセルフチェックできるポイントを整理します。
- ホップ時に「跳び上がろうとしていないか?」
- 空中滞空時間が長くなっていないか?
- 跳び上がる角度が高すぎていないか?
- 接地脚(ステップ脚)が重心の真下~やや前か?
- 足が極端に前に出ていないか?
- 膝・股関節がやや曲がりすぎて“クッション”状態になっていないか?
- 接地‐蹴り出し(ステップ)の時間が短く、地面を“押せているか”?
- 踏切直後、跳び出しまでモタついていないか?
- 腕振り・リード脚が遅れていないか?
- 上体・体幹が立っているか?
- 目線は前方(やや地平線方向)で、背中が丸まっていないか?
- 踏切直前~接地~蹴り出しで体が前に倒れていないか?
- 助走・ホップ~ステップ~ジャンプのリズムに乱れがないか?
- ホップ後、ステップへの動きがスムーズか?
- 助走スピードが入り過ぎていないか?(走り幅跳びと同じ感覚になっていないか)
このチェックリストを使って、練習中や試合後の振り返りに活用してみてください。ノート等に「○」「×」形式で記録していくことで、自分の技術の“つぶれパターン”を可視化できます。
指導・練習導入時のヒント・留意点
部活動やクラブチームで指導する立場、または選手自身が練習プランを立てる際に知っておきたいポイントです。
- 初期段階では「ホップ・ステップの感覚作り」に重点を置き、無理に距離を追いかけないこと。ステップでつぶれる選手は「距離を出そう」と焦ってしまうあまり、技術が崩れやすいです。
- 練習は「質×量」が基本ですが、ステップ改善時には「質」を重視しましょう。接地・蹴り出し・リード脚・体軸の意識を丁寧に。量を頑張るのは、その技術が安定してからでも十分です。
- ドリルを導入する際には、週1〜2回「ステップ特化」の内容(例:ホップ低め+ステップ意識+短め助走+動画確認)を組み込むと効果的です。残りの日は通常の助走・ホップ・ジャンプ練習と並行しましょう。
- 動画撮影・フィードバックが非常に有効です。自分のステップで「どこで沈んだか/接地脚がどこに入ったか/膝・股関節の屈曲具合はどうか」などを第三者視点で確認することが、改善スピードを高めます。
- 技術が改善しつつある時期には、試合や計測会など「実戦感覚」の場を入れておくことをおすすめします。技術ドリルで得たものを「実践で使えるか」を確認することが、次のステップ(ジャンプ段階)への橋渡しになります。
- 心身のコンディション管理を忘れずに。ステップでつぶれる原因の一つに「脚・体幹の疲労」「フォームが乱れた状態で無理に跳ぶ」などが挙げられます。練習後のケア(ストレッチ・アイシング・走り込み量調整)も指導者・選手双方で意識しましょう。
まとめ
「ステップでつぶれる」という悩みは、決して珍しいものではありません。むしろ、上級レベルに近づくほど、ホップ・ステップ・ジャンプの配分・リズム・技術精度が問われるため、ステップでのつぶれが“壁”として立ちはだかることが多いのです。
しかし、原因を整理し、改善のための意識・ドリル・チェックポイントをきちんと整えれば、必ず改善は可能です。
特に下記のポイントを常に意識して練習に取り組んでいただければ、ステップでの“つぶれ”を減らし、全体としての跳躍距離を伸ばすことにつながります。
- ホップを「低く・遠く」、ステップへのつなぎを滑らかにする。
- 助走~ホップ~ステップ~ジャンプの流れ・配分を意識する。
- ステップでの接地位置・膝/股関節の角度・接地時間・脚の準備を丁寧に。
- 装備・脚力・体幹・コンディションも同時に整える。
- 練習後にはチェックリストで「つぶれかけた原因」を振り返り、動画撮影等で改善サイクルを回す。
最後になりますが、この記事をご活用いただいた皆さまが「ステップでつぶれない跳躍」を手にし、記録更新・自己ベスト更新という嬉しい結果に結びつくことを心から願っています。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。


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