こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
ダイエットという言葉は、もともと「食事療法」という医学的な意味を持ちます。しかし、現代の日本社会では「痩せること」「体重を減らすこと」を目的とした行動として広く使われています。
特に若い女性の間では、「痩せていたい」という願望(痩せ願望)が非常に強く、時には健康を損なうほどの過激な減量行動につながることもあります。
本稿では、「なぜ同じ“痩せたい”という気持ちを持っていても、健康的にダイエットできる人と、危険な方法に走る人がいるのか?」
を、心理学的な要因「自己効力感(self-efficacy)」を中心にわかりやすく解説します。

1. 痩せ願望は10歳から始まる?
研究では、すでに小学生の段階から「痩せたい」と感じている女子が多く存在することが報告されています。
10歳前後の女子児童の多くがすでに痩せ願望を持っており、実際にダイエット行動を経験している割合は小学生から大学生までで50〜90%にものぼります。
1960年代から1990年代にかけて、日本の15〜24歳女性の平均BMIは21.5から20.5へ減少しました。
つまり「標準体型」でも「太っている」と感じてしまう傾向が強まっているのです。
2. ダイエット行動には2種類ある
研究では、女子大学生203名を対象に調査が行われ、「緩やかなダイエット」と「過激なダイエット」が区別されました。
- 緩やかなダイエット行動(structured diet)
→「腹八分にする」「夕食後は何も食べない」「カロリーの高いものを控える」など、健康的な食事制限。 - 過激なダイエット行動(extraordinary diet)
→「食事を抜かす」「下剤を使用する」「極端なカロリー制限」など、健康を脅かす危険な方法。
対象者のうち約27%が「現在ダイエットをしている」と回答。
その中で「緩やかなダイエット」をしている人が多い一方で、約4%が下剤を使うなどの危険行動に及んでいました。
3. ダイエットに影響する4つの要因
Penderの「Health Promotion Model(健康増進モデル)」を参考に、研究ではダイエット行動に関連する要因を以下の4つに整理しています。
- 生物学的要因(年齢・体脂肪率・家族の肥満)
- 心理学的要因(健康意識・体型不満・自己効力感)
- 社会的要因(家族や友人のダイエット・話題の頻度)
- 過去の行動要因(過去のダイエット経験・成功体験・情報収集)
これらの要因がどのようにダイエット行動に影響するかを分析した結果、興味深い傾向が明らかになりました。
4. 「自己効力感」が緩やかなダイエットを導く
自己効力感(self-efficacy)とは、「自分はできる」と感じる力のこと。
心理学者バンデューラ(Bandura, 1977)が提唱した概念で、「行動変容の原動力」として健康行動の研究で多く活用されています。
研究の結果、次のような傾向が示されました:
- 緩やかなダイエット行動には、
→ 痩せ願望・専門的情報・自己効力感が関係していた。 - 過激なダイエット行動には、
→ 家族の肥満・体型に関する嫌な体験・過去の成功体験が関係していた。
つまり、「痩せたい」という気持ちは誰もが共通して持っていますが、
自己効力感が高い人ほど、健康的で持続可能な方法を選ぶ傾向があることが分かります。
5. 家族の影響は想像以上に大きい
特に注目すべきは、「家族の肥満」や「家族のダイエット行動」が、若い女性のダイエット行動に強く影響している点です。
母親や父親がダイエットをしている家庭では、娘も「痩せなければならない」という無意識のプレッシャーを受けやすくなります。
実際、家族にダイエットをしている人がいるほど、痩せ願望が強まり、過激な方法をとるリスクが高まることが示されています。
この点は、単なる個人の問題ではなく、「家庭文化」「美意識の継承」といった社会的要素とも関係しています。
6. 「体型不満」は「体重」よりも「部分」へのこだわり
興味深いのは、体重よりも「体型」に対する不満が強かったという点です。
たとえば「脚を細くしたい」「顔を小さくしたい」といった“部分的な理想”が、若い女性のダイエットを動かしていることが明らかになりました。
この傾向は、現代のSNS文化にも通じます。
加工アプリやモデル体型の画像が日常的に目に入ることで、「理想の体」をより具体的に、かつ非現実的に追い求めてしまうのです。
7. 若年期の痩せ願望形成と教育の重要性
研究では、「痩せ願望をもたらす最大の要因は“過去の関連行動”」であることも示されました。
つまり、一度でもダイエットを経験した人ほど、将来的にも痩せ願望が強まる傾向があるということです。
また、痩せ願望の始まりは思春期以前にさかのぼる可能性があり、10歳前後からすでに形成されているとされています。
このため、教育現場や家庭において、早期から「体型に対する健全な認識」を育てる取り組みが不可欠です。
8. 看護学生に見られた特徴的な傾向
研究の調査対象であった看護系女子大学生は、健康に対する意識が一般の学生より高い傾向がありました。
そのため、「健康を損なうような過激なダイエット」は少ない一方で、
「緩やかで継続的なダイエット」を実践している割合が高かったのです。
この結果は、健康教育が自己効力感を高め、行動の質を変える可能性を示唆しています。
つまり、正しい知識が「無理のない努力」へと導くということです。
9. これからの課題と社会的アプローチ
研究者たちは、今後の課題として以下の点を挙げています。
- 看護学生だけでなく、一般大学生・社会人女性との比較が必要
- 痩せ願望の動機や強さが行動に与える影響を分析すること
- 定量調査に加え、心理的・社会的側面を掘り下げる質的研究の必要性
特に、家庭での親の行動が娘の健康行動に直結することを踏まえると、
親世代への健康教育もまた、若年女性の健全なダイエット行動を促す鍵になるでしょう。
10. まとめ:自己効力感を育てることが「安全なダイエット」の第一歩
研究から得られる最も重要な教訓は、
「痩せ願望を持っていても、自己効力感が高ければ健康的にダイエットできる」
という点です。
一方で、家族の影響や過去の嫌な体験が強いほど、
自己効力感が低下し、危険な行動に走るリスクが高まることも分かりました。
したがって、教育・家庭・社会が連携して、若者の「自分を信じる力」を育むことが、
過激なダイエットや摂食障害を防ぐための根本的な対策となります。
おわりに
あなたがダイエットを考えるとき、まず意識すべきは「痩せる方法」ではなく、「自分を信じられるかどうか」です。
正しい情報を得て、無理をせず、継続できる方法を選びましょう。
「痩せたい」ではなく、「健康でありたい」へと目標を変えることが、真の意味での成功の第一歩です。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
🟢 参考文献
溝口全子・松岡緑・西田真寿美(2000)「女子大学生のダイエット行動に及ぼす影響要因」日本看護科学会誌, 20(3), 92-102.
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