こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
~食生活と運動が骨の健康に与えるインパクト~
私たちの体に欠かせないミネラルのひとつに「リン(Phosphorus)」があります。リンは骨や歯を形成するうえでカルシウムとともに重要な役割を担っています。しかし近年、加工食品や清涼飲料水、インスタント食品などに多く含まれる「リン酸塩(食品添加物)」の摂取が増え、現代人は知らず知らずのうちにリンを過剰に摂っている傾向が指摘されています。
一方で、日本人のカルシウム摂取量は欧米諸国に比べて少なく、リンとカルシウムのバランスが崩れやすい状況にあります。この不均衡は、骨の健康や代謝に悪影響を与える可能性があることが研究で明らかになっています。
本記事では、リン過剰摂取が体に及ぼす影響、カルシウムとの関係、さらに「運動」が果たす役割について、専門的な研究を基に一般の方にも理解しやすい形で解説していきます。

リンとは何か?
リンは人体においてカルシウムに次いで多いミネラルで、その約85%は骨や歯に存在しています。残りは筋肉や神経、細胞膜、DNA など、生命活動に欠かせない場所に含まれています。
主な役割は以下のとおりです。
- 骨や歯の形成:カルシウムとリンが結合して「リン酸カルシウム」となり、骨の硬さをつくる。
- エネルギー代謝:ATP(アデノシン三リン酸)として、エネルギーの産生に関わる。
- 細胞機能の維持:細胞膜のリン脂質やDNA、RNA の構成要素。
つまりリンは生命維持に不可欠ですが、「摂りすぎ」が問題になります。
リンの過剰摂取がもたらすリスク
リンは通常の食品(魚、肉、乳製品など)から自然に摂取する分には問題ありません。しかし、食品添加物としてのリン酸塩は吸収率が非常に高く、短期間で血中リン濃度を上昇させてしまう点が懸念されています。
研究によると、リンを過剰に摂取すると以下のような影響が起こります:
- カルシウム吸収の阻害
腸管でのカルシウム吸収が妨げられ、結果として体内のカルシウム濃度が低下します。 - 骨量の減少と発育不全
血中カルシウムが不足すると、副甲状腺ホルモンが分泌され、骨からカルシウムを溶出して血液中に補う仕組みが働きます。これにより、骨密度が低下しやすくなります。 - 成長期への悪影響
ラットを用いた実験では、リン:カルシウム比が「2.5」と高い食事条件で骨の成長が抑制され、骨が細く弱くなることが確認されました。 - 生活習慣病リスクの上昇
骨だけでなく、血管の石灰化や腎臓への負担も報告されており、長期的には心血管疾患や腎疾患のリスク因子になる可能性があります。
食生活に潜むリンの落とし穴
現代人の食生活において、リンの過剰摂取を招く主な要因は「加工食品」です。
- ハム・ソーセージなどの加工肉
- インスタントラーメン、冷凍食品
- 菓子パン、スナック菓子
- コーラなどの炭酸飲料
これらには保存性や風味を高めるためにリン酸塩が添加されています。表示を確認すると「リン酸Na」「ピロリン酸」「ポリリン酸」などの形で記載されています。毎日の食生活で無意識に摂りすぎてしまうため注意が必要です。
運動が果たす役割
ここで注目すべきは「運動の効果」です。研究によれば、リン過剰摂取によって骨の発育が抑制される状況でも、ジャンプトレーニングのような運動を行うと、骨の太さ(骨幹部の短径・長径)が増加することが確認されています。
つまり、適度な運動は「リン過剰摂取によるマイナスの影響を部分的に打ち消す」可能性があるのです。
- 骨は「メカニカルストレス(物理的刺激)」によって強くなる
- 運動による刺激は、骨形成を促進し、骨密度の維持に寄与する
- 成長期や高齢期を問わず、運動は骨の健康に不可欠
特にジャンプやランニングなどの「衝撃を伴う運動」が骨形成に効果的とされています。
骨の健康を守るための生活習慣
では、リン過剰摂取を防ぎつつ骨を健康に保つためにはどうすればよいでしょうか。
- カルシウムを意識的に摂取する
牛乳・ヨーグルト・小魚・小松菜などを毎日の食事に取り入れる。 - 加工食品を控える
手作り料理や素材を生かした食事を中心に。食品表示をチェックする習慣をつけましょう。 - 運動を習慣化する
ジョギング、縄跳び、スクワットなど、骨に負荷を与える運動を週3回以上行う。 - 栄養バランスを意識する
リンやカルシウムだけでなく、ビタミンDやマグネシウムも骨代謝に重要です。
まとめ
リンは体に必要不可欠なミネラルですが、過剰摂取はカルシウムとのバランスを崩し、骨の発育不全や骨密度低下、さらには生活習慣病のリスクを高める要因になります。特に現代の食生活では、加工食品や清涼飲料からのリン摂取が多いため注意が必要です。
一方で、適度な運動はリン過剰摂取の悪影響を緩和し、骨を強く保つうえで大きな役割を果たします。食生活と運動、この両輪を整えることが、骨の健康を守る最良の方法だといえるでしょう。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
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- 厚生労働省. 国民健康・栄養調査結果(平成18~25年度).
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