【乳酸は“燃える”!?】細胞内乳酸シャトルの仕組みとは?

生理学
2026年1月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。

― 「乳酸はミトコンドリアで燃える」のか? 細胞内乳酸シャトルの謎 ―

「乳酸=疲労物質」
かつてスポーツ界で信じられていたこの常識は、今や完全に過去のものとなりました。

現在、乳酸は「エネルギーの再生利用」を象徴する物質として注目されています。今回は、乳酸が細胞内の発電所であるミトコンドリアとどのように関わっているのか、「細胞内乳酸シャトル(ILS)」という魅力的な仮説について解説します。

■ 乳酸を操る魔法の杖:乳酸脱水素酵素(LDH)

運動中に糖が分解されてできるピルビン酸。これを乳酸に変えたり、逆に乳酸をピルビン酸に戻したりするのが「乳酸脱水素酵素(LDH)」という酵素です。

LDHには大きく分けて2つのタイプがあります。

  • M型(骨格筋型 / LDH-5): 主にピルビン酸を乳酸に変える(速筋に多い)。
  • H型(心筋型 / LDH-1): 主に乳酸をピルビン酸に戻す(遅筋や心筋に多い)。

H型LDHが働くことで、乳酸は再びエネルギー源(ピルビン酸)として「燃える」準備が整います。

■ 新説:乳酸はそのままミトコンドリアへ入る?

これまでの定説では、「乳酸は一度細胞質でピルビン酸に戻ってからでないと、ミトコンドリアに入れない」と考えられてきました。
しかし、カリフォルニア大学のジョージ・ブルックス博士らが提唱した「細胞内乳酸シャトル」説は、その常識を覆しました。

「乳酸は、乳酸の姿のままミトコンドリアへ飛び込んでいる」

というのです。

■ 運び屋「MCT1」の存在

乳酸がミトコンドリアの膜を通過するためには、専用の扉が必要です。それが「MCT1(モノカルボン酸輸送体1)」です。

  1. 細胞質で発生した乳酸が、ミトコンドリア膜にあるMCT1を通って内部へ。
  2. ミトコンドリア内に存在するH型LDHが、乳酸をピルビン酸へ変換。
  3. そのままTCA回路(クエン酸回路)に取り込まれ、大量のATPを生み出す。

この一連の流れがスムーズに行われることで、乳酸は極めて効率的な「燃料」として再利用されます。

■ 科学界で続く「ミトコンドリア論争」

ただし、この理論には現在も科学者たちの間で熱い議論が交わされているポイントがあります。それは、「ミトコンドリアの内部(マトリックス)に、本当にLDHが存在するのか?」という点です。

  • 肯定派: 電子顕微鏡や特殊な染色法により、ミトコンドリア内にLDHを確認したと報告。
  • 慎重派: 「実験過程で細胞質のLDHが混入したのではないか」と疑義を呈し、ミトコンドリアの「外膜」にはあるが「内側」には存在しないと主張。

この決着はまだ完全にはついていません。しかし、「乳酸がミトコンドリア付近でエネルギーとして活用されている」という大枠の事実は、多くの研究者に支持されています。

■ まとめ:乳酸は「燃える」のを待っている

  • 乳酸はゴミではなく、再利用可能なハイブリッド燃料である。
  • MCT1という輸送体が、乳酸をミトコンドリアへ届ける鍵を握る。
  • 細胞内乳酸シャトルは、高強度運動時のエネルギー効率を最大化するシステムである。

「乳酸が溜まってきた」と感じるその瞬間、あなたの体の中では、ミトコンドリアがその乳酸をエネルギーに変えようとフル稼働しているかもしれません。乳酸は疲労の象徴ではなく、あなたが限界に挑んでいる証であり、それを支える貴重なエネルギー源なのです。

📚 引用・参考文献

  1. Brooks, G. A. (1998).Mammalian fuel utilization: presence of a mitochondrial lactate dehydrogenase complex. Journal of Physiology, 512(3), 619-619.
    • (細胞内乳酸シャトル仮説を深めた、ミトコンドリアLDHの存在を主張する論文)
  2. Brooks, G. A. (2009).Cell-cell and intracellular lactate shuttles. Journal of Physiology, 587(23), 5591-5600.
    • (乳酸シャトル理論の全体像をまとめた包括的レビュー)
  3. Sahlin, K., Fernström, M., & Passonneau, J. V. (2002).Is lactate a preferred substrate for mitochondria from skeletal muscle? Journal of Applied Physiology, 92(6), 2300-2305.
    • (ミトコンドリア内LDHの存在に慎重な立場をとる研究。科学的論争の代表例)
  4. Hashimoto, T., & Brooks, G. A. (2008).Mitochondrial lactate oxidation complex and an intracellular lactate shuttle. Histochemistry and Cell Biology, 130(2), 245-255.
    • (MCT1、CD147、LDHがミトコンドリアで複合体を形成しているという「Lactate Oxidation Complex」説の解説)
  5. 八田 秀雄 (2009). 『乳酸をどう活かすか ―運動生理学の新展開―』
    • (日本における乳酸研究の権威による、ILS仮説とLDH所在論争の平易な解説)

※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。

\ 最新情報をチェック /

著者
トレーナー育成講師

運動 × 栄養 × 体づくりの専門家
ブログ記事200本以上を執筆し、
正しい知識をわかりやすく発信中。

保有資格
・NESTA-PFT
・NSCA-CPT

経歴・活動
・Core&Calm(コアカーム)パーソナルジム経営
・パーソナルトレーナー
・リラクゼーションセラピスト
・トレーナー養成スクール講師
・トレーナーアカデミー講師
(年間500回以上の講義)
・転職キャリアアドバイザー

実績
・トレーナー300名以上育成
・SNS総フォロワー数 20,000人以上
・新R25に掲載実績あり
https://r25.jp/articles/928885030159646720

井上 裕司をフォローする
生理学
井上 裕司をフォローする
Core&Calm(コアカーム) パーソナルジム  蓮田店

コメント

PAGE TOP