こんにちは!
パーソナルトレーナーの井上です。
肩関節の自由な動きを支えているのは、腕の付け根だけではありません。体幹と腕を唯一つないでいる「鎖骨」と、その先にある「肩甲骨」の連動こそが、人体最大の可動域を生む鍵となります。
今回は、肩の土台を形作る3つの関節と、その緻密な動きについて解説します。
1. 胸鎖(きょうさ)関節:体幹と腕をつなぐ唯一の接点
胸鎖関節は、鎖骨の内側と胸骨をつなぐ、上肢で唯一の「骨性連結(骨同士の直接的なつながり)」です。
- 構造の特徴:
形状は「鞍(くら)関節」ですが、内部に関節円板(軟骨のクッション)が存在するため、実際には球関節のように全方向へ動くことができます。 - 強固なサポート:
前後の胸鎖靭帯や肋鎖(ろくさ)靭帯によって非常に強く固定されており、脱臼しにくい安定した構造をしています。 - 腕を180°外転させた時の鎖骨の動き:
- 後退:約30°(後ろへ引ける)
- 挙上:約7°(上へ上がる)
- 後方回旋:約33°(軸を中心に後ろへ回転する)
2. 肩鎖(けんさ)関節:肩甲骨の微調整を担う
鎖骨の外側と肩甲骨の肩峰(けんぽう)をつなぐ関節です。
- 構造の特徴:
「平面関節」と呼ばれ、肩甲骨が鎖骨に対して「滑る」ような繊細な動きをします。 - 腕を180°外転させた時の肩甲骨の動き:
鎖骨の動きに連動して、肩甲骨は鎖骨に対して以下の通り動きます。- 上方回旋:約22°
- 後傾(後ろに倒れる):約22°
- 内旋(内側にひねる):約15°
3. 肩鎖関節脱臼:スポーツ現場での注意点
コンタクトスポーツや転倒で肩の外側を強く打つと、この関節がダメージを受けます。
- 分類(重症度):
- Ⅰ度:肩鎖靭帯の「部分断裂」。
- Ⅱ度:肩鎖靭帯の「完全断裂」。
- Ⅲ度:肩鎖靭帯に加え、鎖骨を下に繋ぎ止めている「烏口鎖骨(うこうさこつ)靭帯」まで断裂。鎖骨の端がボコッと浮き上がる「階段状変形」が見られるようになります。
4. 肩甲骨の動き:2つの関節の「足し算」
肩甲骨が胸郭の上を自在に動けるのは、先述した「胸鎖関節」と「肩鎖関節」の両方が同時に動いているからです。
- 上方回旋(外側が上がる):
「鎖骨の挙上」+「肩鎖関節での上方回旋」の結果として起こります。 - 後傾(後ろに倒れる):
「鎖骨の後方回旋」+「肩鎖関節での後傾」の結果として起こります。 - 内旋・外旋の切り替わり:
腕を上げる初期には、安定を求めてわずかに「内旋」しますが、挙上角度が90°を超えると、スムーズな動きを確保するために「外旋」へと切り替わります。
5. 肩甲胸郭(きょうかく)関節:機能的な滑走面
厳密には骨同士が連結した関節ではありませんが、肩甲骨が胸郭(肋骨)の上を滑る「機能的な関節」として扱われます。
- 滑りのメカニズム:
肩甲骨の前面にある「肩甲下筋」と、肋骨側にある「前鋸筋(ぜんきょきん)」、そして「僧帽筋」などの筋肉同士が滑り合うことで、広い可動域を生み出しています。
ここが癒着したり筋肉が硬くなったりすると、いわゆる「肩甲骨が張り付いた状態」になり、肩全体の動きが著しく制限されます。
まとめ|指導者へのメッセージ
肩の動きが悪いクライアントに対して、肩の付け根(肩甲上腕関節)だけにアプローチしていませんか?
- 鎖骨はしっかり後方に回旋しているか?
- 肩甲骨は90°以降で適切に外旋に切り替わっているか?
- 前鋸筋や肩甲下筋の滑走性は保たれているか?
こうした「土台」の動きを評価できるようになると、指導の質は劇的に向上します。解剖学的な連携を意識して、安全で効果的な運動指導に役立ててください。
※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
【引用文献】
- Ludewig, P. M., et al. (2009). Three-dimensional clavicular motion during arm elevation: Reliability and descriptive data. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. (鎖骨の3次元的運動データ)
- Teece, R. M., et al. (2008). Scapular kinematics during arm elevation in hemiparetic and healthy individuals. Clinical Biomechanics.
- Neumann, D. A. 著「筋骨格系のキネシオロジー」: 胸鎖・肩鎖関節のバイオメカニクスの標準的教科書。
- Rockwood, C. A., et al. : 肩鎖関節脱臼の分類(Rockwood分類)。
コメント