こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
筋トレやスポーツをしていると、「筋肉の質が大事」「関節角度によって力が変わる」などと耳にすることがあります。
しかし、実際に筋肉の力(=筋力)は何によって決まるのか?を深く理解している人は意外と少ないかもしれません。
この記事では、筋力を左右する重要な3つの要素について、誰でもわかりやすく解説します。

筋線維の種類|遅筋と速筋、それぞれの特徴とは?
筋肉を構成する最小単位のひとつが「筋線維(きんせんい)」です。
筋線維には以下の2種類があり、それぞれの性質に違いがあります。
● 遅筋線維(タイプⅠ線維)
・収縮速度が遅い
・疲労しにくく、持久力に優れる
・主に「有酸素運動」で活躍
・赤みが強く、ミトコンドリアが多い
マラソンランナーや長距離運動で重要な筋線維です。
● 速筋線維(タイプⅡ線維)
・収縮速度が速い
・短時間で強い力を出せる
・疲労しやすい
・主に「無酸素運動」で活躍
さらに、速筋は以下の2つに分類されます。
・タイプⅡa線維
・解糖系(糖を使ってエネルギーをつくる)の能力が高い
・一定の酸素利用(酸化能力)や疲労耐性も備える
・短時間の持久運動や高強度運動に適応
・タイプⅡb線維
・収縮速度が非常に速く、瞬発的なパワーに特化
・疲労しやすく、持久性は低い
・短距離走や高重量筋トレなどで活躍
・タイプⅡc線維(中間型)
ごくわずかですが、タイプⅠとⅡaの中間的な性質をもつ「タイプⅡc線維」も存在します。
筋節の長さと張力の関係|力が最も出る長さとは?
筋肉は「筋節(サルコメア)」という単位の集合体でできています。
この筋節の長さによって、筋肉が発揮できる力(張力)が大きく変わります。
● オーバーラップと張力
筋節内では「アクチン(細いフィラメント)」と「ミオシン(太いフィラメント)」という2種類の構造が滑り込むようにして筋収縮を起こします。
この2つのオーバーラップ(重なり)が最も適切な長さのとき、最大の張力を発揮します。
この長さを「至適長(optimal length)」と呼びます。
● 伸びすぎ・縮みすぎに注意
・筋節が伸びすぎるとオーバーラップが減り、張力も低下
・筋節が短すぎてもフィラメント同士が重なりすぎて、やはり張力は低下
つまり、「筋肉が中くらいの長さ」のときが最も力を出しやすい状態というわけです。
● 受動的張力との関係
筋肉は、伸ばされると「ゴムのような張力=受動的張力」が働きます。
このため、筋節が伸びるほど収縮による張力は減りますが、受動的な張力が増えていくため、一定の力を維持できる仕組みになっています。
関節トルクとモーメントアーム|力の伝わり方を決める要因
筋肉が収縮して生まれた力は、腱を介して骨に伝わり、関節を動かす力となります。
このとき、筋肉の出した力そのものではなく、「関節を回転させる力」として表現されるのが関節トルク(joint torque)です。
● トルクを決める数式
関節トルク(T)は以下の式で表されます:
T = Ma × F
T:関節トルク
Ma(モーメントアーム):関節中心から筋の力の作用点までの距離
F:筋張力(筋肉が発揮している力)
● モーメントアームが大きいと有利?
同じ筋張力を発揮していても、モーメントアームが長い方が関節トルクは大きくなります。
つまり、腱の付着位置が遠いほど、より大きな回転力を生みやすいということになります。
このように、筋力テストで測定される力は「筋肉の純粋な収縮力」ではなく、「関節を介したトルク」である点にも注意が必要です。
まとめ|筋力は「筋肉の質×神経の制御×構造」で決まる
筋肉が発揮する力は、単に「鍛えたかどうか」だけではなく、
・筋線維の種類(遅筋 or 速筋)
・筋節の長さとオーバーラップ
・モーメントアームと関節角度
といった生理学的・構造的な要因が複雑に関係しています。
筋トレやリハビリ、スポーツ動作を科学的に捉えるためには、こうした背景知識が非常に重
要です。
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