こんにちは!
トレーナー育成講師の井上裕司です。
筋肥大を目指す人にとって、「どんなトレーニングをするか」は最大の関心事です。
ベンチプレスやスクワットのような基本種目はもちろん効果的ですが、近年、ボディビルダーやフィジーク選手の間で注目されているのがPOF法(Positions of Flexion)という理論です。
このPOF法は、筋肉を3つの異なるポジション(伸張位・中間位・収縮位)で刺激することにより、筋肥大の3大メカニズム「機械的張力」「筋損傷」「代謝ストレス」を網羅的に活用するアプローチです。

1. POF法とは?
POF法はアメリカのフィットネスライターであるスティーブ・ホルマン氏によって提唱されました。
従来のトレーニングでは「高重量で中間動作域を刺激する」ことが中心でしたが、POF法は動作範囲全体を3つのフェーズに分け、それぞれに特化した種目を組み合わせるという特徴があります。
1-1. 伸張位(Stretch Position)
筋肉が最も伸びた状態で負荷をかけるポジションです。
筋繊維を強くストレッチすることで筋損傷が起こりやすく、成長ホルモン分泌も促進されると考えられています。
- 胸(大胸筋):ダンベルフライ(フラット・インクライン)
- 上腕二頭筋:インクラインダンベルカール
- ハムストリングス:ルーマニアンデッドリフト
1-2. 中間位(Midrange Position)
筋肉が最も力を発揮できるポジションで、最大重量を扱いやすい位置です。
高重量を用いることで機械的張力を最大化し、筋肥大の基盤を作ります。
- 胸:バーベルベンチプレス
- 上腕二頭筋:バーベルカール
- 脚:スクワット
1-3. 収縮位(Contracted Position)
筋肉が最大限短縮しているポジションで負荷をかけ、乳酸蓄積と代謝ストレスを狙います。
筋細胞内の代謝産物の蓄積は筋肥大シグナルを強く刺激します。
- 胸:ケーブルクロスオーバー
- 上腕二頭筋:コンセントレーションカール
- ハムストリングス:レッグカール(ピーク収縮意識)
2. POF法が科学的に効果的な理由
POF法のメリットは、筋肥大の主要因を1つのワークアウト内で網羅できることです。
2-1. 機械的張力(Mechanical Tension)
中間位種目は高重量を扱えるため、筋繊維に強い張力を与えます。
機械的張力は筋肥大の最も重要な要因であり、mTOR経路の活性化を通じて筋タンパク合成を促進します。
⇩mTORについて詳しく
mTORとは何か?筋肥大の鍵を握る「分子スイッチ」の正体
2-2. 筋損傷(Muscle Damage)
伸張位での負荷は筋線維のZラインに強いストレスを与え、微細損傷を引き起こします。
Warnekeら(2022)の研究では、ストレッチを伴う負荷が筋肥大を顕著に促進することが示されています。
2-3. 代謝ストレス(Metabolic Stress)
収縮位種目は筋肉内の血流を一時的に制限し、乳酸や無機リン酸を蓄積させます。
これが細胞膨張(パンプ)を引き起こし、筋肥大シグナルを活性化します。
3. 実践プログラム例
POF法は部位ごとに伸張位・中間位・収縮位の順で行うのが基本です。
以下は胸と上腕二頭筋の例です。
胸(大胸筋)
- 中間位:バーベルベンチプレス 6〜8回 × 3セット
- 伸張位:インクラインダンベルフライ 8〜10回 × 3セット
- 収縮位:ケーブルクロスオーバー 12〜15回 × 3セット
上腕二頭筋
- 中間位:バーベルカール 6〜8回 × 3セット
- 伸張位:インクラインダンベルカール 8〜10回 × 3セット
- 収縮位:コンセントレーションカール 12〜15回 × 3セット
4. 最新研究とPOF法の親和性
近年の筋肥大研究は、多様な刺激の組み合わせが単一刺激よりも優れていることを支持しています。
- 異なる種目や動作範囲を取り入れた方が筋断面積の増加率が高い。
- ストレッチ種目が特に長期的な筋肥大に有効である。
- 代謝ストレスも筋肥大を引き起こす主要因の1つと位置づけ。
POF法は、これらのエビデンスを1つの理論に集約したようなアプローチです。
5. 実践時の注意点
- 初心者は中間位種目のフォーム習得を優先
- 各ポジションでオールアウトする場合は週の総ボリュームに注意(オーバートレーニング防止)
- 伸張位種目は筋損傷が大きいため、回復期間を十分に取る
- 中級者以上はPOF法を1〜2部位で導入し、全身で使う場合は週3〜4回が目安
6. まとめ
POF法(Positions of Flexion)は、筋肥大に必要な3つの要素を同時に狙える効率的なトレーニング理論です。
- 中間位 → 機械的張力
- 伸張位 → 筋損傷
- 収縮位 → 代謝ストレス
この組み合わせは、最新の筋生理学研究とも一致しており、特に中〜上級者のバルクアップに有効です。
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※本記事は、新R25に掲載された実績を持ち、トレーナー養成スクールの講師としても活動する井上裕司が監修しています。
健康・栄養・トレーニングに関する一般的な情報提供を目的としており、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。
体調や症状に不安がある方は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
- Warneke, K., et al. (2022). Stretch-mediated hypertrophy: Mechanisms and practical implications. European Journal of Sport Science, 22(5), 679–690.
- Schoenfeld, B. J. (2010). The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(10), 2857–2872.
- Morton, R. W., et al. (2016). Resistance training volume and muscle hypertrophy. Sports Medicine, 46(12), 1693–1705.
- Schoenfeld, B. J., et al. (2014). Is there a minimum intensity threshold for resistance training-induced hypertrophic adaptations? Sports Medicine, 44(6), 793–803.
- Ogasawara, R., et al. (2013). Comparison of muscle hypertrophy following 6-month of continuous and periodic strength training. European Journal of Applied Physiology, 113(4), 975–985.
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