⛰️高所トレーニングの「乳酸パラドックス」とは?

こんにちは!

パーソナルトレーナーの井上裕司です。

このブログは、パーソナルトレーナー・医療従事者・専門的に学びたい方を対象とした内容を発信しています。

~短距離スプリンターや競泳選手に効く理由~

「高所トレーニング」と聞くと、持久系の選手――マラソンや登山競技のイメージを持つ方が多いかもしれません。

ところが実際には、100mや200mといった短距離競技の選手たちにも積極的に取り入れられているのをご存じでしょうか?

その理由は単に「酸素運搬能力を高める」だけではありません。

じつは高所でのトレーニングが、“乳酸の出方”や“糖の使い方”にまで影響を与えることが、近年の研究で明らかになってきました。

今回は、あまり知られていない「乳酸パラドックス」という現象を中心に、短時間・高強度スポーツと高所トレーニングの関係性をわかりやすく解説していきます。

■ 高所でトレーニングすると「乳酸」が減る?

高所トレーニング(低酸素トレーニング)は、標高の高い地域などで行うことで、体にさまざまな変化をもたらします。

一般的に、酸素が少ない環境では「より多く乳酸ができる」と思われがちです。なぜなら、酸素が足りないときはエネルギーを“無酸素的”に作り出す必要があるからです。

ところが実際には、高所で運動すると乳酸の量がむしろ減ることが知られています。これは「乳酸パラドックス(Lactate Paradox)」と呼ばれています。

■ なぜ乳酸が減るのか?「糖分解の抑制」がポイント

この不思議な現象の背景には、「糖分解(解糖系)の抑制」があります。

通常、短時間で高強度の運動(例:競泳の100mや200m)をすると、体は大量のグルコース(糖)を一気に分解し、エネルギーを得ようとします。その副産物として乳酸が大量に発生します。

ところが、高所でのトレーニングを継続すると、この“過剰な糖分解”が抑えられるのです。つまり、酸素が少ない状態に適応する中で、体がエネルギーの使い方を少しずつ変えていきます。

■ 高所トレーニングの本当のメリット

これまで高所トレーニングといえば、ヘモグロビン(赤血球中の酸素を運ぶタンパク質)が増えて、酸素運搬能力が高まることが主なメリットとされてきました。

もちろんそれも大きな利点ですが、最近ではそれだけでなく、

「糖分解の使い方が上手になること」
「乳酸の発生をコントロールできるようになること」

も、高所トレーニングの重要な効果と考えられています。

■ レース後半の“失速”を防ぐ鍵とは?

短距離走や競泳などの高強度運動では、運動開始直後にエネルギーを一気に使いすぎてしまうことがあります。

その結果、

・乳酸が一気に増える

・クレアチンリン酸(瞬発力のエネルギー源)を使い切る

・後半にパフォーマンスがガクッと落ちる

といったことが起こります。

高所トレーニングによって、運動開始時の“糖の使いすぎ”を抑えられると、前半での消耗が抑えられ、後半まで粘りのある動きができる可能性が高まります。

■ 高強度運動では「糖の使い方」が勝負を分ける

ここで大切なのは、「糖分解は必要量だけ起こるのではなく、最初は過剰になりやすい」という点です。

この「過剰な糖分解」が、高強度運動におけるパフォーマンス低下の原因となることがあります。

つまり、酸素摂取量や持久力だけではなく、“糖と乳酸の代謝のコントロール”が、スプリンターや短距離系アスリートの成績に大きく影響するのです。

■ まとめ:酸素だけじゃない!糖代謝に注目したトレーニング

高所トレーニングは、「酸素運搬能力を高める」だけでなく、
「糖の使い方を最適化する」という隠れた効果もあります。

これにより、高強度の競技で“最後まで力を出し切る”ための戦略的エネルギー配分が可能になります。

📌 ポイントのおさらい

・高所では乳酸が減る=「乳酸パラドックス」

・糖分解の抑制がその原因

・高強度運動時の“エネルギーの出し方”が改善される

・持久力だけでなく、代謝のバランス改善も重要!

※本記事は、NSCA-CPT(全米ストレングス&コンディショニング協会認定パーソナルトレーナー)の資格を有する講師によって、科学的根拠と実務経験に基づいて執筆されています。

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