スポーツ遺伝子「ACTN3」とは?筋肉・パフォーマンス・トレーニング効果に与える影響とは
こんにちは!
パーソナルトレーナーの井上裕司です。
このブログは、パーソナルトレーナー・医療従事者・専門的に学びたい方を対象とした内容を発信しています。
~スポーツにおける「才能」と「遺伝子」~
「トップアスリートは生まれつきの才能がある」とよく言われますが、その根拠の一つに挙げられるのが「スポーツ遺伝子」です。中でも、筋力や瞬発力に関連することで知られるのが ACTN3遺伝子。
近年の遺伝子研究によって、このACTN3の型が 筋肉の構造やトレーニング効果に大きな影響を与えることが明らかになってきました。
本記事では、ACTN3の基本的な働きから、持久系・瞬発系アスリートとの関係、そしてトレーニング指導への応用まで、専門的かつ分かりやすく解説していきます。

ACTN3遺伝子とは?:アルファアクチニン-3の役割
ACTN3とは、筋肉細胞の中に存在するα-アクチニン-3(α-actinin-3)というタンパク質の設計図となる遺伝子です。
このタンパク質は、速筋線維(Type II筋線維)に特異的に存在し、筋収縮の際の構造的安定性やパワー発揮に関与しています。
3つのタイプ:RR型・RX型・XX型の違い
ACTN3遺伝子には以下の3つのタイプ(多型)があります:
RR型: α-アクチニン-3を正常に発現 瞬発系スポーツに有利
RX型: 部分的に発現 中間型(多様な適応)
XX型: 発現しない(欠損) 持久系スポーツに有利
XX型でも問題なし?
XX型(α-アクチニン-3を持たない人)は世界の約18%に見られ、特にアジア系では割合が高いことが知られています。
「持っていない=劣っている」わけではなく、筋肉の構造や代謝特性が持久系に最適化されていると考えられています。
ACTN3とスポーツパフォーマンス:どこまで影響するのか?
瞬発力とRR型
オーストラリアの研究では、短距離走選手にRR型が多いことが示されました。
100mやウエイトリフティングなどでは、α-アクチニン-3が筋肉の高速収縮をサポートし、高出力のパフォーマンスに寄与している可能性があります。
持久力とXX型
逆に、長距離走やトライアスロンの選手にはXX型の割合が高く、ミトコンドリア密度や脂肪酸代謝に優れた筋線維構造を持つ傾向があります。
トレーニング適応の違い
ACTN3型によって、トレーニングの効果や適応スピードに差が出るという報告もあります。
たとえば、RR型は筋肥大しやすく、XX型は有酸素性持久力の伸びが良いとされます。
トレーナー・コーチ向け:ACTN3の活用方法
遺伝子型によるプログラムの個別化
・RR型の選手 → HIITや高負荷トレーニングで爆発的な能力を引き出す
・XX型の選手 → LSD(長時間低強度)やテンポ走、有酸素基礎の強化
誤解のリスクとエビデンスの限界
ACTN3の型はあくまで傾向を示す指標であり、「XXだから短距離に向いていない」と断定すべきではありません。
環境・トレーニング・心理的要素が複雑に絡み合ってパフォーマンスが形成されます。
まとめ:ACTN3は「努力を活かすためのヒント」
ACTN3は、たしかにスポーツパフォーマンスの“傾向”を教えてくれる遺伝子ですが、それはスタート地点の違いにすぎません。
大切なのは、それをどう活かし、どのようにトレーニングや生活習慣を最適化していくかという視点です。
もしあなたが選手やトレーナー、あるいは保護者なら、「この遺伝子を持っているからダメ」と諦めるのではなく、「だからこそ、このやり方で伸ばせる」と前向きに捉えていきましょう。
※本記事は、NSCA-CPT(全米ストレングス&コンディショニング協会認定パーソナルトレーナー)の資格を有する講師によって、科学的根拠と実務経験に基づいて執筆されています。
引用・参考文献
North et al., 1999 / Yang et al., 2003 / MacArthur & North, 2007 / Pickering & Kiely, 2017 / Ma et al., 2013 他